新たなる決意
静かな音楽が流れる中、パインとサールは困惑していた。
テーブルの上には、複数のフォークとナイフ、スプーン
そして、皿が並べられていた。
アリスは、席の仕度が始まる前に退室しており、
聞こうと思ってもそれは叶わなかった。
パイン:((何故フォークやナイフが複数あるんだ?))
サール:((たぶん、料理が1品毎に複数回くるのですよ。
それ毎に交換するんだと思いますよ。))
パイン:((なんで、そんな面倒くさい事するんだ?))
サール:((他の料理に味が移らないようにするためだと。))
パイン:((そんなの、舐めちゃえば一緒だろ。))
サール:((舐めるは、マナー違反ですよ。))
パイン:((で、どういう順番で使えばいいんだ?))
サール:((いえ、残念ながら、分かりません。
他の人のを見てから同じのを使いましょう。))
パイン:((いや、それは、無理じゃないか?
席の並びを見てみろよ。))
サールが、辺りを見回すと。
長いテーブルの遥か奥に、主人とその家族用と思われる、
食器類が、そして中間辺りにテーブルを挟むように、
2セットの食器類が配置されていた。
中間辺りの席には、ジェイルが座っていた。
サール:((確かに、ここからじゃ、どれを使ったのか
わかりませんね。))
その時、突然奥の扉が開き、主人と思われる人物を先頭に
複数の人が入ってきた。
パインは、その中にアリスを確認でき、ほっとしていた。
サール:((あっ、あれは、マスターバーバラ。))
パインも目を凝らしてそれを見る。
その時、アリスの声が響き渡った。
アリス:「この席は、どういうこと?!!」
アリスは、明らかに不機嫌な顔をしていた。
そして、クラウスを呼び、何か指示しているようだった。
その後、メイド達がせわしく動き始める。
パイン:((アリスは何を怒っているんだ?))
サール:((よくわかりませんが、
たぶん席の並びに意味があるんじゃないですか?))
メイド達がパインの横にやってくると、パインの隣に食器類が
配置され始めた。
頬を膨らませたアリスがこちらに歩いてくる。
パイン:((やばいな、怒ってるよ。))
サール:((えぇ、これ以上不機嫌にならないように
我々も気をつけましょう。))
パイン:((あぁ、そうだな。))
しかし、パインの横に来ると、2人の予想を裏切るように、
ニッコリと微笑んで優雅に席に座った。
そして、全員が席に着くと、主人が話し始めた。
この時、サールは1つの疑問を持った。
サール:(これほど離れていながら、声が鮮明に聞こえる。
これは、魔法なのか?
それとも建物の構造なのか?
あとで聞いてみるか。)
サールらしい疑問だった。
主人の話は、今までに知りえた情報とそれほど変わらない内容
だった。
しかし、新たな情報も含まれていた。
アリスが5歳の時から、不思議な夢を見たと話すようになった
ということだった。
子供のいう事でもあり、内容が良く分からないものだったため、
特に何もしなかったが、その頃からアリスの周りで事故が
発生するようになった。
この事故によって、ローゼス財団についてのことを思い出した。
ローゼス公爵の莫大な財産を管理運用している財団であり、
シュルトス家も代々この財団へ出資していた。
父からアンジェラの子孫に危害を加えようとしている者が
いるということは聞いていたが、今までそのような事が起こって
いなかったため、その件については忘れていたのだ。
そして、財団のトップと話す機会を得た。
最初はこの件についての情報は得られなかったが、
別の者を紹介され、その者と接触することができた。
そして、驚くべき事を教えられた。
アンジェラの子孫は、常に狙われているということだった。
アリスの母も子供の頃に何度か襲われていたようだった。
しかし、それは未然に阻止され、誰も知ることが無かった。
そして、ある時を境に襲われることは無くなると言う。
その理由については教えてもらえなかった。
それ以降、この者と会うことは叶わなかった。
私はアリスの身を案じ、屋敷の外へ出すことを禁じた。
父親:「そして、アリスが傭兵試験を受けたいと言ったとき、
私は猛反対した。
そして、それを阻止するために、
ちょっとした小細工をした。
もちろん、アリスに危害が加わらないように、、、。
しかし、予想外のことがおきた。
1匹の魔獣が通路を通過できてしまったんだ。」
サール:((えっ、それって、まさか、、、傭兵試験?))
パール:((そうだ、あの時じゃないか。))
2人:((犯人は、父親だったのか、、、。))
父親:「この件については、私も反省している。
壺の選定を誤ってしまった。」
パイン:((おいおい。))
サール:((反省するところは、そこですか?))
