願い叶えば大円満
此度の経緯を聞き終え、精神的に大分疲れたファルとシャスは、取り敢えずリー君とガル君も元気そうだしまあいいかと、少々投げやりになっていた。
そんな中、リー君がしみじみと話し出した。
――しかし、儂は本当に運が良い。助けて貰えただけで無く、このような理想的な肉体を得ることが出来るとはの。――
同時に自身の羽をワキワキと動かしては、満足そうに頷く。
確かに、自由に空を飛びたいという願いを持つリー君にとって、今の体は正に夢の体現と言っても過言では無いだろう。
分裂後、何故リガルダ王の肉体まで竜体になっていたのかは、ファルとシャスにはわからない。魂が一度くっついた事や本体が融合してしまった事が何か関係しているのかもしれない。
だが、このリー君の喜びようを見れば、まあ、喜んでくれたなら良いかという気にさせられるファルとシャスであった。
だがふと、ファルはある事に気がついた。
「でも、ガルガ…ガル君の願いは叶わなかったですね。」
意図してやった事では無いが、片方の願いが叶ったのに、もう一方の願いが叶わなかったというのは、何とも申し訳ない気持ちにさせられたのだ。
因みについガルガラルドさんと言いかけたファルはガル君から物言いたげな視線を受けて慌てて呼び名を訂正していたりする。
――むぅ?心配せずとも。我の願いも叶っておるぞ。――
「「え!?」」
思わぬカミングアウトに驚くファルとシャス。しかし、見た目はどこからどう見ても幼竜そのものである。
まさかミニマムサイズになったから、人里にもこっそり近づいて見に行けるとかいう事なのだろうか。内心で首を傾げるファルとシャスにガル君は説明をし出した。
――お主らは、分裂後の魂に合わせて肉体を再生してくれておっての。我らは自らを封印して眠っておったとは言え、ずっとくっついてた影響もあって、端の方は大分混ざっておってな。――
――端はどっちがどっちかわからんくなっとる癖に、魂核はしっかり本能のまま反発しよったからなあ。相手を攻撃しておるのか、自滅しておるのかもわからん状態だったの。――
ふむふむと考察を付け足すリー君を見て、だからなんでちょっと面白そうに話すんだと、ファルとシャスは胸中で突っ込みを入れる。
終わった事とは言え、自身の危機をさらっと笑って話せる幼竜コンビの豪胆さに舌を巻く二人であった。
――そんな訳で、分裂して貰った後は、しっかり自我は分離したが、性質が混じりあった部分も大きかったのであろうな。ほれ、この通り!――
ガル君が言うや否や、ポンッと軽快な音が部屋を満たした。そして、幼竜ガル君のいた場所には、
「われにも、りーのせーしつが、しっかりはんえいされておるぞ。」
水色の髪に金の瞳の可愛らしい幼児がちょこんと座っていた。
「うむ。尾とはねがないのは、なかなかへんなかんじがするな。」
そう言って自分のお尻と背中を確認する美幼児。当たり前だが全裸である。
いきなりの事で驚いたファルは急いで何か着れそうなものを取りに行き、シャスは自身が羽織っていた上着をガル君に羽織らせたのだった。
取り敢えずファルが持ってきたワンピースを被ったガル君を見て、どうやって服を揃えるかなと思案するシャス。ガルディア司教長かアメリア侍女長に頼めば用意してくれるだろうが、不審がられる上、どこから厄介な人間に嗅ぎ付かれるかもわからない。
自分の服を元に繕うしかないかなとシャスが考えていると、ファルが案を述べた。
「取り敢えず、一着簡単な服を繕って、明日街の服屋で見繕ってくると良いわよ。シャスも旅に適した装いを揃えた方が良いでしょうし。」
「お金なんて持ってないよ。」
神子には給金もお小遣いも存在しない。本来はどうかは知らないが、少なくともファルシアスは一銭も貰ったことはない。
「植物園に育っている植物を、自由市で売れば良いのよ。シャス達が森で集めてくれた素材の中にも、怪しまれないぐらいの価値で良く売れそうな物もあったし。」
シャス達の戦果は、売りに出したら出所を根掘り葉掘り聞かれるような、かなり価値の有る稀少素材がゴロゴロ存在していたが、普通の市にも出せるような素材も多く存在した。
「鉱石蜥蜴の結晶とか?」
何気無く発せられたシャスの言葉に、地味にファルのトラウマがほじくり出された。やさぐれそうである。
「う。……何も聞かずに『クリスタルリザード』『聖石』『価値』で検索してみなさい。」
「?わかった。」
促されるまま知識検索をしたシャスは、一通り流し読みして絶句した。
「エ。ナニコレコワイ。」
辛うじて出た言葉は最早片言であった。欠片一つで家が建つ勢いの高純度の聖石の稀少価値に、ガクブルのシャスであった。前世地球の一般人、現世辺境の寒村農家出身として見れば、仕方ない反応であろう。
「取り敢えず、厳重に保管(封印)しておいたわ。」
重々しく告げるファルの記憶を辿ったシャスは、強く感謝の念を送るのであった。
さて、今後の予定を立てたファルとシャスは、子供用の一着ずつ繕っていた。一連の話を聞いていたリー君も、服が欲しいと人化した為である。
ファルシアスの前世である町田 結の祖母は、着物からベットカバーまで、繕い物なら何でもござれな淑女だった為、手解きを受けた結も、簡単な物ならば、型が無くても繕えた。その経験と、おそらく神子としての能力により発達した記憶力を駆使すれば、市場を歩いていても違和感が無いものが作れるであろう。
更に今は、投影という、実に応用の効く手段も持っている。浮かせた布と針、糸をミシンの動きを想像し、トレースする事を試行錯誤して、術を完成させてからは早かった。ザクザクと縫っていき、上衣に下衣に履き物にと次々と完成させていった。
そう時をおかずして、完成品を身に付けたリー君とガル君は、ファルとシャスに称賛を送っていた。
「こんなにしっかりつくろわれているのに、おどろきのはやさだの。いやはや、だつぼうだ。」
ガル君そっくりの顔立ちのリー君が呆気に取られる。
丈の長いシャツにポケットの無いズボンと、作りは単純なものであるが、しっかりと均等に縫われた縫い目は、手縫いで再現するには中々技術のいる仕上がりである。オマケのようにシャツの裾に施された青の蜥蜴の刺繍もポイントである。
ガル君も自分用に誂えられた服に感動していた。
「こんなにぴったり、ぬのにつつまれるというのはへんなかんじがするの。しかし、すごいつくりだ、からだのうごきをそがいしないよーにかんがえつくされておる。」
満足そうな幼竜コンビをニコニコ眺めていたファルとシャスは、突然同時にピクリと固まり、意識を塔全体に集中させた。
彼女達の感覚が捉えたのは、塔の最下層にある入口に入ってくる複数人の人間の気配であった。




