高価格には理由有り
机の上に、明滅草を中心にして種類毎に薬草を並べていくベティア。そして、それを見て何故か目を爛々と輝かせるペルシフィニー。
とてつもなく輝いたその瞳を見て、シャスは背筋に冷汗が伝うのを感じた。
(ひぃ~!何か眩しいオーラが増してるんですが…!?)
一人戦線恐々とするシャスをよそにベティアは話を切り出した。
「まず、ニーヘルの料金が金貨八十枚ね。」
「うぇ!?」
まだ、大金を受け取る覚悟すら出来ていないのに、想定金額を遥かに上回る金額を告げられたシャスは思わず奇声を発してしまう。
そんなシャスを見てランドルは笑いながら告げる。
「やっぱ低かったか?」
「な!なに言ってるんですか~!逆です!高すぎますよ~。相場は一株金貨三枚なんじゃ無かったんですか~!?せめて金貨四十五枚で許して下さい~!!」
何とも買い手と売り手の関係が逆転したちぐはぐな価格交渉を訴えるシャス。
そして、そんなシャスの言い分に呆れたようにベティアは突っ込みを入れた。
「貴女ねぇ。金貨三枚って言うのは最低相場よ。貴女の持つニーヘルはどう見ても高品質な物なのよ。此れでも相当低く見積もってるんだからね!後、ちゃっかり株数を減らして計算するんじゃありません!!二十株ある事は確認済みよ!」
「う゛…。」
うっかり流されてくれないかなあと内心思っていたシャスは、そろそろと目を泳がせた。そのまま彼女は、何とか価格を下げれないかと思考をフル稼働させる。しかし、無情にも更なる追い討ちが襲いかかるのであった。
「で、次に此れ。循魔草は十株で金貨五枚ね。」
「え!?それはおまけですよ。それにゼルガスタはそんな高く無いですよね?」
おまけ、と言うよりは、渡した薬草がニーヘルだとバレないように混入した薬草に迄値段を付けられて焦るシャス。更にゼルガスタに付けられた値段は相場よりも相当高いように見受けられた。
ゼルガスタは下級魔力薬の原料である。この世界の生物は、個々で保有量の差はあれど、全て魔力を持って生まれる。その中で魔力薬を必要とするのは、主に魔術を行使出来る者だけであるが、魔力の少ない人間も、生活魔道具を使う際の補給として、ゼルガスタの葉を良く利用するのだ。
その為、有用植物としてそれなりの価値は付くが、珍しい植物では無い為、市場にも広く出回っている。
因みにこのゼルガスタは、良い価格で売れそうな物を探す為に、シャスが知識検索をした植物の中でも、様々な時代・場所で売られている場面が検索出来た植物の一つである。
実際、シャスがダーラフェルナ自由市を見て回った際にも、ゼルガスタが販売されているのを確認した。
ゼルガスタは、一株に五十枚~百枚程の小さな葉をつける植物で、市では葉っぱ一枚で木貨一枚前後の価格で売られていた。つまり、一株に百枚葉がついている計算だとしても、十株では木貨千枚、換算すると銀貨十枚程の価格である筈だ。
(金貨五枚って五十倍の価格だよ~!?)
物凄く納得がいってない表情の顔のシャスに、ランドルは何かピンと来たらしく、一つ頷いた。
「あ~。成る程。お嬢ちゃんはゼルガスタの葉を直接利用した事無いだろ。通常より魔力保有量の多い人間は大技連発しない限り、あんまり魔力薬が必要にならないみたいだしな。」
「ああ。確かにそうね。そもそも高魔力保有者にとって葉そのままの回復量は本当に微々たる物だものね。」
「成る程~。それに、高魔力保有者は自然回復力も高い方が多いですから、魔力薬自体利用した事が無いかもしれませんね。」
「??え、えーと?」
いきなり納得しだした三名に着いていけないシャス。そんなシャスにペルシフィニーは、一枚の乾燥した葉を取り出した。
「此れは、ゼルガスタを乾燥させた物です。どうぞ、かじって見て下さい。」
「わかりました。」
ペルシフィニーに促されたシャスは、ゼルガスタの葉をひと欠片かじり、咀嚼した。
「!?…甘苦い?」
口に広がる甘さと後まで残る苦さを感じ微妙な顔をするシャス。そんなシャスを生暖かい目で見ながら、ベティアはシャスが用意したゼルガスタの葉を一枚取り手渡した。
「次は此方をかじってみて。」
「は、はい。」
シャスは葉を受け取り、恐る恐る口に入れ噛みしめる。
「!?」
そこに広がったのは、優しい、しかし確りとした甘味と爽快感。例えるならミントキャンディーのような、スーッとした甘さである。
余りの味の違いに、驚愕を隠せないシャス。乾燥させると苦味が増すのだろうかと、一人考察にふける。そんなシャスに三人は説明を始めた。
「ふふふ。その様子だと、大分味が違ったようですね。」
「ゼルガスタは、魔力を多く含む程、甘味が強いのよ。魔力が少ないと甘味が少ないだけでなく、苦味も出てしまうの。」
「さっきの乾燥させたヤツだと比べにくいが、魔力量が多い葉の方が色も明るい色になるんだ。」
「は、はあ。」
シャスは返事を返しながら手元にあるゼルガスタの葉を覗き見る。確かに自由市で売っていた物よりは、全体的に若葉のように明るい色をしていると言える。しかし、どうしても相場の五十倍と言われるとしっくり来ないシャス。
そんなシャスにベティアは追い討ちをかけた。
「言っておくけど、市に出てるゼルガスタの葉はペルシフィニーが出したのよりも更に甘味が無くて苦味が強いわよ。」
「え!?」
「はい~。私が出した葉は一般的に出回っている葉の価格よりも十倍はしますよ。」
「ええ!?」
驚くシャスをよそにペルシフィニーは話を続ける。
「此れは、シーラメールで仕入れた一級品ですから~。しかし、シャスさんのお持ちの薬草の質は凄いですね。聖域に匹敵しそうな高品質です。これ程の薬草が育つ環境がまだ残っている所が有るんですね。」
「あははははははは…。」
思わず空笑いを溢すシャス。幾千年もの間閉ざされ、前人未踏の地であったリガルダの森の凄さを噛みしめるのであった。
(一般的な植物すら恐ろしい価格になるなんて、どうすりゃいいのよ!!)
用意した薬草の中には、本当に最近も出回っているか微妙な物も、幾つかあった為、もうお開きにして貰えないだろうかと本気で考えるシャスであった。
最もベティアとペルシフィニーの様子では、そんな望みは叶わないだろうが。
(流石は薬師と組合関係者。薬草(獲物)を見る目がマジだわ…。)
こっそり溜め息をつくシャスであった。




