ズールの来訪
連合暦20年6月18日、
ノーム:「合格だ。」
その言葉を聞いたパインは、心底ほっとした。
そして、「はい。」と答えると、そのままへたり込んでしまった。
後ろでは、アリスとシロが喜んでいた。
アリス:「やったー。やったー。やったー。」
シロ:「にゃーん。」
残念なことに、パインには、その声は届いていなかった。
パインは、ぐったりとして、そのまま倒れ込んだ。
アリス:「パイン!!」
アリスは、そう言ってパインに近づく。
ノームがそれを止めた。
ノーム:「召喚士なら分かるだろ。
初めて僕を召喚した時の事。
それと同じだ。」
アリスは、あの時の強烈な眠気を思い出し、そして安心した。
ノーム:「余程、疲れたのだろう。」
ノームは、何かの呪文を唱える。
パインがゆっくりと浮き上がり、
ノームと一緒に2階へと移動していった。
アリスとシロもそのあとを追った。
2階は、廊下を挟んで、4つの扉があった。
手前の1つは、ノームと書かれた板が貼ってあった。
ノームが反対側の扉を開けると、パインが滑るように
部屋の中へと入って行く。
部屋の中は、それほど広くはないが、ベッドと小さな机が
置かれていた。
ベッドの上にパインがゆっくりと降ろされる。
ノーム:「静かに寝かせておこう。
さて、アリスには重要な話がある。
下に降りてもらえないだろうか?」
ノームの真剣な顔に、その話が重要であることが分かった。
アリス:「はい。わかりました。」
2人は、1階に降りると、階段の下の壁ぎわへと移動した。
そこは、何の変哲もないただの壁だった。
その壁にノームが触れると一瞬のうちに壁が消え失せた。
そして、何事もなかったように中へと入ってゆく。
アリスもそのあとに続く。
そこは、小さな部屋だった。
真ん中に四角いテーブルがあり、
四方に4つの椅子が置かれている。
テーブルの上には、魔法陣が描かれていた。
アリスは、魔法陣については知らなかったが、
密談をする部屋なのだろうと思っていた。
シロ:「外に音が聞こえなくなる魔法陣にゃ。」
アリス:「やっぱり。」
ノームが入り口側の椅子に座り、アリスは奥に座った。
ノーム:「さて、
召喚士には話しておかなければならないことがある。」
アリス:「なんでしょうか?」
シロ:「あれを話すかにゃ?」
ノーム:「そうだ、あの件についての話だ。
シヴァ様を召喚したときに全てわかることだが、
心の準備が必要なのだ。
今がその時だと、俺は思う。」
シロ:「わかったにゃ。シヴァ様に確認をとるにゃ。」
ノーム:「うむ、頼んだ。」
しばらくしてシロが口を開いた。
シロ:「シヴァ様の許可がおりたにゃ。
但し、パインには、まだ話してはいけないにゃ。」
ノーム:「分かっている。ここのでの話は、他の者には、
話さないようにしてくれ。」
アリス:「わかりました。」
それから、アリスはにわかに信じられないような話を
次々と聞かされた。
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パインは夢を見ていた。
しかし、その夢は今までの夢とは違っていた。
「パイン、何処にいるの。
私はここよ、ここに来て。」
その声は今までとは違い、はっきりと分かった。
それは優しく、そして神々しかった。
そのような感覚にとらわれていると、
真実の声・言葉がうかんできた。
「契約せし者よ、いずこにおるのか。
我はここぞ、我の元へと集え。」
その時、初めて理解した。
シロがアリスの好きなものになって現れたことを。
シロが痛いのが嫌だと言っていた事も。
自分の聞きたい声や言葉で理解しているということを。
精神体の声は、直接頭に語り掛けてくるのだ。
思いや概念が重要なのであって声質や言葉など意味がない。
理解した途端、あまりにも神々しい感覚が自分を包み込んだ。
そして、次に続く言葉が浮かんできた。
「契約せし者よ、待っておったぞ。
我が意思を受け入れるのだ、
真実を知り、己の使命を全うするのだ。」
パインは、「使命」という言葉が気になった。
あの玉に触れた事によるものなのか?
それともアリスと同じ血の契約によるものなのか?
