ダイクーン
それはまるで宙に浮いているような奇妙な感覚だった。
レミューズは、周りを見回したが、
他の者を見ることが出来なかった。
声を出そうとしたが、それも叶わなかった。
この時、手を繋いだままであることを思い出した。
しかし、手を繋いでいる感覚はない。
確か左側にはバーバラが立っていたはずである。
レミューズは、恐る恐る左手を少し握ってみた。
それに応えるように、左手が握り返された。
確かにバーバラは存在している。
そう確信したときに、これが幻覚であることを理解した。
???:「我が子孫達よ、よくぞ参られた。」
声が聞こえた。
その声は、耳から聞こえるというよりも、直接頭に浮かんでくる
と言った方が正解かもしれない。
ルシード:「我が名は、ルシード。
ルシード王国の初代国王であり、
罪深き者の1人でもある。
この記録は、我々の罪に対する、
贖罪の一つとして記録するものだ。
さらに、巫女からの依頼でもある。
ここに来られたという事は、
魔獣王との戦いに向けての準備を整えている
最中であろう。
残念ながら、ここに答えは無い。
答えは自ら見つけなければならない。
しかし、残念に思うことは無い。
これから話す事は、答えにたどり着くための
道標になるのだ。
まず、全てを理解するためには、
『魔法都市ダイクーン』について語らねばなるまい。
そなた達の生きる時代が、我々の死後、
どのぐらいの年月が経っているかは分らないが、
この地にルシード国が残っているとして話をしよう。
ルシード国の下には、ダイクーンが眠っている。
ダイクーンは、巫女達の都市であったが、
遥か昔に魔獣の王によって滅ぼされた。
そして巫女の子孫達が、この地に建国を繰り返した。
我々の生まれし国は、魔法都市アーテと呼ばれ、
この国もまた、ダイクーンの上に存在した。
何故、ダイクーンの上に建国するのか?、
不思議に思う事だろう。
ダイクーンには巫女の神殿が存在しており、
巫女は、魔獣の王を倒すために絶対に必要な存在だ。
さらに、魔獣の王と戦うための様々な知識や道具が
眠っている。
魔獣をダイクーンに侵入させてはならない。
それらを守るために国を建てるのだ。
アーテもその中の1つでしかない。
しかし、長い戦いの中で巫女の子孫は、
次第に少なくなっていった。
さらに、巫女の血は薄まって行き、資格を持つものが
少なくなっていった。
この2つの問題を解決するために、
資格を持つ者のみを住まわせることを決断した。
これにより、巫女の血を濃くしようとしたのだ。
そして、資格を持たない者達を国から離れさせた。
しかし、アーテは彼等を見捨てたわけでは無い。
彼等の中から資格を持つ者が生まれる可能性が
残されていたからだ。
アーテは彼らに俸禄を与え、防衛の任を与えた。
彼等は、離れたところに拠点を作り移り住んだ。
これが、1つ目の罪だ。
結果論でしかないが、資格を持つものを
分散させるべきだったのだ。
アーテの住人は、ダイクーンから知識を得て、
様々な魔法を蘇らせた。
魔獣の王との戦いを繰り返すうちに、
極限近くまでに達した魔法都市になった。
その力は、魔獣の王に迫るものであった。
そのため、アーテの民は傲り高ぶっていた。
その傲りが災いを生んだ。
魔獣の城は我々の力に対し、鏡のように距離を置いて
現れる。
我々の力が弱い時には、遠くに。
我々の力が強い時には、近くに現れるのだ。
これが、何を意味するのかは解らない。
しかし、唯一言える事は、我々の力が大きくなれば
破滅へと近づいていると言える。
それは、過去の歴史も物語っている。
ダイクーンの上に建てられた国は、何度となく
破滅の道を歩んでいるのだ。
残念ながらアーテの消滅により、それらの記録は全て
失われてしまった。
ダイクーンから持ち出した記録を神殿以外の場所に
保管していたのだ。
残された物は、巫女の神殿と6つの魔法具、
そして、巫女の血脈のみだ。
しかし、血脈といってもそれは微々たるものだった。
真の血脈の者達は、アーテと共に散っていった。
これが、2つ目の罪だ。
ダイクーンで手に入れた記録は、ダイクーン以外に
保管してはならない。
長い年月を考えた時、それは消失を意味するからだ。
次に、魔獣の城が現れてからの話をしよう。
我々の生まれる1年程前に魔獣の城が現れた。
突然アーテは、魔獣に取り囲まれたのだ。
アーテには、多くの魔導士がいたが、国の中は結界が
張られており、魔法の力が制限されていた。
さらに、武器を持って戦える者が少なかったのだ。
アーテ以外の拠点も同時に攻撃を受けており、
