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蜥蜴に出会えば

幾千年もの時を刻んだ巨大樹。こんこんと緩やかに湧く泉。風が吹き囁く葉音に呼応する小鳥の囀ずり。密やかに、けれど躍動的に命を繋ぐ生命の営み。


人智の及ばぬ未踏の大森林の奥で、響き渡るは…





――すーすめー♪――


――すーすめー♪――


――のーをこーえー♪――

――やーまこーえてー♪――


――われらーはー♪――


――いーくーよー♪ー――


==シャースちゃーんたんけーんたーい♪==


気の抜けるような精霊達の歌声であった。


自身の名前の入った、とても人に聴かれたくないような歌を歌われているシャスではあるが、諦めの境地に立つのは意外と早かった。


何しろここは前人未踏の地である。自分達の他に人間はいないのだから、当然この歌を聴いている人などいやしない。そう吹っ切れてからのシャスは早かった。自分と精霊達を遠足に来ている引率の先生と二人の問題園児に置き換え、生暖かい眼差しを精霊達に向けて後ろから見守るのであった。いわゆる現実逃避である。


そんな状態のシャスを気にせず、精霊達は自分達のお薦めスポット目指してガンガンと進んでいく。


しかし、このお薦めスポット、中々に侮れないもので、道中ではファルとシャスの心をよく掴んだ様々な戦利品が収穫されていったのだ。


例えば、ファルに荷物を送って直ぐに向かったのは、ほの暗い洞窟であった。この洞窟、鉱石蜥蜴クリスタルリザードの棲みかであった。


クリスタルリザードとは、名前の通り鉱石を中心に餌とする蜥蜴の事で、サイズは手のひらサイズから人の片腕程のサイズにまで成長する。鉱石を食べる事からわかるように、肉食ではなく、外敵に襲われない限りおとなしい生き物である。


実はこの蜥蜴、鉱石以外にも好物がある。それはズバリ神力である。


通常、吸収した鉱石は自身の栄養に回し、余剰の鉱物は背中に結晶化して貯めおくのだが、神力を多く吸収したクリスタルリザードの蓄積結晶にも、神力が僅かに宿り、世に言う魔石や聖石を作り出す事が出来るのだ。


実はこの性質の為、クリスタルリザードは乱獲され、現在では国や教会、個人が所有する保護区に僅かに数を残すのみにないっている。


さて、人の到達出来ない未開の地にあるこの洞窟、まさにクリスタルリザードの理想郷である。クリスタルリザードの蓄積結晶は、もしもの時の彼らの非常食なのだが、この天敵もおらず、神力という極上の食糧が豊富に満ちたこの洞窟において、非常食が消費されることなく、ポロポロと衣替えよろしく生え代わり棲みかに貯まっていくのであった。


さてさて、そんな見る人が見ればまさに宝の山状態のこの洞窟に精霊達がシャスを連れてきた理由は極めて単純であった。曰く、女の子だからと。彼らが言うには、


――おんなのこはーみーんなーきらきらーしたものがーだいすきーなんだよー。――


――そうそうーおとこにーみつがせてーよろこんでるーこがーいっぱいーいるよねー。――


大変突っ込みどころ満載なお言葉である。


とは言え、流石は精霊達が薦めるだけはあり、洞窟の中は僅かに差し込む光に反射した結晶がキラキラと光り、大変幻想的な景観を作り出していた。


このような場所に訪れ、美しい結晶を拾って行けるなどと、まさに女性向けなお薦めスポットと言えるだろう。ある問題点を除けば。


問題はシャスが神子だという点にあった。


クリスタルリザードの好物は神力である。


もう、おわかりであろう。シャスがこの洞窟に足を踏入れた時、彼らクリスタルリザード達は、普段ののんびりとした動きからは想像出来ない程の素早い動きでシャスの元へ集まり、シャスを取り囲んだかと思えば、その場で脱皮宜しく蓄積結晶の生え代えを始めたのであった。正しくは生まれて初めて出会ったレベルの高密度な神力の食事を貪るように始めたのである。


