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料理の目覚め

白く輝く魅惑のボディー。一粒一粒立ち上がり、絶妙な艶とコシを演出するその姿。


その炊き上がりにうっとりしながら、ファルとシャスは黙々と握り飯を作成していく。精霊逹と共に賑やかに食料を貪る欠食竜達の為に。





シャスを見送った後、ファルは精霊達と大お料理教室を開催していた。


皆でワイワイガヤガヤ相談しながらクッキーを作っていれば、ラムザ草を中心としてとして送られて来た戦利品の数々。


まずは株を増やそうと、植物園へ行き、それぞれ繁殖させていく。ある程度増えた所で、必要な物を収穫して行く。ラムザ草の実にベラクスの実、マナティアの花と、目的の物は一通り出揃った。


ラムザ草の実は硬い殻を割ると、その内側に米そっくりのを実をぎっしりと内包している。量はおよそ一合程詰まっており、殻のままでも手のひらに収まるサイズである。


種類の違うラムザ草の実を見てファルはほくそ笑む、色んな米を楽しめそうだと。


シャルに頼んでおいたベラクスの実は、まんま大豆のような見た目で、木になる豆であり、納豆、豆腐、豆乳、味噌、醤油と、幅広い可能性を秘めた食材である。今の所は納豆しか、試せそうにないが、場所を考えて作らないと大変なことになるだろう。下手したら部屋の外にいる護衛の人達に、腐乱臭と間違えられて死体騒動に発達しかねない。きちんと対策をとらねばならぬであろう。


マナティアの花は薄紅色の花弁の多い、牡丹のような豪奢な花であり、一見すると観賞用に改良された品種に見えるが、後ろから見ると大きな密袋を有している。この密袋には花密がたっぷりと含まれており、お菓子作りに多大な貢献をもたらすだろう。


(クッキーの生地に練り込めばもっと美味しくなりそう。ふくらし粉があればカップケーキも作れるなぁ。)


試したい事は盛り沢山。早速始めようと精霊達と手分けしていく。


ファルのお料理教室によって料理の楽しみに目覚めた精霊達の手際は恐ろしく良かった。火の精霊と水の精霊がラムザ草の実の炊き出しを担当し、光の精霊と太陽の精霊でクッキー生地の発酵を促し、闇の精霊と月の精霊が状態維持を駆使して果実とクッキー生地の混ぜ合わせや型抜きをしていく。


――とーりゃー。――


――そーりゃー。――


――ほーいさー。――


といった何とも気の抜ける掛け声を出して作業する様は、大変楽しそうである。


そんなこんなで、一通り作業も終わり試食会を開いている所で、シャスから転送で荷が届いた。鉱石蜥蜴クリスタルリザードの聖石の山である。


意識を余り向けていなかった為、何となくしか事態を把握していなかったファルは、記憶を辿るのと同時にクリスタルリザードと聖石について知識検索を行った。


そして、聖石の山を見てガックリ来た。ばっちり聖石の価値を把握したのである。


(国家予算越えてるんじゃないの?これ。)


神力を無機物に籠めることは、非常に困難とされているため、聖石にはかなり高い価値が付けられている。一欠片でも見られれば不味い。取り敢えず厳重にしようと、空き部屋に向かうファルであった。


月と闇の属性は維持と保護を強く司る。ファルは月と闇の投影を駆使して、部屋全体に保護の結界を張ると共に、部屋の中央に一つの箱を出現させる。状態維持と保護を組み合わせたその箱は、外部からの刺激を通さず、術をかけたファルとシャスにしか開けられない仕様になっている。この中に種類毎に分けた聖石の山を圧縮させて仕舞い、さらに光の投影で見た目を台に使っていそうなボロい木箱に変え、ファルは一先ずホッと息をついた。


いきなりとんでもないものを送り付けてきたシャスに、何をしてくれるのだと文句の一つも飛ばしてやろうと思った丁度その時、シャスから吉報が飛んできた。


(ファル!ファル!塩があったよ!)


(え、本当!?じゃあ、ベルクスの実と合わせれば醤油ができる!?)


(ラムザ草の実も合わせれば、味噌もできるかも!)


余りの嬉しさに文句がぶっとんだファルであった。


そんなこんなで、新たに手にいれた塩を加えて料理の幅を広げていれば、やれ牛乳もどきの樹液やら、ぷりぷりの走る茸やら、見た目爆弾な胡椒擬きやら、次から次へと心躍る戦利品が届き、精霊達はグレードの上がる料理によって舌の肥えたグルメ料理精霊に着々と近づいていったのであった。


精霊達は精神体ゆえ本来なら食事を必要としない為、実に数千年ぶりの食事をしたばかりだという事を考えると、えらい変わりようである。


走る茸を鍋に入れようと追いかける火の精霊を眺めながら、それにしてもとファルは思う。


(大分すごい奥地を探険してるなー。)


たまに覗き見るあちらの風景の壮絶さに、苦笑を漏らすファルであった。





豊富な材料の元、そこそこ満足ゆく料理を作れたファルは、ラムザ草の実をのんびり味見していた。


うるち米、もち米、インド米、赤米、黒米と、かつて日本で食べた様々な種類のお米に、近いラムザ草の実を選り分けていく。


(これはうるち米に近いからウルチラムザ、これはもち米に近いからモチラムザ…。)


因みに彼女のネーミングセンスについては言及を避けるべきである。敢えて言うなら彼女の前世の愛犬の名がコロ助なので、推して知るべし。


ラムザ草の実に、かなりまんまな名前を付けている最中にそれは起きた。


((な…!?))


魂を揺るがす戦慄。自身の存在を脅かす異物への恐怖。


突如として現れた外敵へと対抗するために、ファルは無意識下にシャスとの同調を深めた。


結果的に異物は追いやる事ができ、勢いのまま精霊達に乗せられて、異物を分裂させれば、出来上がったのは卵二つ。そして、悩むまもなく卵は孵り、孵った幼竜の中身は古代の王と老竜。さらに精霊と幼竜は仲良しこよしの旧知の中。うむ、なにがなんだかわからん。おそらく精霊達に嵌められたであろう事以外、全くわからん。ウルチラムザの入った茶碗を握りしめたまま溜め息を吐くファルであった。


例え呆気にとられる程訳がわからなくとも、あれ程の恐怖を味あわされたのだから、きちんと理由を聞かねば気がすまぬと、シャスと共に精神的疲労から持ち直し、首謀者達の言い分を待ち構えていたファル。


しかし彼女達のやる気は、突如として破られた。


グゥォォォォオオオオオオ


グゥルルルルギュルルルル


大地を轟かす強烈な爆音。その名も腹の虫によって。




急速にどうでも良い気持ちにさせられた時の事を思い出していたファルは、握り飯を握る手はそのままに、賑やかに料理を貪り続ける欠食竜を見やり呟く。


「あれだけ美味しそうに食べられると作りがいがあるよね。」


「そうだよね。あんな無我夢中で貪る姿なんて中々お目にかかれないよね。」


どうやら既に二人してほだされかけているらしい。


しかし、それ程に幼竜二匹と精霊達の食欲は凄まじく、料理人冥利に尽きる食べっぷりであった。最も精霊達は食べるのも好きだが、料理を手伝うのも好きなため、ちょくちょく輪を抜けて料理し、また輪に入り騒ぎと、器用なことをしていたのであった。


まだまだこの宴会のような騒ぎは続きそうである。いつの間にか訪れた夕暮れを眺めながら、まさか夜中までは続かないよねなどと、冗談を言い合うファルとシャスであった。


((まさかね…?))


長い夜は始まったばかり。



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