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巻き込まれるのが苦労性

神子ファルシアスの神力放出量の大幅な減少を感じ取り、体調の確認を行ったガルディア司教長は、大変困惑していた。


神子は、精神的・肉体的に不安定な状態にあると、神力放出に多大な影響を及ぼす。


その為、ファルシアスの体調が良くないのではないかと考えたのだが、指摘したとたん彼女は硬直し、何やら思案し始めてしまったのだ。


(何やら、また突飛な事をしでかしているのでは…。)


ファルシアスの様子を見て大変不安になったガルディア司教長であるが、時すでに遅し。


「少し思う所がありまして、少々実験をしておりますの。


出来れば、司教長様にも手伝って頂けると有り難いですわ。」


有無を言わせないような迫力を持つ笑顔で、にっこり微笑まれてしまったガルディア司教長であった。




さて、そもそも神力への感知能力とは、近年では非常に得難いものになっており、聖域や神子と同じ空間に居てさえ、何処と無く厳かな雰囲気を感じるだけの人間が殆どである。中には全く何も感じない人間もいたりする。感覚の鋭い者でも、正確に神力の量を感知する事は出来ない。


実は、ファルシアスは前世との融合を果たす前から、一人前の神子の平均的放出量の半分程は器を広げていた。これはファルシアスの年齢から見れば、凄まじい放出量であったのだが、本人の神力を感知する能力が低かったため、祝詞も上手く扱えず、神子として才能が無いと思われていた。


教会には前任の神子とファルシアスの放出量の差を感知出来る程感覚の鋭い者は殆どいなかった為、目で判る要因で判断されたのである。


また、以前にも述べたが、神子とは本来どの属性の神力にも、多少は適正があるものである。ファルシアスは神子の中でも珍しい、全属性に一定以上の適正を持つタイプであった。その為、放出される水属性の神力は放出量全体の二割程度となっていた。この事から、比較的感覚の鋭い者も、自身の適性と同じ属性は把握できるが、ファルシアスの総量はさっぱり把握出来ない者が殆どであった。


教会の中でも神力の感知能力が高いガルディア司教長は、元々水属性に適性を持ち、教会での修行により、その精度を上げていた。その為、水属性の神力に関しては、前任の神子とファルシアスの神力の放出量の差をそこそこ正確に感知していた。凡そ一割程度の放出量であると。


しかしそれが出来たのは、ファルシアスが教会に来た直前まで前任の神子は存命で、記憶に新しかった為、感覚を比べる事が出来たに過ぎない。それから十年経った今、現在のファルシアスと前任の神子を比べろと言われても、比べる事は出来ないだろう。


つまり、ファルシアスの増加後の神力放出量を比べられる相手がいない為、異常さに気づいていないとも言う。今のファルシアスならば、水属性だけでも前任者の一・五倍前後の神力放出量を得ているのだが。


また、放出量が増えた理由も、何やら吹っ切れた様子のファルシアスから、精神的に安定した事により、神力放出量も安定したとガルディア司教長は考えたのであった。


最も、放出量の変わる前と後での差が激しい為、正確な量は今一把握できていないのだが、その急激な差は今までの精神的負荷の表れと解釈し、地味に罪悪感を募らせていたりする。


そんなこんなで、勝手にファルシアスの神力放出量の増加原因を解釈していたガルディア司教長は、この件に関しては、何も問い質す必要性は感じてなかったのであった。ただ、一晩明けてその急激な増加を帳消しどころか更に目減りさせる減少を確認した為、それは見過ごせなかったのだ。


実は今回ファルが偽装した神力放出量は、以前と比べても大分下回っていた。


以前の自身の神力放出量が今一把握できていなかったファルとシャスは、リー君とガル君に相談して、見せかけの放出量を決めていた。その結果、周りの低評価を踏まえて雀の涙程の放出量に設定したのだが、低すぎたようである。因みに精霊達の意見は、大雑把すぎてさっぱり宛にならなかった。


