腹が減っては何とやら
リガルダ初代王の隠れ家で再会を喜ぶ幼竜二匹と精霊二体。塔から意識を向けるファルと共に、シャスは彼らが落ち着くのを待っていた。そこで突然沸き起こるは、
グゥォォォォオオオオオオ
グゥルルルルギュルルルル
大地をも轟かす轟音。
何事かと構えたシャスとファルをよそに、実際は幼竜二匹の腹の虫であったという何とも間抜けな正体によって、一度塔に戻ることにしたシャス達。
流石にシャスもファルも、飢餓状態の一応生まれたての子供に鞭打つような鬼ではない。塔で一先ず食事をしようという流れになったのであった。
腹を空かせる幼竜達を見ながら、シャスはふと気がつく。自身があまり空腹を感じて無いことに。
本日は早朝に飛び降り、日が高く昇る頃に目を覚まし、そのままお茶会を催し、精霊と契約やら自身の分裂やらを体験し、森に探険に行きと、中々ハードな日程をこなしている。
これだけ動き回っていれば、さぞお腹が空くはずであろう。だが実際には、シャスは分裂する前のお茶会で口にしたメルトの花茶と茶菓子を用意する際に作った試作品以外、きちんとした料理を摂っていないというのに、空腹を感じないのであった。
別に何も食べたくないという訳ではない。現に、塔に戻ってからファルと精霊達に振る舞われたお土産の試作品や地球食擬きは美味しく頂いた。ただやはり、料理を見れば食欲をそそられるが、空腹は感じないのであった。
自身の変化に内心首を傾げるシャスであるが、よくよく思い出してみると、前世を思い出す前のファルシアスも燃費がかなり良かったと言える。侍女の嫌がらせで、たまに食事を抜かされても、その行為に心は痛めど、飢餓に苦しむという事はほとんど無かったのだ。
(神子は燃費の良い生き物で、神子としてのレベルが上がったからあまり空腹を感じないのかな。)
正にその通り、神子は世界で最も高品質なエネルギーでもある神力を注がれているため、食べるものからエネルギー源を吸収できなくても、エネルギー不足等にはならないのだ。
ただし、今のファルシアスは神子の中でも規格外なレベルに達しているのではあるが。
知らぬ当人は神子って省エネだなあと、変に感心しているのであった。
料理を一頻り堪能したシャスは、ファルを手伝い精霊達と幼竜達に出す料理を作り続けていたのだが、幼竜二匹を筆頭に、食べるは食べるは、一体その小さな体のどこに入るのやらと首を傾げる程であった。
彼らの食事の勢いがとどまったのは、夕暮れ時を過ぎ、月が空に輝き始める頃であった。
――は~。旨かった~。――
――うむ。美味であった。――
思う存分貪り尽くし、ようやっと満足いったようである。
――最近の者はこんなに手の込んだ料理を食しているのだな。羨ましいぞ。――
もてなされた料理と自身の生きていた時代の料理を比べて若干拗ねる自称リガルダ王な幼竜。実際は、ファルとシャスが作った料理はこの時代の料理とはまた別物なのだが、リガルダ王が知るよしもない。
――人間はやはり凄いな。素晴らしい味を作り出す為とは言え、神力を使って料理をするとは。流石は神子と言ったところか。――
シャスもファルも神子だと名乗った覚えはないのに見破るとは、流石は自称古代の老竜な幼竜であるが、何だか勘違いしているようである。神力を料理に使うなんて事は、ファルとシャスの二人(実質ファルシアス一人)とその弟子の精霊達ぐらいなものである。
――しかし、命を助けられた上に、このような極上の食事まで振る舞って貰うとは、儂らは白銀の乙女達には頭が上がらぬな。――
――そうだな。ぜひ礼をせねばな。――
「どうぞお気にせず。それより、白銀の乙女、ですか?」
シャスは気を使わなくて良い旨伝えながら、気になる点を指摘する。白銀の髪色のファルだけならばその呼び名も分かるが、黒く髪色を変えているシャスも含めて呼ぶリガルダ王に疑問を持ったのだ。
――ふふふ。儂はお嬢さん方と同じで、実体を持たないものがみえるのだ。故に髪色を光の神力で偽造しているのはお見通しだぞ。――
――ふーふーふー。リーくんはー。むかーしなんどもー死にかけたーもんねー。――
――なんかいかはーじっさいにー死んでーよみがえってたーもんねー。――
「「え。」」
自分と同じ目を持つ事よりも、精霊達の暴露に驚くシャスとファルであった。何度も死んで甦るとか、古代はすごい時代なのか、この王が規格外なのか、多分両方なのであろうと二人の中で結論付けられた。
――我も主らと同じような目を持っておるぞ。竜種は老成すると、精神的な能力の開花や上昇が大きくてな。我は老いぼれ故に主らの魂が繋がっておる所まで見えるぞ。――
そう話すガルガラルドの言葉に息を飲むファルとシャス。どうやら幼竜コンビは、想像以上に凄い存在であるようだ。
ファルとシャスが、自身達が分裂体で、二人で一つの魂を元に存在している事と前世の記憶を持つ事を伝えると、二匹の幼竜は、頻りに納得していた。
――成る程のう。どうりで儂らを余裕で押し出すほど魂が強いわけだ。二つの魂核が混ざりあって、より大きい核を持つ魂になっているのだな。――
――自身も分裂を経験しているからこそ、あれ程手際よく我らを分ける事ができたのだな。その上、新たに構成されたこの体の質も素晴らしい。感謝してもしきれぬな。――
――あったぼーよー。――
――ファルちゃんとーシャスちゃんはーすごいのだー。――
――すーごいーのだー。――
然り気無くべた褒めされて照れるファルとシャスであったが、この機会を逃すまいと、今回の件の全容を聞き出さんと尋ねた。
「そもそも。何であのような事態になっていたのですか?」
あのような歪な形にくっついた魂となって、古代蒼竜の中に入っていた経緯が全くわからない。
――うむ。実はな。儂らには昔からどうしても叶えたい願い事があってな。――
――然り。此れがそんじょそこらの方法では叶えられない代物で、互いに難儀しておった。――
このハイスペックな存在が叶えられないと言う願いとはどのような物なのか、ファルとシャスにはさっぱり想像がつかず首を傾げた。
――それがひょんな事から、ある事をすれば互いの願いを両方叶えられる事がわかったのだ!――
「「ある事?」」
――そう。それは…。――
((ゴクリ))
==互いの体を交換する事だ!!==
「「へ?」」
告げられた方法は、何ともぶっ飛んだ方法であった。やはり古代の人達は感覚が違う。どこか精霊達と通じるハチャメチャさを感じたファルとシャスは、果たしてこのまま詳細を聞いて、自分の精神は耐えられるだろうかと、わりと真剣に考えるのであった。




