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交渉事最後まで気を抜かず

如何に安く買うかではなく如何に安く売るかと言う一風変わった難題に直面したシャス。


彼女としてみれば、出会ったばかりとは言え、善い人だと純粋に思えたランドルとベティアになら、無料で明滅草ニーヘルを譲っても良かった。寧ろ金貨四十五枚などと言う大金を受け取りたくはないと思っている。


お金が大切なことも、持っていて損は無い事もわかってはいるが、些か大金過ぎるため心臓に悪いのだ。


しかし、先のやり取りを見ても、この二人は価値のある物を此方から買い叩く等と言うことはしないであろう。


(今更未鑑定の薬草があるんですがとか言って出しても気づかぬ振りして安く買ってくれないだろうなあ。)


どうしたものかと思案するシャス。何か無いかと手当たり次第ニーヘル関連の知識を漁っていくと、ある植物の情報を発見した。その名も灯火草ネルティー


ネルティーとは下位霊薬ポーションの原料になる薬草で、ニーヘルより全体的に一回り株が大きく、花弁の奥には明滅するのではなく、炎のように揺らめいた光を灯している。ネルティーとニーヘルは共に自生地は洞窟などの暗闇の為、その光の灯す様子によって簡単に見分けられるが、 日の下にさらされると大変見分けがつきにくい。


(うーん。ネルティーと称してして安く売ろうにも、坑剛石化薬アンデュニテスにはネルティーは必要ないみたいだしなあ。)


「?お嬢ちゃん。もう食わないのか?」


「ふへ!?……あ、すみません。私はもうお腹一杯です。」


思考の迷路にはまっていたシャスは、ランドルの呼び掛けにより急速に意識を戻された。急過ぎて変な声が出たのはご愛嬌である。


「小食なのねえ。」


「坊主とは真逆だなあ。」


笑い混じりの二人の言葉にシャスが横を見れば、


(…げっ!!)


「うむ。ちとけものくさいが、なかなかのあじであった。」


満足そうなガル君の前に串の山が高々と積まれていた。


「すみません!!」


「いやいや。良い食べっぷりを見せて貰ったよ。」


「ふふふ。こんなに小さな体に良く入るわね。凄いわ。」


「うむ。ちそうになった。」


(うむ。じゃないよガル君~!!幾らなんでも食べすぎだよ~!!ってこれだ!!!)


我らが欠食竜様の戦果に恐々としたシャスであったが、突然妙案を思い付いき、そっと鞄を漁りながら二人に勢い良く話し掛けた。


「あ、あの。こんなに一杯食べてしまったのですが、今手持ちがなくて。」


「いや。こちらの礼として奢らせて貰うだけだからな。気にするなよ。」


「そうよ。寧ろお礼としては少な過ぎる位よ。」


「い、いえ。流石に申し訳ないので此れを受け取って下さい。」


そう言って鞄から取り出した麻袋を差し出すシャス。


「此れは?」


「市場に出そうと思っていた薬草です。ただ、価格帯がよくわからなかったので勉強して出直そうと思いまして。ありふれた物なのでお役にたてないでしょうが受け取って下さい。」


麻袋を受け取って首を傾げるベティアに、さも失敗しましたといった様子を装って答えたシャス。因みに中身は言わずと知れたニーヘルが20株とニーヘルが入っていると分かりにくくするために適当に混入した他の植物である。


「あら。悪いわよ。そうだ!良ければ私が適正価格を見て買うわよ。副業で薬師もしてるの。」


(え!!薬師!?もしかして中見たら即バレ!?)


カミングアウトされた副業に焦り立ち上がるシャス。直ぐにでも立ち去らなければバレるのは時間の問題であろう。


「いえ!お礼ですから!それにそろそろ帰らなければならないので。」


「そうなの。わかったわ。ありがたく受け取らせて貰うわ。ありがとう。」


「お嬢ちゃん。気い使わせて悪いな。今日は本当にありがとうな。」


「いえ。此方こそ楽しい時間と食事をありがとうございました。」


「ちそうになったの。れいをいうぞ。」


会釈をしながら挨拶をし、ガル君の手を取り不自然でない程度にそそくさと立ち去るシャスであった。







ランドルとベティアと別れてから足早に市を移動したシャスとガル君は、市に降り立った時のような人気の無い場所で一息付いていた。


「は~。上手く渡せた~。」


「ふむ。おつかれだの。しかし、べつにふつうにうってもよかったのではないかの?」


「いやいや。金貨四十五枚なんて大金、恐ろしくて持っていられませんよ。」


「よくがないの。しゃすちゃんらしい。しかしのう。」


何やらニヤニヤと含んだ物言いに首を傾げるシャス。どうしたのかを問おうとした瞬間、


「なーるほど。そんな理由だったのか。」


「あらあら。可愛い理由ね。」


真後ろからここにいる筈の無い二人組の声を聞き硬直したシャスであった。






シャスは物凄く困惑していた。と言うのも、今現在自身を捕獲している二人組の気配を全然感知出来ていなかったからである。


前世と今世の経験と能力が合わさり、塔に隠れて密かに護衛していたプロの者達にすら気づく探知能力を持つというのにだ。


(ただ者じゃないなー。)


自身を後ろからガッチリとホールドしているランドルと、何故か頬をぶにぶに伸ばしてくるベティアの事を何処か諦めの境地で考察する。


幸い目視できる二人の魔力から嫌な気は全く感じない上、ガル君も面白そうに傍観しているため、身の危険はないと言える。しかしこの状況をどう乗りきれば良いのか全く検討のつかないシャスであった。


「全く!!あんな高価な物をホイホイとタダで渡して~!!中身を見た瞬間思わず叫びそうになったわよ!!」


「ふぁい。しゅみましぇん。」


「反省してるかー?」


「ふぁい。ひょっひぇも。」


「じゃあ。ちゃんと料金受けとるなー?」


「………。」


「この子は~!!」


ぶにぶに。ぶにぶに。ぶにににに。


「ひ、ひひゃいれふ。う゛ぇひぃあひゃん。」


思わず沈黙を持って料金受け取りを拒否したシャスにベティアの容赦無いぶにぶに攻撃が炸裂したのであった。果たしてシャスの頬はいつ解放されるのやら。彼らの戦い(?)は暫し続く。




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