本日のご予定は
ガルディア司教長と一通り話し合いを終えたファルは、夜が明けきる前に早足で塔の自室に戻って行った。
「ただいま~。」
「お帰り~大変だったみたいだね。」
「本当だよ~。焦った。」
先程のやり取りを思い出して溜め息を吐くファル。そんなファルを見て、シャスは苦笑しながらも述べる。
「でも、ガルディア司教長に指摘して貰えて逆に良かったよね。」
「まあ。確かにね。けど心臓に悪いよ~。」
「あはは。お疲れ様。」
労りながらシャスはファルに椅子を勧めメルトの花茶を注ぐ。テーブルでは、既にリー君とガル君が席に着き、物凄い勢いで精霊達と共に朝食をがっついていた。
――ファルちゃんモグ。お帰りモグ。なのだモグモグ。――
「あさからごくろうだの。モグモグ。さきにいただいておるぞ。モグモグ。」
==おかえりー。==
竜体のリー君と人型のガル君、そして精霊達にただいまと返したファルは出された花茶で一息つき、月の精霊と水の精霊は一目散に朝食に突進していった。
朝食の内容は、ベラクスの実の塩茹でとウルチラムザと茸の炊き込みご飯擬き、ギルグ、サリチェ、ラッシュのサラダにモブル芋の冷製スープである。
よそったご飯をシャスから渡されながらファルは尋ねる。
「自由市は朝から参加するの?」
「取り敢えず朝から色々な市を巡って見て、昼から一番治安が良さそうな所で出店してみるよ。」
「そっか。上手くいくといいわね。」
「どうなるかね~。ファルはどうするの?」
「私は発酵食品の開発がメインかな~。早くお味噌汁飲みたいし。」
「確かに。朝は味噌汁飲みたいよね。」
ファルとシャスは互いの予定を確認しながら食事を進めて行くのであった。
「準備はいい?ガル君」
「うむ。ばっちりだ。」
朝食後、比較的動き易い服に着替えたシャスは、ガル君に話しかける。人間の文化に興味深々なガル君は、シャスに同行を希望したのであった。
「たのしみだの。やたいというものもたくさんあるのであろう。」
もう既に、食文化がメインになりつつあるようだ。
――土産を楽しみにしておるぞ。――
==おみやげー。たのしみー。==
「気を付けてね。」
「行ってきまーす。」
「うむ。いってまいる。」
==行ってらっしゃーい。==
皆に見送られてシャスとガル君は、窓から出発して行った。
さて、残されたメンバーはと言うと、リー君は早く自由に空を飛ぶために、竜体で羽をパタパタと動かす練習をしていた。
――いーちー。――
パタパタ…ストン!
――にー。――
パタパタ…ストン!
――さーんー。――
パタパタ…ストン!
――しー。――
パタパタ…ストン!
さながら筋トレのように浮いては落ちてを黙々と繰り返しているリー君であった。
一方、精霊達はファルと共に料理の探究に熱意を燃やしていた。
「今日は、ベラクスの実を中心に発酵食品を研究して行きます!」
==らじゃー!!==
掛け声と共に物凄いやる気を放つ精霊達であった。彼らは着実に、料理精霊へと進化を続けているようだ。
さて、自由市巡りに出掛けたシャスとガル君は、高速で空中を駆けていた。
「ものすごいはやさだのー。なのにかぜのていこうをぜんぜんかんじぬ。えんしゃんとぐりーんどらごん(古代翠竜)も、かおまけだろうな。」
「誉めても何も出ませんよ。」
「いやいや。ほんとうにすごいはやさだの。せいぜんのわれは、こんなはやさでとんだことはなかった。」
「そうなんですか。」
心から関心した様子のガル君を見てシャスは驚く。
「どらごんは、はねがあるしゅぞくだからの。せいちょうするにつれて、じしんがとべるていどのかぜのてきせいはえることができる。だが、こうそくでとべるのはかぜにとっかしたどらごんだけなのだ。」
「なるほど。ガル君は水の適性が強かったですものね。」
「うむ。もっとも、いまのわれが、こんごどうなるかはわからぬがの。」
雑談を興じながら進むシャスとガル君。二人の目的地は全部で五ヶ所。知識検索で見てみて、比較的最近そうな記憶のある場所の中から、エルヴィガルナ国内にある大きい規模の自由市を選んだ。
「楽しみですね。」
「そうだの。」
二人揃って初めて訪れる市へと期待を膨らませるのであった。
水の王国エルヴィガルナは大まかに分けて四つの地域に分かれる。王城を有する王都を含む北のメルティフィス。大地の国シーラメールと接する東のサティバ。闇の国フェラントパラスと接する西のモラトニー。唯一海岸を有する南のブラウナー。
まず最初に目指すのは、サファティガル城から一番近い、ダーラフェルナ自由市である。この市は、メルティフィス内で王都の次に大きい都市ダーラフェルナに存在する。
ダーラフェルナ自由市は、国内にある自由市の中で二番目の規模を誇る市である。
「ほー。なかなかおおきいのお。」
「ですねー。」
人の気配の無い場所に降り立った二人は、印象を薄くする幻惑を自身に掛けて、市場に向かって行った。
いくら色彩を変化させていると言っても、ファルシアスの顔を知る人間に、絶対に会わないと言い切れる訳ではない。その上、シャスもガル君も非常に整った容姿をしている上、市場に慣れていない云わば箱入りである。世の中、何処にでも悪どい人間は存在するものだ。下手に目立ってそういった人間に目をつけられないよう、幻惑を施したのであった。
ただ、この幻惑、見た目だけでなく精神にも働き掛ける代物で、目からの情報に影響力を持つ光と闇の属性だけでなく、太陽と月の属性を加えた四属性複合型の超高度な投影になっている。
そんな事は露とも知らぬシャス。いや、知らないからこそ柔軟な発想が出来るのだろう。そんな彼女と、神代を知り現代に疎いガル君は、これで心おきなく市を楽しめると意気揚々と見物を始めたのであった。
果たして、世間知らずなこの二人は無事目的を果たすことが出来るのだろうか。
時刻は日昇一刻半(地球換算午前七時頃)、朝市もまだまだ始まったばかり。此れからどんどん人が増えてくると知らないシャスとガル君は、のんびり歩き始めたのであった。
本当にどうなる事やら。それはサンサンと輝く太陽にもわからない。
二人の探索は始まったばかり。