ガルディア司教長としても、以前の放出量に戻ったのならば、何らかの原因で不安がぶり返してしまい、以前の精神状態に逆戻りしてしまったのではないかと考え、暫く様子を伺おうとしていたかもしれない。


しかし、実際には元通りを通り越して大分下回っていたのだから、体調を心配するなと言う方が難しいであろう。


そんなこんなで、特に他意の無い心配をしていたのに、いつの間にか何かに巻き込まれかけている状況に、心の中で盛大に頭を抱える司教長であった。


(一体何をさせられるのやら。)


「…内容にもよりますね。」


念のため、逃げ道は用意しておく。全く逃げれる気はしないのだが。







ガルディア司教長から、後ろ向きな了承の意を得たファルは、内心でほくそ笑んだ。


(そんなに警戒しなくても変な事はしませんよ~。)


「実は、ガルディア司教長様もご存知のように、この度わたくしの神力の放出量が急増しまして。感覚の鋭い方に気づかれると色々厄介になるかと思い、放出量を偽装してみましたの。でも、どうやら司教長様を驚かせてしまったようですわ。わたくしとしては、上手く偽装出来ていると思っていたのですが、ご意見をお聞かせ頂いても宜しいでしょうか。」


そう尋ねられたガルディア司教長は、大変困惑してしまった。何故なら、神子が放出量を偽装出来る等と言うことは聞いたこともなかったからだ。また規格外の事をさらっとやってくれるものだと、内心でため息を吐きながら、ガルディア司教長は考える。何を言えば良いものかと。


「…まず、神力放出量の増加に関しては、気にされなくても問題ない。神官位を持っている者でも、神力があるかないかを感知出来る程度の者が殆どですから。本教会にも、ある程度正確に感知出来る者は私を含めて五人程しかいませんよ。」


余りの少なさにびっくりして目を見開くファル。それを見てガルディア司教長は言葉を繋げた。


「神子の祈祷等で場に満ちる神力が増加したりするのは、何となく感じる事が出来る神官は多いですが、放出量を把握すると言うのは貴女が思っている以上に困難だ。確かに貴女の神力は急激に増加している為、多少何かしら違いを感じる神官も少なくはないだろうが、その場で増減してみせない限り、どう変化しているかを理解できる者は殆どおりませんよ。」


どうやら、ファルとシャスの取り越し苦労だったようだ。


「ただ、数が少ないと言えど私以外にもある程度正確に感知出来る者がいる事は確かです。偽装するならそれはそれで宜しいだろう。それよりも、増加前の貴女よりも遥かに少ない放出量にされているのはわざとで?侍女長にも心配されますよ。」


どうやら、随分検討違いな偽装をしていたらしい事を知らされ、内心で焦るファル。更に、アメリア侍女長も何気に凄い感知能力を持っているらしい事を知り、侮れない才女だと戦慄したのであった。


「そうだったのですね。ご心配をお掛けして申し訳ありません。体調は問題有りませんので、ご安心下さって。」


そう言いながら、ファルは媒介としている竜の鱗に注いでいた神力の一部を、外に放出していく。


「これぐらいで宜しいでしょうか。」


「その倍程でも問題ないでしょう。」


助言を受けて放出量を調整していくファル。それを見せられたガルディア司教長は、本当に放出量を偽装していたと言う事実に、頭を悩まされるのであった。


「ご助力ありがとうございます。これで、怪しまれずにこれまでと同じ私で通すことができますわ。」


笑って誤魔化せとでも言うように、晴れやかに笑うファル。それに対してガルディア司教長は、多分に諦めと疲れの入った心境を隠し、ただ一言述べる。


「…それは宜しかった。」


顔には出さないが随分とぐったりくたびれさせられた司教長。窓の外は、うっすらと明けてきた空が覗く。まだまだ一日は始まったばかりであった。




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