様々な考えが渦巻く。
そのとき、その考えに応えるかのように思いが伝わってきた。
そして、それが頭に浮かぶ。
「汝のそれは血の契約にあらず。
拒むならば、受け入れる必要はない。
受け入れるならば、我の元へ集うのだ。」
パインは、このとき思った。
ベンヌで倒せないならば、人間は滅びるだろうと。
そして、ベンヌに従うこと、受け入れることを決めたのだった。
連合暦20年6月19日、
そして、目が覚めた。
ベッドの横には、椅子に腰かけたまま眠っているアリスがいた。
パイン:(夜通し付き添ってくれたのか。)
パインがアリスの顔を覗き込む。
アリス:「んがががががっ!!、すぴーーーーっ」
パイン:「ぷっ、わっはっはっはっ。」
その笑い声にビクッと体を揺らしアリスが目を覚ました。
アリス:「!!?」
眠そうな目をこすりながらアリスがこちらを見る。
アリス:「あっ、パイン、おはよう。気が付いたんだ。」
パイン:「決めたよ。絶対にベンヌの所へ行く。」
アリスは、一瞬にっこりと笑顔を見せたが、
すぐに真剣な顔になり言った。
アリス:「うん、そうだね。
そうじゃなければ、パインじゃないよ。」
パイン:「あぁ、その通りだ。」
パインは、アリスの顔が何時に無く真剣だったことが
少し気になった。
パインとアリスが一階へ降りると、笑顔のノームが朝食の
支度を行っていた。
コゴーロは、朝から真っ赤な顔をして気持ちよさそうだった。
ノーム:「おぅ、目が覚めたか。
まあ、朝食でもとって、ゆっくりしておけ。
これからが大変だからな。」
パインとアリスが席に座ると、ノームが反対の席に座り、
話を始めた。
ノーム:「食べながら聞いてくれ。
ズールが来た時の事を見せてやろう。」
ノームの身体が霧のように変わってゆく。
そして、2人を覆いつくしていった。
2人に見えているのは、目の前の食事ぐらいだった。
ノーム:(そう、あれは100年ほど前の事だった。
彼等は、お前達と同じように忽然と現れた。)
次の瞬間、目の前の霧が晴れた。
それを見た瞬間、2人は直感した。
これは、ノームの記憶なのだと。
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ノームが日課の作業をしていると突然背後に人の気配を感じた。
気配のする方向に振り向きながら言った。
ノーム:「何者だ?」
そこには、1人の中年の男と1人の少女が立っていた。
男の方は見るからに貴族と思える恰好をしていた。
男は一礼をすると話始めた。
???:「突然の来訪、お許し願いたい。
私の名は、ズール。
そして、娘のシェリルです。」
シェリルは、無言のままペコッと頭を下げた。
そして、ズールの後ろへと隠れてしまった。
ズール:「あなたが、ノーム殿ですな。」
ノーム:「ほう、俺を知っているのか。
ならば、ここが何処か知っているということだな。」
ズール:「はい。ノーム殿の主に目通りを頼みたいのです。」
ノーム:「お前は守るものでも契約者でも召喚士でも
ないのだろう?」
ズール:「はい、その通りです。」
ノーム:「ならば、無理な話だ。
しかし、どうやって結界の中に入ったのだ。
この結界には資格を持つもの以外入れぬはずだ。」
ズールは、懐にしまってあった1枚の羊皮紙を取り出した。
ノーム:「それはなんだ?」
ズールは、黙ってノームに差し出す。
それを受け取ると内容を読み始めた。
ノームがこの地に現れる前の戦いについて書かれていた。
そして、この地を訪れる為の方法も。
最後に書かれた署名を見てノームは納得した。
そこに書かれていた名前は、メリクリウスだったのだ。
ノーム:「なるほど、ここに来れた理由はわかった。
しかし、これをどうやって手に入れた?」
ズールは無言のまま左腕を上に持ち上げる。
袖口が下がり手首が見えるようになった。
そこには、金属であろう腕輪がはめられていた。
ノーム:「なるほど、誓いの腕輪か。
ならば仕方があるまい。
話を変えるとしよう。
ところで、ベンヌ様と何を話そうというのだ?」
ズールは一瞬、話すことをためらったが、意を決し話始めた。
ズール:「彼の者が目覚めました。」
ノーム:「なんだと!!
目覚めるまでには、まだ時間があるはずだ。
貴様、何故それを知っている。」
ノームの右手に突然剣が出現した。
ズールは、それを見ても眉一つ動かさなかった。
ズール:「私が目覚めさせてしまったのです。」
ノーム:「なんと...。
この羊皮紙も、そこで手に入れたのだろう。
彼の者は無事なのか?」
ズール:「はい。
ある貴族が保護しています。」
ノーム:「そうか、わかった。
彼の者が目覚めたとなると、あの者も
目覚めたに違いない。
困ったことになったものだ。
時の魔法を使うには記憶の封印が必要なのだ。
早すぎる目覚めでは、それも解かれていないはず。
うむ、それで、あのお方にも会ったのだな。」
ズールは黙っている。
ノーム:「それで、誓いの腕輪を着けたというわけか。
その娘、いや、やめておこう。
腕輪がある限り、答えられるはずもないな。
さて、それだけのために来たわけではあるまい。」
ズール:「はい。」
ズールは、腰の剣を外すと、ノームに見せた。
ノーム:「この剣を契約者に託そうというわけだな。」
ズール:「はい。」
ノームの右手から剣が消え失せた。
ノーム:「なるほど、よく考えたものだ。
この剣ならば、あの魔法をも
止める事ができそうだ。
よし、ベンヌ様に話を取り次ごう。
お会いになるかは分らぬがな。」
この時、ズールはここに来て初めての笑顔を見せた。
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2人の目の前の物が次第に薄くなって行く。
そして目の前が霧で真っ白になった後、
それも、徐々に消えていった。
視界がはっきりとした時には、椅子に座った時と
何ら変わらなかった。
目の前には、笑顔のノームが座っていた。
ノーム:「そして、ズールはベンヌ様に会うことができた。
俺はその場に居なかったので、どんな話をされたのかは
分からないがな。
ズール殿は帰るときに、こう言っていた。」
『我、知るが故に、事を成す。』
C:お久しぶりです。
A:久しぶりすぎませんか?
C:作者も色々と忙しく、時間が取れないのです。
A:まあ、言い訳はいいとして、
彼の者って、アンジェラの事ですよね?
C:話の流れ的には、そうだろうね。
A:メリクリウスもアンジェラに関わっているんですね?
C:遥か昔にあった魔獣王との戦いにアンジェラと
メリクリウスが関わっていたのは確かだろうな。
どのように関わっていたかは今は分からないけれどね。




