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魔獣の壺 - 本編 -  作者: 夢之中
ベンヌの住まう山
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カルラドの王子

連合暦20年6月18日、


レミューズは屋敷に着くなり、ジェイルの知り合いの王子との

謁見指示を出していた

カルラド王ではなく王子との謁見はレミューズの考えによるもの

だった。

ポールの行動は迅速だった。

その日のうちに明日の昼前の謁見を取り付けてきた。

屋敷で一泊すると次の日の朝、2人して食事を楽しんでいた。


レミューズ:「ところで、謁見できる王子とは、誰なんだ?」

ジェイル:「はい、第三王位継承権を持つ

     エッグ・スクランブル王子です。」

レミューズ:「んっ?、スクランブル?

      エッグ・カルラドではないのか?」

ジェイル:「カルラドの姓を使えるのは、第一王位継承権を

     持つ者だけです。

     その他の者は、母の性を名乗るのがこの国の伝統

     なのです。」

レミューズ:「なるほど。」

ジェイル:「ところで、何故、カルラド王との謁見ではなく、

     王子との謁見なのでしょうか?

     たとえカルラド王との面識が無かったとしても、

     カイン王の使者であれば謁見できると思うのですが。」

レミューズは、その質問に黙ってしまった。

そして、目を閉じると、何かを考えているような顔をする。

ジェイルは、レミューズの顔色を窺う。

しばらくして、レミューズが目を開けると想像していなかった

事を話し始めた。

レミューズ:「うむ、今回の件は、公にしたくはないのだよ。

      王との謁見は、その家臣にも情報が流れる。」

ジェイル:「そこまでしなければいけない理由とはなんですか?」

レミューズ:「まだ、私の憶測でしかないことなので、

      まだ話すわけにはいかない。

      場合によっては、王の名を汚すことになる

      可能性があるのだ。」

ジェイル:「王の名を汚す?」

レミューズ:「まあ、今は知る必要はない。

      もし、私の予想が当たっているのなら、

      いずれわかるときがくるだろう。」

ジェイル:「そうですか、わかりました。」

ジェイルは、釈然としない気持ちを抑えると食事を続けた。


食事が終わるとポールがレミューズの前に現れた。

ポール:「お召し物のご用意ができております。」

そういって頭を垂れる。


レミューズ:「お召し物?