援軍を要請することもままならなかった。
巫女の神殿への入口が奪われた後の侵攻は早かった。
瞬く間にアーテの大部分が奪われてしまったのだ。
しかし、人間も愚かではなかった。
ダイクーン遺跡に逃げ込み、反撃の機を伺った。
アーテの民は、過去の戦いの記録から、
魔獣の特性を得ていた。
まず、重要なことは、一般的な魔獣は
壺から生み出されるということだ。
一般的と言ったのは、壺から生み出されない魔獣も
存在しているからだ。
壺から生まれない魔獣は翼を持ち、
自由に移動できる。
翼を持つ魔獣のことを巫女は翼獣と呼んでいた。
この魔獣は任務を持っている。
それは、偵察と壺の再設置だ。
これらの区別は簡単にできる。
大人程の大きさの翼獣が偵察で、
子供程の大きさの翼獣が再設置だ。
不思議なことに、一度偵察を行った地域には
再度偵察に来ないのだ。
壺が設置されていない地域を発見すると、
翼獣は、その地域の敵対勢力を排除しようとする。
排除が完了すると、壺を設置するのだ。
そして、壺を探し出し封印する日々が続いた。
一進一退の攻防を繰り返しながら、
巫女の神殿の入口までを取り返した。
これには、15年の歳月を要した。
しかし、それ以上は困難を極めた。
壺の回収と壺の再設置が拮抗してしまったためだ。
大軍を率いて魔獣の城を攻め、もし敗れた場合は、
我らは全てを失う事になる。
少数精鋭で魔獣の王の討伐を行う以外の方法は無いと
結論付けた。
この方法は、過去の記録から見ても正しい
選択だろう。
そして、武術・魔法大会を定期的に開催し、
その中から討伐隊を結成することが行われた。
我らの居住地区は、ダイクーン遺跡の中にあった。
そこで、メリクリウス、ローゼス、ガダラルの3人と
出会ったのだ。
我とローゼス、ガラダルは、当時では貴重な
剣術の道を歩んだ。
メリクリウスは、魔術の道を進んだ。
そして、10歳の時、魔獣の王討伐を誓った。
各自は日々精進を怠らず勤しんだ。
我々が16歳になったとき、メリクリウスは、
使命があると告げ、姿を消した。
三月程たったのちに、メリクリウスは戻ってきた。
彼は、2人の巫女と6つの魔法具を手に入れていた。
メリクリウスは、この件に関しては、
自分がベンヌの守護者である事のみを告げ、
それ以外の事については多くを語らなかった。
彼の語った事で残さねばならない言葉が1つだけある。
それは、
「魔獣の王を倒す為には、
2人の巫女とベンヌの守護者が必ず必要となる。」
ということだ。
これは後に、身をもって体験した。
2人の巫女は、1人は炎の巫女、もう1人は氷の巫女と
紹介された。
巫女達は、記憶を失っていたが、
次第に思い出していたようである。
ようであると言うのは、
巫女も多くを語らなかった為だ。
炎の巫女は、出会った時、子を身ごもっていた。
そして、一月後に女児を授かった。
それから三月後に、巫女達は女児と共に姿を消した。
巫女達が再び我らの前に現れた時、
女児を連れてはいなかった。
巫女達が姿を消している間、メリクリウスは
魔法具を調べていた。
残念ながら、アーテでは同じ物を作り上げるほどの
能力はなかった。
六つの魔法具は、剣が二振、大鎌が一挺、
大鎚が一挺、杖が一杖、
水差しが1口であったが、
これらには呼び名が無かった。
そのため、メリクリウスはその属性から呼び名を
つけていった。
渦雷の剣、この剣は雷属性であり、
攻撃を受けた者の動きを止める。
業火の剣、この剣は火属性であり、
刀身に炎を纏い攻撃した相手に、
炎による負傷を与える。
大地の鎚、この鎚は土属性であり、
硬さを無視し、その芯を破壊する。
疾風の大鎌、この鎌は風属性であり、
刃に風を纏いかまいたちのごとく、
相手を切り刻む。
大樹の杖、この杖は木属性であり、
再使用に難あるも、大樹の生命力により
瞬時に傷を治す力をもつ。
大河の水差、この水差しは水属性であり、
近くにいる者の生命力を高める。
さらに清める効果により、
限定的であるが解呪の能力を持つ。
魔法具は、それぞれの適性により振り分けた。
我は、渦雷の剣。
ローゼスは、大地の鎚。
ガダラルは、疾風の大鎌。
メリクリウスは、大樹の杖。
炎の巫女は、業火の剣。
氷の巫女は、大河の水差。
巫女達と、これらの魔法具のおかげで、
我々は次の討伐隊に任命された。
そして運命の日がやってきた。」
C:「お待たせしました。」
A:「ところで、遺跡の名前は、ダイクーンっていうんですね。
どこかで聞いたような名前ですね。」
C:「キャスバル王子とアルテイシア王女ですからね。」
A:「???」




