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味噌を求めてえんやこら

シャスがベティアにお仕置きと言う名のぶにぶに攻撃を受けていた丁度その頃、塔ではファルと精霊達が一つの成果を前に達成感で満ち溢れていた。


「遂に…。」


==できたぞ~~!!==


==おみそだ~~!!==


ベラクスの実をベースにした味噌の試作品が今ここに誕生した。


時刻は日昇ラグアシェル二刻半(地球換算午前九時頃)、凡そ一刻(二時間)投影を駆使して作り上げた代物である。


ファルはまさかこんなに早く味噌を完成させる事が出来るとは思ってもいなかった。


なにせ、通常味噌を作る場合、芯まで柔らかくさせ煮た豆を塩と麹などを混入させ、長時間発酵させる必要がある。当たり前だが麹など簡単に手に入らない。つまり麹を作るための微生物から探しださなければならないのだ。


日本食には発酵食品が欠かせない。故にシャスがリガルダの森を捜索する際、カビのようなものが生えた植物や、発酵してそうな果実なども手当たり次第サンプルとして採取していた。


この中から、前世で麹に米麹・麦麹・豆麹などがあったことを参考に、米・麦・大豆に近いラムザの実・ベラクスの実・シシルの実に付着した菌類に的を絞ったファル。当初は本日中に色々な菌を培養し、麹候補を作っていくつかベラクスの実を漬け込んでおく予定であった。


手始めに早速培養から始めようと意気込んだ彼女に対し、精霊達は状況を飲み込めずにウロウロしていた。


――ファルちゃんー。おりょーりしないのー?――


――しないのー?――


「うふふ。今日は此れらを使って料理に欠かせないものを作る準備をするのよ。」


==!!!!?==


雷に撃たれたような衝撃を受けた仕草で固まる精霊達。


――これーいたんでるよー。――


――もわもわーしたのがーはえてるよー。――


――こっちはーごわごわだー。――


――かぴかぴもーあるぞー。――


==おなかーこわしちゃうーよー。==


食べたら大変だと騒ぎ出す精霊達を微笑ましく思いながら、ファルは簡単に説明をする。


「うん。確かに食べれないのが殆どだけど、中には美味しいものを作るのを手伝ってくれるものがいるんだよー。」


――へー。そーなんだー。――


――りょーりはーおくがーふかいなー。――


ファルの言葉を聞き一様に驚く精霊達。そんな彼らの様子をのんびり羽の運動をしながら伺っていたリー君はおもむろに口を開いた。


――ふむ、酒を作るのと似たようなかんじかの?――


「!!はい!発酵という点では似たようなものですね。もしかして必要な菌だけ取り出す方法とかご存知ですか?」


――うむ。我の知る限りこの世界にファルちゃんの言う『菌』や『発酵』という概念はなかったのだがの。我の時代では放置した果実の中で、酒のように芳しく香るものにまず『毒消し』の術を使っての、それを他の熟した果実と共に浸けておくのだ。そして出来上がった液体を濾して念のためもう一度『毒消し』の術をかけるというのが大まかな流れだの。――


どうやら使える菌だけを選んで抽出するのではなく、害のある菌や物質を消して使えるものを残すといった手法のようだ。


「成る程~。因みに『毒消し』の術とはどのようなものなのですか?」


――色々あるがの。酒を作る場合は光・大地・水の属性で『自身に害のあるモノを除去する』目的で組んだ術が良く使われておったと思うぞ。古代神聖語を使えば楽に組めるの。――


「そうなんですか…。」


リー君の話を聞いたファルはふと、『自身に害のあるモノを除去する』といったある程度仕組みが曖昧な術が組めるならば『甘味・旨味・酸に変えるモノを抽出する』やそのまま直接『味噌に変える』術が作れるのではないかと思い至った。


(問題は対応する言葉が有るかどうかよね…。)


直接発酵過程の分子式を当てはめれれば楽なのだが、この世界にそのような知識や概念は無いだろうと早々に諦め、色々と古代神聖語を当てはめていくことにしたファルであった。


(そう言えば何だかんだで祝詞は全然試してなかったなあ。投影があれば事足りてたし。)


