偽装工作は正確に
ガルディア司教長から、神力の放出量の減少について指摘され、何と誤魔化したら良いものかと、内心で焦るファルは、昨晩の事を思い出していた。
侍女達が帰った後、幽霊騒動は明日何とかしようと、しばし投げやりになったファルとシャスは、別の懸念事項に取り掛かった。
リー君とガル君によって、平均よりも大分神力の放出量が上がっている事を指摘された事に、二人は大変頭を悩まされていたのである。
一人当たり平均の三~四倍以上、単純計算で合わせて平均の六~八倍の神力を放出しているとなれば、感覚の鋭い神官なら直接顔を合わせなくても、時間が経つにつれて教会内に満ちる神力の濃さが増している事に、いづれは気付いてしまうであろうからだ。
これから密かに見返すための勉強をしていくに当たり、今こちらの評価を上げ、注目される様な事は是非とも避けたいファルとシャス。
しかし、無意識で放出している神力の量を果たして制御できるモノなのだろうかと、二人でうんうん悩んでいると、リー君が解決策を示してくれた。
「ほうしゅつりょうをぎそうしたいのならば、ばいたいにためこんでしまえばよいのではないかの。」
「「媒体?」」
「うむ。せいせきをつくるようりょうで、しんりょくをそそぎこんでしまえば、おのずとそとにほうしゅつされるしんりょくのりょうをへらすことができるのだ。」
聖石を作り出す事は非常に困難とされている。故に、気性の大人しい鉱石蜥蜴は乱獲され、絶滅寸前にまで追いやられたのだ。
実は、神子は自らが放出する神力を、モノに込める事ができる。但し、媒体となる入れ物には、相応の神力への耐性と親和性が必要でる。なので、入れ物となる素材はかなり高価で入手が困難なのである。
「そのような事が可能なのですか?」
「うむ。ふぁるちゃんとしゃすちゃんのしんりょくをたくわえるとなると、ふぁてりす(月光輝石)やらぐすこん(陽光日石)れべるでないときびしいだろうがの。」
リー君の言葉を聞いたファルとシャスは、知識検索で月光輝石や陽光日石と言う名の二つの媒介について調べ、その稀少性に絶句した。其々、長時間濃い月の神力と太陽の神力を浴びる事で誕生する、大陸の中央聖域の一部でしか採れない代物であった。
余りの稀少性にしばし唖然としてしまうファルとシャス。当然そんなレベルのものを二人に用意できる筈もない。そう、伝えようとした二人を遮ったのはガル君であった。
「しかし、おぬしらふたりはうんがいいの。なかなかこのれべるのしょくばいは、てにいれることはできぬというのにな。」
まるで、既に触媒を手に入れているかのような言い方に、ファルとシャスは首を傾げる。すると、不思議そうな二人を見てリー君はヒントを出すように告げた。
「ほれ、わしのかくれがをおもいだしてみるといい。とくだいのしょくばいがあったであろう。」
――とくだいー。――
――とってもーおおきいのー。――
どうやらリガルダ王の隠れ家にあるらしい。しかも、精霊達の合いの手から考えるに、かなり大きい物の様である。彼処に何が有っただろうかと、記憶を遡るファルとシャス。
彼処でまず見たのは、巨大な扉。そして中に有るのは、城が丸々入りそうな程広い空間を有する玄関と、古代蒼竜の老竜ガルガラルドとリガルダ王の融合体となった竜の抜け殻……。
((まさか…。))
ある結論に達したファルとシャスは、まさかそれは無いだろうと思いつつも、他に考え付く物がなく、恐る恐るリー君とガル君を伺った。
何か思い付き、まさにおっかなびっくりとした様子になったファルとシャスを見たリー君は、面白そうに告げた。
「どらごんは、なかなかばいたいにてきしたそざいだからの。えんしゃんとぶるーどらごんならば、もんだいないであろう。」
「われは、としだけはかなりくっていたからな。それにみあっただけ、からだはおおきかった。とうぶんばいたいにはこまらぬであろうよ。」
うんうんと頷きながら付け加えられるガル君の言葉を聞き、唖然とするファルとシャス。一応自分達の亡骸に当たるのだが、何でそんなに平然と素材扱い出来るのやら。思わず顔をひきつらせる二人であった。
そんなこんなでシャスと竜形態に戻ったリー君とガル君に、野次馬しに行く気満々の半数の精霊達は、夜も遅くにぞろぞろと再びリガルダの森に出向いて行った。
完全な死骸になってもなお強烈な威圧感を醸し出す巨竜を前にしたシャス達。
本当にやるのかと、シャスが幼竜コンビを伺い見れば、何やら真剣な面持ちである。どうしたのかと、尋ねたかったシャスではあるが、余りの真剣さに声を掛けるのが憚られて、精霊達にこっそり聞いてみた。
「ねえねえ。リー君とガル君は、どうしたのかわかる?」
――けいしょーをーしよーとーしているんだよー。――
「継承?」
――そーそー。ちからのーけいしょーだよー。――
――ふつーはーりゅうのーおやはーこどもがーうまれたときとーじぶんがーしんじゃったときにー、たくわえてたーちからをーこうせいにーけいしょーさせるんだー。――
――いまのーリーくんとーガルくんはー、あるいみーあのしたいのーこどもみたいなーものだからー。たくわえていたーちからもーけいしょーできるーはずなんだー。――
精霊達の説明を受けたシャスは、再びリー君とガル君の方へ視線を向け、精霊達と共に事の成り行きを見守る事にした。
シャスと精霊達に見守られたリー君ガル君は、自らの羽をパタパタと羽ばたかせて、巨竜の鼻先に自身の鼻先をちょんとくっ付けた。すると、途端に溢れんばかりの光が部屋中に満ちる。
(眩し!!)
