秘密の部屋3
連合暦20年7月12日
サールは、朝から他の魔導士達と共に黙々と本の吟味を
行っていた。
その中には、レミューズとキャスバル王子の姿はなかった。
しかし、2人がいないことに多少の疑問を感じながらも
特にそれには触れずに作業を続け、1日を終えた。
連合暦20年7月13日
サールは、昨日と同じく他の魔導士達と本の吟味を行っていた。
この時サールは、何かが起きているのではないかと考えていた。
魔導士の中に、レミューズ、キャスバル王子だけでなく、
ドレアル、バーバラの姿もなかったからだ。
しかし、その疑問を振り払うように黙々と作業を続けていった。
しばらくして、部屋に手に箱のようなものを持った、数人の
魔導士達が入ってきた。
それに気がつくと、魔導士達とその箱を観察した。
再調査の本の移動用の箱としては、あまりにも箱は小さく、
1冊の本しか入らないような大きさだった。
彼等は、再調査が必要とされる本の中を選別した上で箱に収め、
そして、箱を持って部屋から出て行った。
サールは、様々な推測を行ったが、その意味が解らなかった。
疑問は、疑問を呼び、憶測へと変わっていった。
連合暦20年7月14日,朝
魔導士達はいつもと同じ部屋に集まり、いつもと同じ作業を
行っていた。
サールもその中の1人であった。
今日もレミューズ、キャスバル王子、ドレアル、バーバラの姿は
無かった。
しかし、今日は昨日と違った。
しばらくして、バーバラが現れたのだ。
サールは、バーバラに気が付き挨拶をした。
サール:「おはようございます。」
バーバラ:「おはよう。」
サールは、バーバラが座るのをまってから、質問した。
サール:「あの、ちょっと聞いていいですか?」
バーバラ:「なんだ?」
サールは、キャスバル王子、レミューズ、ドレアルがいない事、
そして、魔導士達の行動を説明し、何かが起こっているのでは
ないかという疑問をぶつけた。
バーバラ:「なるほどな、、、」
バーバラは、すこし間を置くときっぱりとした声で言った。
バーバラ:「その件は、忘れろ!!」
サールは、とっさに答えた。
サール:「えっ、何故ですか?」
その言葉を発した瞬間、その質問をした自分を呪った。
バーバラの顔が少し歪んでいるのが判った。
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サールは、長期に渡りバーバラと行動を共にしてきたが、
バーバラは、理由も無く強要することは無かった。
必ず、その裏には理由が存在していた。
その理由を話せない場合のみ、この様な発言をするのだ。
バーバラは、常日頃その事を幾度となく繰り返し言っていた。
知る必要が無いという事は、知ってはいけないという事だと。
しかし、それだけの事で自分を呪うことは無いだろう。
最も重要なのは、バーバラは、気が短いということだった。
魔導士は、聡明であるがゆえに冷静であり、思慮深いという
イメージがあるが、実際には、そのようなことはない。
バーバラ自身も短気を治すために、レミューズに挑発する態度を
とるように依頼したほどである。
これは、バーバラ本人から聞いた事でもある。
人間の持つ精神体は、常に体から放出されている。
放出量は、その人の総量とその時の精神状態によって変化する。
精神状態が正常でない場合、その量は増大してしまう。
魔導士は、精神体の無駄な放出をコントロールするために、
常に冷静でなければならないのだ。
放出された精神体は、通常の人の場合は、そのまま拡散されて
しまうのだが、魔導士の場合はそうではない。
魔導士は放出される精神体を一点に集中する訓練を行っている。
放出される精神体が纏まっていなければ、その威力は激減する。
それを避けるための訓練というわけだ。
これは、繰り返し訓練することによって、無意識に行えるまで
続けられる。
優秀な魔導士であればあるほど、その能力も高い。
同じ魔法でも威力に差が現れるのはこのためでもある。
これらは、魔法の発動方法に関係している。
魔法を発動するには、精神体の
放出(呪文)>集約(訓練)>発動(呪文)
の順で行われる。
初期呪文で、強引に精神体を放出させ、それを1点に集中する。
そして、その精神体を使って魔法を発動するのだ。
バーバラが、魔獣王城に入り、魔獣の最上級魔法を上級魔法と
間違えた理由の1つもこれにある。
元々精神体である魔獣の精神体総量を人間の尺度で推測して
しまったが故の誤りであった。
これは、放出魔法が総量に対する割合で発動する魔法だからだ。
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サールは、下におろしているバーバラの右手の辺りを凝視した。
手の周りが陽炎のように揺らいでいる。
並みの魔導士では、肉眼で認識できるような現象は起きない
だろう。
バーバラの精神体総量が人間離れしていると言っても
