ベンヌの伝承
連合暦20年6月18日、
パイン達は、カイン王国についてすぐ謁見を済ませ、
カイン王国で一泊することになった。
結局、カイン王との謁見では、報告のみで新しい事は何もなく、
引き続きベンヌの指輪の捜索ということだった。
そして、カルラドの天馬の尻尾亭へと戻った。
ドレアル:「おう、どうだった?楽しかったか?」
パイン:「いえ、遊びに行ったわけではないので、、、。」
ドレアル:「そうじゃ、コゴーロという爺さんがお前さん達に
会いに来たぞ。
なんでも、宝を受け取りに来いと言っておったな。」
サール:「あぁーーっ、そんなことがありましたね。
すっかり忘れてましたよ。」
パイン:「あぁ、そうだった。
もう、そんなに時間がたったんだ。
ベンヌの指輪の情報も無いし、宝の事も気になるし、
会いに行ってみようか。」
アリス:「はーい」
シェリル:「コゴーロさんというのは、誰なんですか?」
パイン:「そうか、シェリルは、会ってないんだよな。」
パインがコゴーロの依頼の件について説明した後、
全員そろって、カルラドのコゴーロの家へと向かった。
カルラドの住居には、コゴーロはいなかった。
仕方なく、郊外の家の方へと向かった。
コゴーロの家に着くと、やっと来たかという顔をしながら、
出迎えてくれた。
コゴーロは、前にあった時よりも老けているように見えた。
コゴーロ:「さーて、パインさんだったかのー?」
パイン:「はい、そうですが。」
コゴーロ:「悔いのない2ヶ月は、過ごせたかのう?」
パイン:「ちょっと待ってくださいよ。
なんか、これから死ぬみたいじゃないですか?」
コゴーロ:「そうじゃの、たぶん大丈夫じゃと思うがの、
運が悪かったら、死ぬかもしれんの。」
パイン:「えっ、怖い事言わないでくださいよ、
一体どういう意味ですか?」
コゴーロ:「さーて、どこから話そうかの。
そうじゃ、お前さん達の中に召喚士がおるじゃろ?」
アリス:「えっ、なんでわかるんですか?」
コゴーロは、アリスを見た。
コゴーロ:「お前さんが、召喚士じゃな。」
アリス:「はい、そうですけど。」
コゴーロ:「そうか、やはり、あの予言は
間違っていなかったという事か。」
サール:「えっ、予言ですか?」
コゴーロ:「そうじゃ、我が家に伝わるズールの予言じゃよ。」
一同は、ズールという言葉に驚いた。
パインは、皆を見回すと、コゴーロに質問した。
パイン:「ズールだって。
一体どんな予言なんですか?」
コゴーロ:「さーて、どこから話そうかのう。」
パイン:「まず、あなたが何者で、
どうしてズールを知っているのか。
そして、どんな予言だったのか、
全部教えてくれませんか?」
コゴーロ:「そうか、聞きたいか。
時間がかかるが、いいかのう?」
パインは、皆をみて、うなずいているのを確認して言った。
パイン:「えぇ、構いません。すべて教えてください。」
コゴーロ:「そうか、そうか、聞いてくれるか。
よろしい、では、全て話そうかのう。」
コゴーロは、両目を閉じ、何か思い出そうという動きを見せた。
パイン達は、コゴーロが話し出すのを黙って待っていた。
しばらく待ったが、コゴーロの話が始まらない。
その時、コゴーロが音を発した。
コゴーロ:「ズズズズズ、グガァー。」
パイン:「えっ、まさか、寝てる?」
サール:「そのようですね。」
パイン:「しょうがないな。」
そう言ってパインは、コゴーロをそっと揺り動かす。
コゴーロ:「んっ?、お前さん達はだれじゃ?」
パイン:「宝を受け取りに来たんですよ。」
コゴーロ:「おぉ、そうじゃった、そうじゃった。
さーて、どこから話そうかのう。」
アリス:「んもーーーっ、何回同じこと繰り返すのよ。」
突然の発言にアリスが切れた。
パイン:「アリス、落ち着け。」
パインがアリスをなだめている間、
サールがコゴーロと話しを始めた。
サール:「あなたは、何者なんですか?」
コゴーロ:「わしか?わしは、ノワン・ハルバールじゃ。」
一瞬の沈黙の後、サールは、絶叫した。
サール:「ウッキー!!、、、ノワンですって!!!」
サールは興奮のあまり、コゴーロの両肩を掴み前後に
揺さぶった。
サールの絶叫に驚いたパインが、サールの方を見ると、
すでに意識のないコゴーロを前後に揺さぶるサールが見えた。
すぐにパインがサールを止めにはいった。
サールが落ち着きを取り戻し、コゴーロとノワンが同一人物で
あることを告げたとき、コゴーロも意識を取り戻した。
コゴーロ:「何をするんじゃ、か弱い老人を殺す気か。」
シュンとするサールを横目に、自分達がノワンを探していた事を
説明する。
コゴーロ:「なるほど、ならば話は早いの。
わしが、お前さん達が探していたノワンじゃ。」
パイン:「色々と伺いたい事があります。」
コゴーロ:「色々と聞きたいこともあるじゃろうが、
まずは、私の話を聞け。」
そう言って、コゴーロは、話し始めた。
それは、ベンヌに関わる伝承であった。
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はるか昔、初めて魔獣王が現れた頃、人間と精霊は同じ世界に
共存していた。
魔獣王率いる魔獣王軍は、人間と精霊を滅ぼす勢いで破壊を