      あぁ、確かに、王族との謁見にこの服はまずいな。

      心配り感謝する。」

ポール:「滅相もない。執事として当然のことです。

    それでは、こちらへおいで下さい。」

そして、レミューズを衣裳部屋へと案内する。


衣裳部屋には、何着かのフード付きのローブが用意されていた。

白地に金糸で刺繍された、ローブ。

黒地に金糸で刺繍された、ローブ。

紫地に金糸で刺繍された、ローブ。

いずれも、高位の魔導士が身に着けるローブであった。

一般的に神聖魔導士は、白。

精霊魔導士は、黒を好んで使用していた。

また金糸の刺繍は、高位である魔導士のステータス的な

ものだった。


レミューズは、その中から紫のローブを選んだ。

特に理由があったわけではないが、賢者という立場に

一番しっくりくる色だと思ったのだ。

レミューズは、紫のローブを身に着けるとフードを目深にかぶり

部屋から出た。

そこには、真っ赤な地に紫糸の刺繍が入ったローブを

身に着けたジェイルがいた。

レミューズは、一瞬なにか言いたげな顔をしたが、

特になにも言わなかった。

赤のローブは、マスターではないものの、

とりまとめ役の色だったのだ。

修行中の魔導士は、灰色を使うのが一般的であった。

ジェイルは、赤を選んだことで、レミューズの怒りを買うかと

ひやひやだったが、何も言わないレミューズを見ると、

ほっと胸をなでおろした。


レミューズ:「それでは、向かうとするか。」

そして2人は屋敷を後にし、王宮へと馬車で向かった。


王宮に到着すると既に連絡が入ってたのであろう。

門番が丁重に王子との謁見の場所に案内してくれた。

その部屋は、広くはないものの、中央にはテーブルが置かれ、

壁には絵画が飾られていた。

中央のテーブルの真ん中には、小さな魔法陣が描かれていた。

レミューズには、その魔法陣が音を遮断するであろうことが

一見してわかった。

レミューズ:「なるほど、密談用の部屋というわけか。」

その言葉でジェイルもそれを理解した。

そして、門番に勧められるまま椅子に座ると、

王子の到着をまった。

門番が部屋を後にし、しばらくすると、エッグ王子が

執事と思われる者を引き連れて部屋に入ってきた。

レミューズとジェイルは、椅子から立ち上がり、

丁重に頭を垂れた。

レミューズは、フードを深々とかぶったままだった。


エッグ王子は、ニコニコとした笑顔をしながら言った。

エッグ王子:「ジェイル、久しぶりだな。」

ジェイル:「エッグ王子様、お久しぶりでございます。」

エッグ王子:「おいおい、私とお前の仲じゃないか。

      昔の様に無礼講でいこう。」

ジェイル:「王子がそうおっしゃるなら、そうしましょう。」

ジェイルが悪ガキっぽくニヤッと笑った。


エッグ王子:「ところで、そちらの御仁は?」

そういって、レミューズの方を見る。


ジェイル:「こちらの方は、、、」

そう言いかけた時、エッグ王子が驚くような顔をした。

反射的にジェイルはレミューズの方を見ると、

フードをめくりあげ、顔をさらしていた。


エッグ王子:「マスターレミューズ、、、」

レミューズ:「まさか、私の事をご存じとは。」

エッグ王子は、すぐに執事を呼ぶと何かを指示した。

その後、執事は、慌てるように部屋を後にした。

エッグ王子は、扉の横に立ち、目をつむり、

何か考えているような恰好で静止している。

ジェイルは、一体なにが起こっているのか不安でならなかった。

話し出すものは誰もおらず、室内は凍り付いたように

静まりかえっていた。


どのぐらいの時間がたったのだろう。

突然、部屋の扉が開いた。

入ってきたのは、なんとドレアルだった。


ジェイル:(えっ、天馬の尻尾亭の爺さんじゃないか?)

レミューズがドレアルの方へと歩みを進める。

ジェイルも後に続いた。

レミューズはドレアルの前に立つと、じっと見つめる。


レミューズ:「マスタードレアル、お久しぶりです。」

そう言って、頭を下げた。

ジェイルもそれに倣う。


ドレアル:「うむ、レミューズ、久しぶりじゃの。

     おぬしがバーバラと共に修行をしていたのが、

     昨日のことのように思い出されるわい。」

その言葉に、ジェイルが驚いた。

ジェイル:「えっ、爺さんって、師匠の師匠なんですか?」

レミューズ:「なんだ、マスターを知っているのか?」

ジェイルの頭の中にドレアルに対して行った無礼な態度の

数々が走馬灯のように流れていった。


ドレアル:「うむ、ジェイルだな。気にするでない、昔の話だ。」

レミューズはドレアルとジェイルを交互に見ると

一言だけ言った。

レミューズ:「その話は、後程聞かせてもらおう。」

その言葉にジェイルの顔がみるみる青ざめてゆくのがわかった。


レミューズ:「マスタードレアルがここに来られるということは、

      カルラドの川が汚染された件に関わったという

      事ですね。」

ドレアル:「そうじゃ、あの時の指揮をとったのはわしじゃ。」

そして、ドレアルは、当時の事を思い出すように話し出した。


-----


連合暦前1年1月初旬


それは、ごく少数の護衛兵の間でささやかれるようになった。

王宮内に、異臭が漂っているという話だった。

最初は誰も気にも留めなかったが、1月の中頃には、

大半の者が異臭を実感していた。

そして、その日が訪れた。

王宮で使用している水がどす黒く変色したのだ。

事態を重く見た国王は、その原因を突き止めるため、

当時の大臣にその任を与えた。


大臣は、王宮魔導士と共にその原因の調査を開始した。

そして、その原因が王宮の地下からきていることを突き止めた。

王宮地下の奥深くには、カルラド川の源流となる地底湖が

あることは、国の歴史書からも判明していた。

そう、カルラド城は、山の一部を切り取る形で建築されていた。

元々は、山の洞窟から川が流れており、その洞窟の補強として

行った工事であった。

しかし、その補強工事後の外観があまりにも壮観だったため、

当時の国王が王宮の一部として組み込んだものだった。

王宮の地下には、今では封鎖されているが、地底湖へと続く

通路も建築されていた。


大臣と宮廷魔導士は調査隊を結成し、複数人の護衛を連れて

地底湖の調査へと向かった。

次の日、調査から戻ったのは血まみれになった宮廷魔導士1人

のみであった。

宮廷魔導士の話では、地底湖へと続く地下道には、ゾンビが

多量に発生しているとのことだった。


連合暦前1年2月初旬

国王は、ゾンビの件を伏せて国外に魔導士の応援を求めた。

それに応えるように数多くの魔導士がカルラドへと集まった。

その中の1人に当時最高のマスターと呼ばれたドレアルがいた。

国王は、ドレアルにすべてを託した。


連合暦前1年2月16日

ドレアルの部隊が地下道へと入る日、国王との謁見が行われた。

そして、1つの箱と羊皮紙が手渡された。

羊皮紙は、箱の中に入っていたものだそうだ。

国王の話によると、昨日、ザイム国より来た商人の妻がこれを

持ち込んだとのことだった。

商人の妻の話では、先祖から受けついだ家宝の品だそうだ。

そして、カルラドの水が濁るときにこれを王宮に納めるようにと

言い伝えられていたことを告げた。

ドレアルは、羊皮紙に目を通した。

そこには、「カルラドの水濁るとき、氷の女王が我を求めるまで

我を眠りにつかせよ。」

と書かれていた。

さらに箱の中身が、大河の水差しであることが書かれていた。

そして、署名されていた名前は、ズールであった。


ドレアルの部隊は、ゾンビを倒しながら地下道を進み、地底湖に

到着すると、湖の畔に大河の水差しを奉納する祠を作り、

それを納めた。

そして水路へ続く通路を封印した。


-----


これがドレアルの話した内容であった。


A:お待たせしました。

  どうやら、大河の水差の探索が始まりそうですね。

  でも、王の名を汚すって、どんなことなんでしょう?

  名誉とか名声とかそんなことですかね?

C:そうですね。

  公になると、何かしら不名誉な事が起きると考えるのが

  一般的でしょうね。

  次回以降に探索が始まるらしいので、

  すぐ判明しそうですが。

A:そうですか、期待しないで待ちます。


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