クリスタルリザード達は、実に三、四十匹程で円陣を組むようにシャスを取り囲み、満足がいくまで神力を貪っては次の個体と交代するというのを繰り返していった。


時間にしておよそ四半刻(三十分)後、呆然とするシャスの周りには、人の背丈以上に積み上がった蓄積結晶の山が出来上がっていた。


ある意味壮絶な光景を一部始終見せられていたシャスが思ったことはただ一つ。


(爬虫類苦手じゃなくて良かった。)


苦手な人には気絶ものの体験であっただろう。


さて、シャスの周りに形成された蓄積結晶の山であるが、シャスから放出された直後の濃密な神力を元に作られているため、はっきりいってかなり高品質の聖石になっていた。


そうとは知らないシャスは、


(ビックリさせられたし、通れなくなって邪魔だし、貰っても良いよね。綺麗だし何か作れそう。)


といった何とも軽い気持ちで蓄積結晶の山を圧縮してファルに転送していたのであった。


思わぬ大収穫ではあったが、シャスの心がこれで鷲掴みにされた訳ではない。むしろ、蜥蜴の軍勢に囲まれるという何とも言えない体験をさせられて、地味に精神ダメージを与えられている。


本命は洞窟の奥にあった。


蓄積結晶で彩られたクリスタルリザード達の寝床を越え、徐々に下がっていく洞窟を進めば、そこには三階建ての建物が余裕で入りそうな程の高さのある空間が広がっていた。


その空間に広がっていたのは、一面に広がる水面の輝きと、所々水面から顔を出す、透明な結晶の塊であった。


独特の匂いを感じたファルは、水面に近づき、指先に一滴水を滴らせて舐めとった。


「しょっぱい。塩湖だ…。」


(ファル!ファル!塩があったよ!)


(え、本当!?じゃあ、ベルクスの実と合わせれば醤油ができる!?)


因みにベルクスの実は、大豆に似た味のタンパク質豊富な豆である。


(ラムザ草の実も合わせれば、味噌もできるかも!)


正に夢ここに広がれり。日本食への可能性が大きく開けた瞬間であった。


予想外な所でシャスにかなり感動された風の精霊と大地の精霊であるが、流石はシャスちゃん普通の女の子とは一味違う。ここに導いた自分達凄すぎる。と、相も変わらず斜め上をいく解釈をして互いを誉めあっていたのであった。


こんな感じで始まった探検ではあるが、その後も世界樹ですかと問いたくなるような巨大樹や、ナイヤガラもビックリな滝を擁する渓谷など、投影を駆使してサクサク進みながら精霊お薦めスポットの探索を行い、数多の収穫物を得ていたシャス御一行である。


本当に色々な物があった。濃厚なミルクのような味のする樹液を出す巨大樹や、海老のようなプリっとした食感を持つ走る茸に、胡椒味の花粉を飛ばす真ん丸い爆弾のような形の巨大花。


挙げ出したらきりのない、インパクトのある数々の戦利品を思い浮かべるシャスは現在、精霊達お薦めの最後のスポットに向かっている最中である。


――ついたー!――


風の精霊が元気に到着を告げるが、そこにあるのは巨大な岩と、それを囲う今まで進んできた道と同じ唸るような大自然があるのみであった。


首を傾げるシャスを見た大地の精霊はすかさず助言した。


――ふふふー。ここはねーほかのーばしょとはーちがってーひとくーされてるーばしょだからー。ものすごいーいんぺいがーかかってーいるんだよー。よ~くみてみてー。――


そう促されたシャスは目を凝らして見た。すると、目の前の巨大な岩だと思っていた場所には巨大な扉が現れていた。扉とは即ち人工の建造物である。


「これって…。」


――ようこそー!――


==りーくんのーかくれがへー。==


どうやらリガルダ王の隠居後の住まいであるらしい。


――さー。さー。――


――入ってー。入って。ー――


入らせる気満々な精霊達。シャスは他人の家に勝手に上がり込むのは少々気が引けたが、一応家主は亡くなっているのだしと、扉に手をかける。かつて栄華を極めた古代王の住まいを覗くという誘惑に負けたのであった。


期待と多少の不安を交えつつ、意を決して扉を開く。そこに現れたのは…








ドラゴンであった。



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