過言ではない。
呪文を発動しなければ、問題は無いことはわかってはいるが、
通常会話で発声される可能性は0ではないのだ。
過去には、精神体総量のきわめて多い一般人が突然
全身火だるまになり、焼死する事故まで起こっている。
いくら都市が魔法障壁(*1)で囲われているとはいえ、これほどの
精神体で魔法が発動すれば、近くにいる者は只では済まない
だろう。
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そう考えた時、サールの顔がみるみる青ざめてゆく。
そのとき、突然声がかけられた。
レミューズ:「バーバラ、何をやっている!!」
この声にバーバラは、ハッとした。
そして、右手周りの揺らめきが治まった。
サールが、レミューズの方を見ると、レミューズ以外に
キャスバル王子とドレアルが立っていた。
バーバラ:「終わったのか?」
レミューズ:「あぁ、ドレアル師匠の腕のおかげだ。」
ドレアル:「いやいや、封印の魔法は、2人でも可能じゃろ。
年寄に華を持たせてくれただけじゃよ。」
バーバラ:「そんなことはありません。
封印は、師匠が第一人者ではありませんか。」
レミューズ:「その通りです。」
ドレアル:「いやいや、それは過去の話じゃよ。」
話の腰を折るように、サールが割り込んだ。
サール:「あのー、封印ってなんですか?」
ドレアル:「あぁ、そうじゃったの。
レミューズ、何度も済まんが、これまでの事を
話してもらえんかの。
わしらも、全てを把握しているわけではないからの。」
キャスバル王子:「これ以上の話は、別の場所でお願いします。」
ドレアル:「そうじゃな。守りにはいくら時間をかけても無駄には
ならんからの。」
そして、場所を移動してからレミューズが話始めた。
レミューズ:「ここへ来て最初の夜の事だ。
私は真実の目の副作用で、魔法に敏感に
なっていた。
寝ていた私は、突然の魔法の発動に目を覚ました。
何事かと思い、真実の目を発動させると、天に
向かって1本の柱の様に残留魔塵が伸びていた。
しばらくして、その柱は消え失せた。
この件を王子様に報告した後に、一緒に魔法の
発生地点の調査を行った。
サールも知っているだろうが、あの風の精霊文字と
思われる本が発生源だった。
さらに、複数の本からも魔法が発動したと思われる
痕跡が残っていた。
次の日から同様な魔法の品が存在しないか、
他の階も含めて調査を始めた。
ドレアル師匠とバーバラには、事情を説明した上で
封印の儀式の準備を頼んだ。」
ドレアル:「3日目から、わしらが居なかったのはその為じゃよ。」
サール:「なるほど、それで、、、。」
バーバラ:「さて、そろそろ、教えてくれないか?
あの本がどんな魔法を発動していたのかを。」
レミューズ:「そうだな。
本の調査が完了していない為、あくまでも
推測でしかないが、あの本に書かれているのは
転移の魔法の派生だろう。
そして、その他の本に書かれてるのは、
記憶の魔法の派生だろうな。」
バーバラ:「なるほど、情報収集目的か。」
サール:「えっ、どういうことですか?」
バーバラ:「つまり、その他の本で情報収集し、あの本で、
その記憶をどこかに送っていると考えているのだな。」
レミューズ:「その通りだ。
そのため、封印の儀式が終わるまで、詳しく説明
出来なかったという事だ。」
ドレアル:「さて、一体何者がそのような事をやったのかだが。」
レミューズ:「残念ながら、誰かは判りません。
しかし可能性のある人物は1人だけ思い当たる。」
このとき、キャスバル王子を除く4人は、同じ名前を思い出した。
そう、『ゼロス』の名前を、、、。
キャスバル王子:「レミューズ、思い当たる人物とは誰だ?」
レミューズ:「『ゼロス』と名乗る人物です。」
キャスバル王子:「何者なのだ?」
レミューズは、ゼロスとの経緯を説明した。
キャスバル王子:「なんと、そのような者がいるのか。」
ドレアル:「残念じゃが、やつの所在は全くわからんのじゃよ。
今回の件で方角だけでもわからんのかの?」
レミューズ:「残念ですが、さすがに方角までは、、、。」
ドレアル:「残念じゃのぉー。」
*1:魔法障壁
読んで字のごとく魔法を防ぐ壁であるが、
それは、魔法を発動している精神体を引き離す働きがある。
厚みを持つ魔法障壁の中を魔法が通過するときに、
燃料でもある精神体を引き離す事により、魔法の威力や
効果時間を減少させる。
ちなみに都市で発動している魔法障壁は、壁でなく空間である。
それは、まるで壁の中に都市が存在するという形で形成される。
A:「お久しぶりです。」
C:「お久しぶりです。
今回から、注釈を使うようです。
小説では、使いたくなかったらしいのですが、
番外編で説明するというのも?なので、
使わせてもらうということです。」
A:「単に、小説にするのが面倒なだけでは?」
C:「そんなことはないと信じたいですね。」