もたらしていた。
それに対抗するため、人間と精霊は手を組み混成軍を結成する。
そして、魔獣王軍に対抗していった。
しかし、圧倒的な戦力差の前に壊滅寸前まで追い込まれていた。
苦戦を強いられる混成軍は、精霊から幻獣を味方につける案が
提案され幾人かの人間がその任を負うことになった。
そのうちの1人がノワン先祖であるキターゼだった。
キターゼ一行は、幻獣の住まう山に向かい、そして苦闘の末
幻獣達と契約を結ぶ事に成功した。
幻獣達を味方につけた混成軍は、幻獣の圧倒的なまでの力に
よって魔獣王軍を押し返すことに成功した。
そして、ついに魔獣王城まで到達し、魔獣王を倒すことに
成功した。
その時突然、空に巨大な渦巻きが発生した。
そして、その渦のなかに次々と幻獣達が吸い込まれていった。
1匹の幻獣が鳥に姿を変え、渦の淵から飛び去って行ったのを
キターゼは見逃さなかった。
この幻獣こそがベンヌであり、キターゼと契約を結んだ
幻獣だった。
契約により、ベンヌと意識を繋いでいたキターゼは、このときに
キターゼ:「ベンヌは、人間界に残ることを決めた。
その代償として、永遠の命を捨てることとなった。
もう、召喚することは出来ない。
しかし、契約は生きている。
新たなる契約方法は、、、。」
と言っていたと伝え聞く。
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コゴーロ:「わしが伝え聞いた話は、こんな内容じゃ。」
サール:「そうですか、ベンヌは元は幻獣だったのですね。」
コゴーロ:「そうじゃな。
そして、幻獣を捨てたということじゃ。
ところで、パインさんじゃったか。」
パイン:「はい。」
コゴーロ:「おぬし、変な夢をみんか?」
パイン:「えっ!!」
パインには心当たりがあった。
そう、真っ暗闇の中、聞き取れないほどのか細い声の夢。
毎晩のように見るようになった夢は、他の誰のものでもなく
自分の夢だと確信している。
そういえば、あの玉を触ってから見るようになった気がする。
パイン:「はい、見ます。」
コゴーロ:「そうか、見るか。」
コゴーロは、ニコニコしながら話をつづけた。
コゴーロ:「それは、ベンヌと契約できた証じゃ。」
パイン:「えっ、契約ですって。
そんな一方的な契約なんですか?」
コゴーロ:「いや、契約というよりも、仮契約と言った方が
しっくりくるかの。
ベンヌと話しができる権利とも言うかの。」
サール:「なるほど、もともと精神体の幻獣と会話するには、
精神をつなげなければならない。
あの玉に触れないと精神をつなげる事ができないと
いう事ですか。」
コゴーロ:「難しい事は分からんが、そんなところじゃろ。
あの玉は、ベンヌがくれたものを、わしの祖先が
あの場所に設置したものじゃ。
それは、契約を子孫に繋げるためでもあるんじゃ。
ベンヌが幻獣をやめた時、血の契約が反故にされ、
この契約方法になったんじゃよ。
そして、あの玉に触れる事が最初の条件じゃ。」
パインは、このとき思った。
パイン:(もしかして、悔い残らないようにの意味って、
死ぬかもしれない試練ってことか?)
サール:「最初ってことは、まだあるってことですよね?」
コゴーロ:「色々とあるが、まあ、その話は後にするかの。」
パイン:「ちょっと待ってください。」
コゴーロ:「なんじゃ?」
パイン:「もしかして、触るのは誰でもよかったんですか?」
コゴーロ:「そういうことになるな。」
パイン:「ガーン!!、、、俺って、不運かも、、、。」
コゴーロ:「いや、そんなことは無い。
契約できれば、問題ないことじゃ。」
パイン:「いや、そういう意味では、、、。」
しょぼくれるパインをよそにサールが質問する。
サール:「どうして、ベンヌを守る者は契約をしないんですか?」
コゴーロ:「ベンヌを守るものが契約に失敗して
死んでしまったら、守る者がいなくなってしまう
じゃろ。」
パインが、ボソッとつぶやいた。
パイン:「やっぱり、不幸だは、、、。」
パインは、さらに落ち込んだ。
コゴーロ:「いや、いまのは、冗談じゃ。
理由は分からんが、キターゼの血筋の者は、
ベンヌと契約できないのじゃ。」
サール:「なるほど、
幻獣だったころのベンヌと契約しているため、
契約できないということか。
再契約というよりも、新契約になるってことですね。」
コゴーロ:「うむ、それが正しいかは分からんが、
わしも意見も同じじゃ。」
少し沈黙があったのち、コゴーロが話をつづけた。
コゴーロ:「さて、ここまでで質問が無いようなら、
次にすすんでよいかのう。」
サール:「はい、お願いします。」
A:「おぉ、ついに第3章突入ですね。」
C:「そうなんですよ。
今回は、章タイトル通り、ベンヌに関する話みたいです。」
A:「ベンヌって、フェニックスのモデルになった
エジプト神話の霊鳥のことですよね?」
C:「そうみたいですね。」
A:「RPGとかよくやるんですが、フェニックスとか火の鳥とか
出てきますが、ベンヌって出てきませんよね。」
C:「音的に、日本人には、ぱっとしない発音だからかも。」
A:「たしかに、なんか強そうな気がしませんね。」