実際はファルとシャスの投影は、前世以来の知識やイメージの鮮明さおかげで大分おかしいレベルに到達しているのだが、本人は知る由もなかった。





はてさて、リー君と精霊達の協力のもと術式を四半刻(三十分)程で組み立て、麹候補達を複数作成したファルは、仕込みをする前にある実験を試みた。


それは、要約すると『ベルクスの実を味噌に変える』と言った途中経過をぶっ飛ばした直接的な術である。


本来必要な水に浸す・煮る・蒸す・潰すなどの工程や、麹に頼る物質の変換を古代神聖語に訳した陣を作成し、その上に材料(大豆と塩)を乗せ、祝詞を唱えるといったものだ。


術は真剣に組んだがぶっちゃけてしまえば駄目元で行われた実験であった。と言うのも、シャスが直接酒に変える術は無かったのかをリー君に尋ねた所…。


――有るにはあるんだがのう。アレは大地・水・光の属性の適性と、酒の神ヴァーラス様の加護が必要でのう。我のおった時代でも使える者は極僅かであった。――


との事であった。大変使い手の限られた稀少な術であるらしい。


因みに酒の神ヴァーラスの名前が出た途端に、精霊達が…


――ヴァーラスさまー。――


――だいちのかみーノティスさまのーおっかけー。――


――なきじょーごー。――


と言った合いの手を入れたのだが、ファルは何も聞いていないとスルーしたのであった。あまり神々のイメージを崩して欲しくない今日この頃であった。


そんなこんなで、気を取り直してファルは祝詞を唱えた。


『アグ ウォルス ノーティ ラ ルース メルルグ ラルチ ノーヴェ(大地の恵みたる肉の実(ベラクスの実)を芳しき糧に変えん)』


一語一語の形と意味を強く意識しながら唱えると共に大地・水・光の神力を注ぐ。陣に力が行き渡り、大きな光の渦となって部屋に満ちる。


やがて光が徐々に収まり、現れたのは日本人にはお馴染みの茶色のペースト。


その姿を見たファルはおもむろに近づき手を伸ばし、見守っていた精霊達とリー君は失敗しちゃった?腐ってるの?とソワソワと結果を待っていた。


(見た目は合格っと。匂いは…。)


ひとつまみ味噌をつまんだファルはまず念のために『毒消し』の術をかけ、匂いをかぎ、やがて意を決して口にふくんだ。


「………。」


==………。==


ファルの様子を固唾を飲んで見守る精霊達とリー君。暫くやきもきしていると、ファルは彼らに向けて親指を立ててつきだした。


グッ!!!


==!!!!==


==できたのー!?==


==すごいー!!!==


わっと口々に驚きを現しながらファルのもとに飛んでいく精霊達。出来上がった味噌を興味津々で覗き込んでいる。


――これがーりょーりにーやくだつのかー。――


「うん。スープにしたり、炒めものにつかったり。おにぎりに塗って焼いても美味しいよ。」


――うぉー。おにぎりかー。――


――はやくーたべたいなー。――


「うん。早速料理に使ってみようか。」


――いえーい!!――


――うでがなるぜー。――


待ってましたとテンションを上げていく精霊達と共にファルは即席味噌料理を作成していくのであった。




四半刻かからずに作成した焼き味噌握りとモルブ芋とギルグの味噌汁で一服したファル達。温かい味噌汁でほっと一息つきながらリー君は呟いた。


――うむ。味噌汁というのは良いのう。しかし、まさか術が成功するとは驚きじゃ。――


「気に入って頂けて嬉しいです。私もまさかあれが成功するとは思いませんでした。もしかしたらお味噌の神様はいらっしゃいませんから制限もされて無かったのかも知れませんね。」


――うーむ。酒の術が加護持ちしか使えぬのはなー、ヴァーラス様が制限なさるのではなく、酒の理解を深めた信徒に手助けをして下さるからでの。今回も何らかの関係のある神々が術の理解度と情熱を認めて手助けをして下さったと考えた方が正しいかの。神子へなら地上にいらっしゃらない神々も加護や影響を与えやすいしの。――


「味噌に関係する神様ですか??」


――まあ。推測だがのお。――


リー君の言葉に目を白黒するファル。果たして味噌作りに関係する神とは何の神か。どこか釈然としない部分もあるが、リー君が言うのだから、恐らく神々に手助けを頂いたのだろう。心の中で正体の知れぬ神々に感謝の祈りを捧げるのであった。




「さて。一息ついた所で麹候補達で仕込みますか。」


そう言って立ち上がったファルを不思議そうに見る精霊達。


==??==


――おみそーちゃんとーできたけどー、まだーじっけんーするのー?――


「うん。確かに味はバッチリだけと、麹を使ってないからね。やっぱり発酵食品の利点と言えば、生きた菌を摂れて体に良い働きをしてくれる事だから、ちゃんと麹から作れるようにしたいんだ。」


==そうなんだ~。==


「それにラムザの実を混ぜたりして色々種類の違うものも作りたいしね。お味噌は材料や麹の種類によって全然風味が違うものが作れるんだよ。」


==おお~!!==


――いろいろーつくれるんだねー。――


色んな味になると聞いた精霊達のやる気は一気に上昇したのであった。張り切って力を使いすぎて本来よりも大分時間が短縮されたのはご愛嬌である。


ファルの指揮の下、大地の精霊が質の良いベラクスの実を選り分け、月の精霊が闇の精霊ベラクスの実の細胞を壊さないよう維持しつつ水の精霊が急速に水を浸透させていく。その後火の精霊により芯が柔らかくなるまで熱せられ、風の精霊によって潰され塩と麹と共に撹拌される。仕上げに光の精霊と太陽の精霊が発酵を促進させれば、半刻程(一時間程)で様々な種類の味噌候補が出来上がったのであった。






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