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悪気がないから厄介である

通常、老齢な竜種と人間の魂を比べると、幻想種である竜種の方が圧倒的に質が高い。


しかし、神々に認められて種の格を底上げされた人間ならば別である。リガルダ・バーラス・エルヴィガルナは、そんな人間の一人であった。


聖人であるリガルダ王の魂と、老獪な古代蒼竜エンシャントブルードラゴンであるガルガラルドの魂は、ほぼ同格であった。


その為に体の入れ替え等と言う無茶をやってのけたのだが、魂の相性という思わぬ誤算で失敗した二人であった。


――魂は同格と言えど、生身の体は言うまでもなくガルの方が質が高いからの。つられて引き合った後は、儂の体は反発するまでも無く、あっという間に吸収されていたようだ。――


カラカラと笑うリガルダ王改め幼竜リー君。そんな彼を見てファルとシャスは、そこは笑い所ではないと内心で突っ込みを入れるも、口に出すことは我慢したのであった。


――魂は魂で直ぐに離れなかったのが悪かったのか、歪にくっついたまま反発しあって攻撃し始めおったからな。いやはや、失敗であったわ。――


追随するのは老竜ガルガラルド改め幼竜ガル君である。こちらも、愉快そうに思い出し笑いをしているが、話す内容はかなり際どいものがある。


正にデッド・オア・アライブな賭けである。しかも、失敗しているのだから、ファルとシャスが唖然とするのは仕方がない事であろう。


――魂とは本能の塊だからのお。一度反発し合えば自分達では止められん。だが、元々何が起こるかもわからんかったからの。失敗した時の保険として、有事には強制的に魂を肉体に戻し封印する術を掛けておったのだ。――


――まさか使うはめになるとはな。――


――しかも体は一つに減っているしの。――


わはははと笑いながら話し続ける幼竜達。そろそろ何も聞きたく無くなってきたファルとシャスであった。


――いやー。精霊らがこちらの頼み事を覚えてくれていて助かったわい。――


――本当にのう。――


((ん?))


幼竜達の見かけに削ぐわぬ豪胆な会話に、意識を彼方に飛ばしかけていたファルとシャスは、聞き捨てならない単語を耳にし、意識を急速に引き戻され。


((そういえば、盟約がどうのこうの言っていたような…))


じと目で風の精霊と大地の精霊を見ると、彼らはドヤ顔で宣った。


――われらーせいれいはー約束ごとをーやぶったりーしないのだー。――


――たまにー忘れるーこともーあるーけれどー。――


――ちゃんとーおもいだしたらー守りにーいくのだー。――


何とも頼りにしにくい宣言である。こんな約束を頼りに待つとは、幼竜コンビは気が長いのか何なのか。微妙な表情を隠せないファルとシャスであった。


「その約束とは何だったのですか?」


――約束自体は単純なものだの。長き時を共にした盟友として、友の危機の際には出来る限りの助力をすると言うものよ。――


――我らと原初精霊達は古くからの悪友でな。色んな可愛い悪戯を仕掛けては、主にラティリア神様に怒られておった。――


約束の内容を聞いた筈が、恐ろしい暴露話が始まってしまい戦慄を覚えるファルとシャス。 ラティリア神とは光の大神である。彼の御方を怒らす悪戯が果たして可愛いと言えるのだろうか。正に神のみぞ知る事であろう。


――神々が地上を去られた後は滅多に共に事を企てる事も無くなったが、盟友である事には変わりない。――


――そうなのー。――


――リー君とーガル君はーボクらのーともだちなのー。――


――でもーふたりともーあそべなくーなったーだけじゃーなくてーお外でーあわなくーなってー。――


――あれーって思ってーあいにいったのー。――


「因みにどれぐらい会わなかったの?」


よせば良いのにどうしても気になったシャスは、思わず聞いてしまい、


――うーん。三百年くらいかなー。――


激しく後悔したのであった。


――それでーあいにいったらーリー君とーガル君がーまざってーけんかしてーねてたからー。――


――これはーたいへんだーってなったけどー。――


――ボクらだけではーどうにもできなかったのー。――


一通り精霊達から話を聞いたファルとシャスは首を傾げる。彼女達の分裂を主導したのは紛れもなく精霊達である。彼らなら歪にくっついた魂を二つに分ける事も可能だったのではないだろうか。いまいち納得いかなそうなファルとシャスを見て、風の精霊が弁明を付け加えた。