2人は突っ込みどころ満載のその話を黙って聞いていた。
アリスを見ると、うつむいて頭を抱えていた。
父親:「残念ながら、傭兵試験に合格してしまったため、
なんとか、アリスを連れ戻すための計画を練った。
当然、アリスの監視も引き続き行った。
そして、あの引ったくり犯人を倒し。
今回、アリスを連れ戻したというわけです。
アリスには、もうここを出てもらいたくないのです。
これ以上危険なまねをさせたくはありません。」
バーバラ:「そうですか、傭兵試験の件については、
別途、話を伺いましょう。
ご息女の件ですが、本人の意思を尊重されたほうが
良いのではないでしょうか?」
アリスの父親が立ち上がると、大声をあげた。
父親:「なんですとーーっ!!
マスターバーバラとあろうものが、そのような発言を
されるとは、、、。
カイン王に直接話をさせてもらいましょう。」
アリス:「もう、やめてーーーっ!!。」
アリスの声で、父親が凍りつく。
アリス:「お父様、この際はっきりと言わせて貰います。
魔獣王が現れてからというもの、
世界は酷い状況にあります。
お父様もご存知ですよね?
父親:「当然だ。」
アリス:「それに対してお父様は、何をしたのですか?」
父親:「なにを言っているのだ。
魔獣王討伐のために莫大な資産をつぎ込んでいるぞ。」
アリス:「では、伺います。
その資産で魔獣王を倒せたのですか?」
父親:「何をいいたい?
出来ておらぬから、今も魔獣がいるのだろ。」
アリス:「では、お父様は、今どこにいますか?」
父親:「ここにいるではないか、一体何が言いたいのだ?」
アリス:「これまで、魔獣王討伐は何回も行われています。
そして、今も魔獣王討伐は続いています。
これが、どういうことか、分かりますか?」
父親:「・・・。」
アリス:「お金だけでは、それは叶わないのです。
権力を持っていても、それは叶わないのです。
魔獣王討伐に向かい、
多くの兵士や傭兵が亡くなっているのです。
それはこれからも続くでしょう。
魔獣王討伐に行かなければ解決しないのです。
誰かがやらなくてはならないのです。」
父親:「それが、お前だというのか?」
アリス:「私は召喚士として選ばれました。
これは、何かの導きだと思っています。
そして仲間と共に、魔獣王を倒せと言っているのだと
考えています。」
父親:「なんということだ。」
そう言うと、頭を抱え、その場に崩れ落ちた。
母親がクラウスを呼び、そして連れて行った。
母親は、アリスに「自分の信じる道を進みなさい。」と言うと
部屋を後にした。
突然の拍手が部屋に鳴り響いた。
それはジェイルの拍手だった。
ジェイル:「アリス、今の言葉、感銘したよ。」
パインがジェイルを見ると、彼は涙を流していた。
ジェイルにも思うところがあったのだろう。
そして、彼は話を続けた。
ジェイル:「頼みがある。
その討伐に私も加えてほしい。」
アリス:「えっ?」
パイン:「なんだって?」
ジェイル:「私も、世界を平和にするために、
魔獣王の討伐を夢見ている。
そのための努力は惜しんでいない。
これからもだ。
どうだ、連れて行ってくれないか?」
アリスがパインを見る。
パインは、アリスと目が合うと頷いた。
アリス:「分かったわ、一緒に魔獣王を倒しましょう。」
パイン、アリス、ジェイルの3人は、集まり、
手を取り合って、これからの事を話し出した。
サールは、その中に身を置けない自分が悲しかった。
自分は、職務で参加してるのであり、仲間ではないことを。
魔獣王討伐に参加することは出来ないということを。
それを見ていたバーバラが口を開いた。
バーバラ:「サール、今回のお前の処罰を言い渡す、
傭兵協会員としての職を免ずる。
一緒に魔獣王を倒して来い。」
サール:「えっ?」
サールは、その意味を理解すると、「分かりました。」と答えた。
こうして、4人は新たなる決意と共に、魔獣王討伐を夢見て
歩みだすことになった。
4人の前に続く道は果てしなく遠いことだろう。
しかし、彼等はその志と共にゆっくりと歩んで行くのだった。
C:「お付き合いいただいた読者の方々には
作者に代わって、お礼申し上げます。
ありがとうございました。
A:「ありが㌧。」
C:「前回の告知通り、第1章はこれでおしまいです。
誤字脱字とか、時系列的におかしいんじゃね、
とかありましたら、遠慮なく突っ込んでください。」
A:「1章は、アリス編ということですよね。
アリスがらみの不明点も大体判明しているようですが、
まだ、分からないことが残っていますね。」
C:「次章以降で、おいおい分かってゆくみたいです。」
A:「ところで、パーティも4人に増えましたが、
パーティメンバーは最大6人じゃなかったですか?」
C:「そうです。」
A:「ということは、あと2人増えるんですかね?」
C:「増えるらしいとだけ言っておきます。」
A:「どんな人が参加するのか期待しないでまちますかね。」




