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知らない場所では慎重に

隅々まで照明が行き届いた明るい、しかし一切窓が無く全面を壁で覆われ、どことなく重苦しさをも感じる室内。そんな華やかさと重厚さを兼ね備えた一室にシャスはいた。





シャスの頬を一頻りぶにぶにつねって一先ず満足したベティアはにっこり微笑んで宣った。


「ちょっと行きたい所があるんだけど。勿論付き合ってくれるわよね?」


「はい~…。」


有無を言わさない凄まじい笑顔を浮かべたベティアにシャスは即座に肯定を述べ、ガル君と共に連行されていったのであった。


そして連れていかれた先にあったのはダーナフェルナ自由市がある商業区の中枢にドンと居を構えた建物。冒険者組合・魔術組合・商業組合・鍛治組合などのファンタジーではお馴染みの所謂ギルドを内包した施設。組合連合ダーナフェルナ支部である。


各組合が集まっているだけあり、高さはサファティガル城の本棟部分よりも低い二階建てではあるが、それでも周囲の建物よりは比べるまでもなく高く飛び出しており、広さに関してはサファティガル城の倍に匹敵するであろう。


そんな巨大な建物の中央入り口のある本棟には総合受付場があり、そこから大まかに分かれた四つの区画に繋がっている。


シャスとガル君を引き連れたベティアとランドルは、迷うこと無く冒険者組合へ進んで行き、受付カウンターで暫しやり取りすると、恭しい態度の組合職員によって二階の部屋へと案内されていったのであった。


幅広の会議机の丁度真ん中辺りの席に腰掛け、出された飲み物を口に含みながら回想するシャス。そんなシャスの向かいに座り一服したベティアは微笑んだ。


「さて。貴女には一杯聞きたいことがあるの、勿論答えくれるわよね?」


「あはは…。」


(それは此方のセリフですよ~!!)


此方が感知出来ないような気配の消し方と言い、この明らかにVIP対応な部屋を利用できる点と言い、何者ですかとツッコミたい気持ちで一杯ではあるが、賢明にも口をつむんで笑って誤魔化すシャスであった。




「まず、大金を持ちたくないって事だったんだが、お嬢ちゃんは住民カードは発行してないのかい?」


「えーと…。住民カードって何ですか?」


今まで成り行きを見守っていたランドルに問われてシャスは首を傾げる。


「住民カードっていうのは国から発行される身分証明書の事だ。役所に行くと初回無料で発行してくれるから大抵はガキの頃に貰いにいっている筈だな。」


「よっぽどの田舎育ちでない限りね。」


「あ~…。私の実家はかなりの田舎です。一番近いの教会に行くのに山を越えないといけないような村でしたから…。」


二人の説明に苦笑いになるシャス。普通は子供の頃に取得する物である為、ファルシアスが持っていない事に教会の誰も気づかなかったのであろうと予想できた。


「あ~。なるほど…。それでか~。」


「?」


「市民カードには貯蓄機能がついていてね、比較的預け下ろしができる場所が多い上に、直ぐに預け下ろしがしたい場合も、手数料(税金)として1割とられるけど、その場で出し入れ出来る機能もついているのよ。」


「しかもカード発行時に所有者の魔力を登録するから、他人には使用できないセーフ機能付きだ。」


「へ~!!そうなんですか~!!」


初めて知った事実に驚き感心するシャス。そんなシャスを見てベティアはまたにっこり微笑んだ。


「と、言う訳で。」


「へ?」


「受け取ってくれるよな?」


「え!?」


「「薬草の料金!!」」


「うぇえ!?いや、あの、その、…そ、そうだ…私、その肝心の住民カード持っていないですし!ね?」


あたふたと焦りながら述べるシャスをベティアとランドルは面白そうに見ていた。そんな二人の様子を見て、これは何かあると更に焦るシャスを追い詰めにかかる二人組…。


「うふふふふ。大丈夫よ!」


「組合カードにも同じ機能が付いているからな!!好きな組合を選ぶといい。」


「ぇぇえええ!?」


にこやかに告げられた言葉にただただ驚愕するしかないシャス。いつの間にやらシャスは何処かの組合員に登録される事が決まっていたようだ。


「いえいえいえいえ!!おかしいですから!私、住民カードも持っていないような身分証明のない怪しさ満点の人間ですからね!?」


焦りと混乱で自分で言っていて悲しくなるような言い訳を述べるシャス。


そんなシャスの事など何処吹く風で話を続けるベティアとランドル。


「あら。組合員登録なんて、犯罪履歴がないなら身分証明がなくても一発で通るわよ。偽名でも登録できるぐらいだし。それに私達冒険者組合ではかなり貢献度の高い組合員だから、後ろ楯ならばっちりよ。」


「ベティアは魔術組合と医術組合、俺は戦士組合にも貢献してるし、知り合いに商業組合に発言力がある奴がいるからな。安心して選べ~。」


「…さ、さようですか…。」


最早驚き過ぎて顔がひきつるシャス。本当にあんたら何者なんだといった心境である。


組合に入れる気満々の二人にどうしたもんかと途方に暮れるシャス。どうしたもんかとガル君に意見を貰おうと横を見れば、ガル君は此方の事など気にせずに、もきゅもきゅと此処に来る途中で手に入れた戦利品(情報料の魔貨一枚で手に入れた屋台の菓子類)を貪り続けていたのだった。


(やけに静かだと思えば…。)


そんな姿を目撃したシャスは物凄い脱力感を覚え、思わずくたりと机に突っ伏した。


そもそも何でこんな怪しさ満点の人間にそこまでしようとするのか。シャスの勘はベティアとランドルは悪人では無い、寧ろ好ましいとさえ告げている。故に彼らがシャスを利用して何か企んでいるという事は無いであろう。だからこそ彼らには何のメリットも無いだろうに此処までしようとする理由がわからない。一度そう疑問に思うと気になって仕方がなかった。シャスがこれは確認しなければと顔をあげれば、


「…っ!!」


何故か微笑ましそうにシャスを見ているベティアとランドルの姿があった。


非常に恥ずかしく、居たたまれない気持ちにさせられたシャスではあったが、気を取り直して二人に質問する。


「お、お二人は何故私のような怪しい人間にそこまでしようとなさるのですか?私が悪い人間かもしれないのに。」


「ん?何だそんなことか。」


「あのねぇ。そんな子連れてる人間が悪人なはずないでしょう。」


「え。」


さも当たり前だと言うようにガル君を見ながら告げられる言葉。


「人間に化けられるような禍々しくない生き物なんて、神獣か聖獣だけじゃないの。」


ダイナマイト級の爆弾発言を貰い暫し思考を停止させるシャスであった。




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