――ボクたちーせいれいはーせいしんたいでー体をーもたないからー。ちょくせつーせいしんたいにーとどくーこうげきにーよわいんだよー。――


――そーなのー。しかもーリー君もーガル君もーたましーがーふつーよりーおおきーからー、ものすごいーはんぱつーしあってたのー。――


――へたにーちかずくとーまきこまれてーけされーちゃうーからーどうにもーできなかったのー。――


――どうしよーどうしよーってーしてたらー…。――



不自然に止められた言葉に、何となく聞きたくない感じがしたファルとシャスであったが、そうもいくまいと固唾を飲んで続きを待てば、


==忘れちゃったのー。==


ハモって告げられた残念な言葉にガックリするファルとシャスだった。盟友の危機を忘れてやるなよと、心中で呟く突っ込みも、最早力ないものとなっていた。


――それでーファルちゃんにーであってからー、なぜかーずーっとーもやもやーしてたんーだけどー。――


――ぶんれつをーおてつだいーしたらー、リー君とーガル君のことー思いだしたのー。――


((って!思い出したの今日なの!?))


まさかまさかの本日思い出しました発言に口をあんぐりと開けるファルとシャス。


現在、エルヴィガルナの国年号は水歴四千九百九十八年である。精霊達がリー君とガル君の状況にいつ気がついたかはわからぬが、(恐ろしくて知識検索したくないファルとシャスである。)相当な年月を忘れ去られていた事が伺える。ファルとシャスが驚くのも無理が無いであろう。


――そんでー。そのうちーひまにーなったらーふたりにーおねがいしてーリー君とーガル君をーたすけるのをーてつだってーもらおうとー思ったんだー。――


どうやら今すぐ無理矢理どうこうこうさせると言う気は無かったらしい。結果的にほぼ強制で事は進んだのだが。


ファルとシャスが、では何故あんな騙すようにいきなり手助けさせられたのかと疑問に思っていると、


――でもー森にーいくみたいーだったからー。ついでにーおねがいーしちゃったー。――


((おい!!!))


お願いしちゃったじゃねーよ。お願いなんてされてねーよ。むしろ何も知らされてなかったよと、心の中で荒ぶるファルとシャス。まさかのついでに買ってきてとおつかいを頼むような気楽さは、びっくりなんてレベルではない。


「「いきなりあんな事させられて、私も死ぬかと思ったんだけどな~。」」


ささやかな反撃にと二人ハモって告げてみれば、


――ファルちゃんとーシャスちゃんならーだいじょーぶだよー。――


――もともとーみこだからーたましいがー大きいうえー、じょうずにーまざりあってーすっごくー大きくーなってーいるからー。――


――そーなのー。よゆーなのー。――


――それにーじぶんにーあったー体とーつながってーいるからー。――


――そとからー入ってきたーほかのーたましいにはーまけないよー。――


ファルとシャスを口々に誉め称える精霊達。誉められて悪い気はせず、こそばゆさを感じる二人であったが、


((心の準備が欲しいんだよ…。))


と、事前に相談して欲しかったと、胸中でボヤくファルとシャスであった。


ふと、リガルダ王について予め知識検索していれば、今回の事も先に予見できてたかもしれないなと、シャスは思い至った。


しかしすぐに、きっと知らなきゃ良かったと思う情報だらけで、それはそれで心臓に悪そうだと首を横に振るのであった。




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