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招かざる来客

塔の外には、夜の帳も広がり、月の女神ファルテナの慈愛がしんしんと降り注いでいる。時刻は月昇ファルティル二刻始め(地球換算午後八時頃)と約束なしに人を訪ねるには些か失礼な時間帯である。


教会内に仲の良い人間のいないファルシアスに、こんな時間に会うことを約束するような人間等いる筈もない。


約束なしに訪ねてくる人間は大抵仕事でやって来る。即ち殆どの場合が、ファルシアスの身の回りの世話を担当する侍女達である。


とは言うものの、世話をほぼ放棄されているファルシアスの元に侍女達がやって来るのは、一日に多くて食事を運ぶ三回。最悪来ない日もあるのが実態である。


(そう言えば今日はまだ一度も来てなかったな。)


本日は一日中ドタバタしていた事もあり、すっかり気にしていなかったが、自身が身投げした早朝から今までの間に、ここに訪ねて来たのはガルディア司教長とアメリア侍女長だけであった事を思い出したファルであった。


(今日の担当は誰かねえ。)


(二食抜かして、こんな時間に持ってくるんだから、どうせミンフェラーゼとその取り巻きでしょ。)


ミンフェラーゼとは、二十歳前のきつ目の顔立ちの派手系美女であり、なんとアルギア副主教の末娘にあたる。


あの魔蛙フロッガーの血を継ぐとは思えぬ顔立ちではあるが、性格と趣味はバッチリ瓜二つである。


この事からもお分かりかと思うが、ファルシアスを苛める侍女達の親玉のような存在である。


彼女達が当番の時は、食事ついでに嫌みと嫌がらせを置いていかれるのだから、ファルシアスにとっては最早来ない方が精神的にもよっぽど平穏であったりする。


さて、そんな歓迎されない来訪者を感知したファルとシャスは急いで部屋を片付け、空気を入れ換え始めた。


そんなファルとシャスを見て、リー君とガル君は首を傾げる。


「いったい。そんなにあわてて、どうしたのだ?」


「あ~。ちょっと、天敵が来るみたいなので。」


――てんてきー。――


――てきがーくるぞー。――


「「?」」


今一要領を得ない、濁された言葉と精霊達のかけ声を聞き、幼竜コンビは余計に首を傾げる。神子の部屋に何故天敵と称されるモノが訪ねて来れるのか。そんな二人の疑問を余所に、ファルとシャスは粗方部屋を片付け終えて、二人の元に戻って来た。


「あと少しで来客が来ますが、ちょっと癖のある人達で、多分気分を悪くさせてしまうと思います。しばらく隣の部屋で待っていてもらってもいいですか?」


「むう。わしらのおんじんであり、みこというかけがいのないそんざいである。ふぁるちゃんとしゃすちゃんをいじめるとは、なんたるやつらだ。」


「ちと、こらしめてやるべきではないかの。」


――そーだー。そーだー。――


――やっちゃえー。――


((ひぇ~~っ。))


大変良い笑顔で物騒な事を宣うリー君とガル君。そして、それを焚き付けるように応援する精霊達。そんなあらぬ方向にやる気を見せた彼らに焦ったファルとシャスは、必死に説得したのであった。


「お気持ちは有難いですが、ちゃんと自分で何とかするので大丈夫ですよ。」


「今は目立たないようにしたいので、今日の所は穏便に見守ってて下さい。」


精一杯説得するファルとシャスに折れる幼竜と精霊達。


「むう。しかたないのう。」


「きょうのところはようすみといくかの。」


――うー。ざんねんだー。――


――ぎゃふんとーいわせたかったなー。――


何気にSな発言の精霊であった。




さて、ファルとシャスの必死の説得の元、今回は手を出さずに見守る事を約束させられた幼竜コンビと精霊達ではあるが、同じ部屋で様子を見守る権利はもぎ取ったのであった。


出会ってから散々、彼らの豪胆な性格を知り、度肝を抜く体験談を聞かされていたファルとシャスは、是非とも隣室で待っていてくれるようにお願いしたのであったが、目眩ましは儂も得意だと豪語するリー君の主張に押しきられ、同室にいる事を許可せざるおえなかったのだ。


そんなこんなで、部屋の隅では、シャスがリー君とガル君をしっかりと抱え込むように座り込み、光の投影で姿を眩ましていた。


因みに精霊達に関しては、捕まえておく事が出来ないため、ただただ大人しくしていてくれる事を願うばかり。侍女達が来る前から、若干胃が痛くなってきたファルとシャスであった。






長い螺旋階段を登るミンフェラーゼは苛立っていた。


「全く!何故この私がこんな所を登らなければならないのよ!無能の癖して忌々しいあの女!」


「本当にそうですわよね。お役目も果たせないのに生意気な女ですわ。」


「仕方ありませんわ。無能過ぎて見せられたものじゃありませんもの。呪われた塔に閉じ籠ってるのがお似合いですわ。」


「私達が慈悲の心を持って食事を運んでさしあげなければ、今頃飢えて干からびてますわよ。」


「本当に、ただ飯ぐらいもいいところ。神子というのは得な地位よね。」


父親そっくりの勢いで捲し立てるミンフェラーゼとその取り巻き達。口々にファルシアスの悪口を言いながら階段を登っていく。


余談だが、この螺旋階段の過酷な長さもファルシアスに運ばれる食事の回数の減少に影響を及ぼしている一因であったりする。


ファルシアスの部屋には現在、怒らせてはいけない存在が集結しているのだが、彼女達がしるよしもなかった。ファルとシャスの胃は痛くなるばかりである。


果たしてファルとシャスは無事に侍女達の訪問を乗り切る事が出来るのだろうか。


窓の外を見やれば、美しい(ファルテ)が星々と共に闇夜を照している。


((無事に終わりますように。))


心の中で、そっとファルテナ神に祈りを捧げるファルとシャスであった。





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