咄嗟に闇の投影で薄い遮光のベールを作り、光をやり過ごすシャス。光の奔流がおさまった先に現れたのは、以前より体色が濃い水色になったリー君とガル君と、無色透明なクリスタルの彫像の様な姿になった巨竜の死骸であった。
「すごい…。どうなっているの?」
――我ら古代竜は、世界に満ちる神力を蓄えて成長していく。蓄えた神力の濃さが体色にも出ての。我は水の神力の色濃い場所に居を構えていたため、エンシャントブルードラゴンとなった。その影響で今の我とリーも、力の継承と共に蒼い色を受け継いでおる。――
――最も、幼年期は周囲の影響を色濃く受ける故、シャスちゃんとファルちゃんの影響を受けて、儂らの色は変化する可能性は高いがの。――
どうやら、巨竜に蓄えられていた力をリー君とガル君が引き継いだことで、巨竜は無色透明の、何の力も含まない空っぽな状態になったようだ。まさに、神力を溜めておく容器として、適した媒体と言えるだろう。
――さてさて、早速解体作業に移るとするかの。――
――シャスちゃんは血とかは大丈夫かの?駄目だったら外に出ておると良い。――
「あ、大丈夫ですよ。手伝います。」
前世で何度もサバイバルを経験していた身としては、解体作業は何度も経験している。流石にこのような巨大生物の解体は初めてであるが。
何より自分が使わせて頂くのだから、きちんと手伝い、見届けるのが筋だろうと考えるシャスであった。
リー君とガル君の指導の元、投影を駆使して竜を解体していったシャス。神力を蓄えるのには鱗が一番適しているとか、表皮は良い防御素材になるとかを少し複雑な気持ちになりながらも興味深く聞いていた。
だが、流石に肉質の話になって、ドラゴンは旨いらしい等と幼竜コンビが囁きだしたのには、頼むから共食いはやめてくれと必死にお願いするシャスであった。
リー君とガル君が、大変面白そうに話していた事から、おそらく冗談を言ってからかっているのだろうと、思うシャスではあったが、彼らの食い意地を知っているだけに笑えないシャスであった。因みにファルによって隠れ食いしん坊に進化している精霊達も大変興味深々だったとだけ追記しておこう。
かくして、神力の放出量を誤魔化す為の媒体を手に入れたファルとシャスは、すぐに、人より大きい特大サイズの鱗を細かく砕き、服の下に隠れるように小さな袋に入れて首から下げた。
以前の自分の神力の放出量がどれ程だったかわからないファルとシャスは、念のために二人で平均的な一人分。一人辺りで、半人前分になるように、媒体に神力を注ぐようにしたのであった。
昨晩、怪しまれない為に行った偽装で、まさかこのような墓穴を掘るとは。向かいに座るガルディア司教長をチラ見しながら、ファルはまさに、トホホと言った心境であった。
幸い、ガルディア司教長は体調が悪いと思っているようだが、今誤魔化せても今後またボロが出る可能性が非常に高い。どうせ、ファルシアスの神力放出量が異常に多くなっている事はばれてしまっているのだから、いっその事こちらの懸念事項を相談してみるのも手ではないか。
そう考えたファルは、その案が非常に素晴らしいものに思えた。幽霊騒動はこちらが全面的に泥を被る形で解決するのだから、一つぐらい案件が増えても大丈夫で有ろうと、ガルディア司教長が頭を抱えそうな思考回路で結論付ける。完全なる巻き添えとも言える。まさに、自棄っぱち。
そうと決まればファルの行動は早かった。
「いいえ。体調は問題ありませんわ。ただ…。」
「ただ?」
「少し思う所がありまして、少々実験をしておりますの。」
そう言ってにっこり鮮やかに笑うファルを見て、ガルディア司教長は冷や汗を流す。何かまた、突飛な事を言い出したと。
「出来れば、司教長様にも手伝って頂けると有り難いですわ。」
内容を聞く前から何だか頭が痛くなってきたガルディア司教長。
「…内容にもよりますね。」
一応逃げ道は作ってみたものの、おそらく手伝わざるおえないだろうと、どこか確信めいたものを感じ、最早諦めの境地に立つ司教長であった。




