神獣聖獣驚くに能わず
「し、しんじゅうかせいじゅう…。」
停止した頭を再稼働させようと、聞こえてきた単語を復唱し、ギギギと音がしそうな動作でガル君へと顔を向けたシャス。
そんなシャスに追い討ちをかけるようにベティアは推測を述べる。
「神獣や聖獣の中でも、人化が出来る存在は本当に少ないのよ。まぁ、どちらにしろかなり高位種族でしょうけど…。金の瞳を持っているから神獣かしら?」
「!!」
(神獣~!?)
ベティアの推測を聞き、ポカンとした顔でガル君を見つめるシャス。
そんなシャスを正気に戻すためか、ガル君は菓子を食べるのを一度中断させ疑問に答えた。
「うむ。わがしゅぞくのひとみのこゆうしょくはあかみをおびたきいろでの。われのまなこがきんなのは、べつのよういんによるものだ。われはしんじゅうではないぞ。」
「あら。そうなのね。」
「も~!驚かさないで下さいよ~!!」
否定の言葉を聞きほっと落ちつきを取り戻すシャス。しかし、無情にもガル君の話には続きがあった。
「もっとも、まをたいないにとりこんでじょうかでき、しょうきぼのはまをおこなえるから、ちゅうきゅういのせいじゅうではあるがの。」
「んな!?」
(結局聖獣なんかい!!)
そんなの聞いていないよとばかりに頭を抱えるシャス。
そんな彼女を見ながらガル君は胸中で呟く。
(う~む。自力で大規模な破魔や場の浄化を行える神子は他の聖人や聖獣と比べても断然上位に位置するのだがのう。)
通常の数倍もの神力を内包出来るシャスならばほぼ間違いなく最上位クラスであろう。
(伝えても焦るだけじゃろうしの。黙っておるか。)
ガル君は一人結論づける。懸命な判断と言えよう。
「しかし、中位聖獣かあ。雰囲気からして神獣か、少なくとも上位聖獣だと思ってたんだがな。」
そうランドルが溢せばガル君は少し思案し答える。
「ふむ。われはいろいろあって、しゅぞくがこゆうでもついがいののうりょくももっているからの。」
(まあ、巨竜種は全て太陽神ラグアス様の神獣である陽龍様と月神ファルテナ様の神獣である陰龍様の末裔であるから、極めて神獣に近い種族にあたるのだけどの。)
寧ろ古代の幻想種は殆どが神獣の末裔であるのだが、まあ説明しなくても問題あるまいと黙っておいたガル君であった。
因みにガル君が自身を中級聖獣であると評したのはある意味間違いである。確かに古代において古代竜は、中級位の聖獣であった。しかし、幾千年という膨大な時が経つにつれて、多くの神聖が徐々に失われて来た現代において、彼が自身で小規模と評した威力は、高位聖獣と評されるのに十分な威力であった。
「と、いう事で!中級聖獣と一緒に仲良くお買い物しちゃうような人間を悪人だなんて疑っても仕方がないでしょう?」
「寧ろ善人認定されるぞ。」
そう言われてしまえばぐうの音も出ないシャスであった。
(確かに私だって聖獣と仲良くしてる人間を見たら善人なんだと思うだろうけど!こう…何て言うか…自分に当て嵌められると…こそばゆいと言うか…中身はそんな出来た人間では無いと言うか…まあ職業は神子ですけどね!…ああ!!恥ずいっ!…。)
一人悶々とどうしたもんかと悶えるシャスにそれは届いた。
(やっほ~!面白い事になってるね~。)
(ファル~!!!)
塔にいるファルからの笑いを含んだ声に文句を返すシャス。
(面白がってる場合じゃないよ~!!いつからみてたの?)
(ん~。冒険者組合についた辺りから。)
(ヒド!大分前じゃない!もっと早く声掛けてよ~。)
(ゴメン。ゴメン~。私も色々ビックリしたからさ~。)
確かに冒険者組合に来てから驚く事が多すぎて、若干訳が解らなくかっている。気を取り直してシャスはファルに相談を持ち掛ける。
(で、組合カードなんだけど作っても大丈夫だと思う?二人は信じられると思うけど、情報検索しても今一ピンと来ないんだよね。)
精霊達から貰った知識では、組合は冒険者が一杯いる場所ーやら依頼が受けれる場所ーやら色んな種類が一杯あるーといった大変大雑把なものばかりであった。
(私もこの二人は信じられると思うよ。寧ろ組合カードは作っておいた方が良いと思う。多分私達は住民カードを作成も利用もしにくいと思うから。)
(?)
(だって住民カードは本名じゃないと作成出来ないでしょ。作成しに行ったら名前で神子だってバレるよ。)
(あ~。確かに。)
流石に自国の神子の名前を知らない職員はいないであろう。
(組合カードは偽名でも発行出来るみたいだし。今なら心強い後ろ楯付き!逃す手はないでしょ!)
(うん。確かに!言われてみればそうだね。念のため偽名でも大丈夫か確認してみる。)
(頑張れ~。)
ファルと二人脳内会議を行ったシャスはおずおずと二人に話しかけた。
「すみません。色々事情が有りまして。偽名でも宜しければ作成させて頂きたいです。」
気を悪くさせてしまっただろうかと緊張した面持ちで二人を伺うシャスに返って来たのは、何ともあっけらかんとした肯定であった。
「あら。そんな事気にしてたのね。勿論良いに決まってるじゃない。」
「そもそも俺達も偽名使ってるしな~。」
「!?」
((ぇえええ!!??))
何とも軽やかに告げられた暴露に思わずハモって驚くシャスとファル。
しかし、考えてみればこの二人は、道中シャスが思わず何者なんだと突っ込みを入れたくなるような者達である。偽名を使っていても不思議ではないだろう。それに二人の偽名と同じ名前が神話にも出てくる。恐らくそこから取ったのであろう。
「そういえばベティアとランドルは神話に出てくる漆黒の夜鳥と赤き獅子の名前でしたね。」
「あら。五獣奏記を知っているのね。珍しいわ。」
「最近では余り読まれないからなあ。まあ、こんな感じで結構偽名を使う組合員は多いからな。そんな気にしなくていいぞ。」
「わかりました。宜しくお願いします。」
「おう!任しておけ!」
「ふふ。きちんと規約や概要も説明するからそんなに心配しないでね。」
「ありがとうございます!!」
頼もしい言葉を貰いほっとするシャスであった。




