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ある日森で

米は日本人のソウルフードである。元日本人であるファルシアスにとっても、あるならば食べたい食材である。普通の米なら炊いて食べて、もち米ならば煎餅にすればよい。つきたての餅も美味しそうだなあと考えつつ、シャスは湖畔に広がる森林に降り立った。


サファティガル城を囲む湖に面する森は、リガルダの森と呼ばれている。リガルダの森はサファティガル城の背面を中心に広がる森である。


神子から放出される神力を長い年月をかけて近くで享受しているだけあって、数多の動植物が棲息する自然豊かな森である。


だがこの森、実は国も教会も指をくわえる大変勿体無い森であった。


というのも、リガルダの森は今は失われた秘術で入り口が隠されているからである。


このリガルダの森はエルヴィガルナの初代国王リガルダが、隠居後に住み着いた屋敷の周りに生い茂っていた小規模の森が始まりであるらしい。それが幾年もの時を経て、資源豊富な大森林にまで成長したのだ。


当時リガルダ王は、隠居後は人に煩わされることなくのんびりしたいと公言して、正しい入り口以外から森に入ると、すぐに森の外へ出てしまう術をかけた。


森の入り口は常に移動しているため、実質リガルダに許可を得なければ森に入れない状態となったのだ。


故に、リガルダ没後は何人も受け付けぬ不可侵の森となったのだ。


エルヴィガルナ建国初期は、まだ古代神聖語の使い手が多数残っていた時代で、何を隠そう初代国王リガルダも世界で有数の古代神聖語の語り手であった。その為、長い月日が経った今でも、リガルダ王の施した秘術を解除出来ないままなのであった。


さて、そんな事は知らないシャスは、初めは適当な場所に降りようとしたのだが、精霊達に教えられて、正しい入り口から入って行ったのであった。


因みに実体の無いものを視ることが出来るシャスには、他人が施した術の力の流れも視ることが出来るようで、彼女の目には森を覆う霧状の力が周囲の神力を集めて術を形作っている様が写っていた。


昔の人は凄かったんだなと、若干興味を惹かれたシャスであったが。どうせ知識検索の結果は恐ろしいのだろうと、自分に言い聞かせたのであった。


こっそり感覚共有して様子を伺っていたファルは、それが懸命だと慰めたのであった。



初めて見た森の内部は、圧巻の一言である。内部に満ちる神力と生命力の濃さをひしひしと感じたシャスは息を飲んだ。


(教会の聖堂より神力の密度が濃いよ…。)


当たり前ではあるが、自身が放出している神力よりは密度が下がるものの、明らかに放出地点から近い教会内部の方が神力の密度が低い事に、驚きと少々の不信を隠せないシャスであった。


――どーしたのー?シャスちゃんー。――


動きを止めたシャスに気づいた風の精霊が、シャスに近づいていく。


「えーと。森の方が教会より神力が満ちていてびっくりしただけだよ。普通はこうなの?」


――あー。なるほどー。――


――ふつーのもりはーこんなにーすごくないよー。――


――このもりはーリーくんのーじゅつがーあつめたーしんりょくをーいちぶーそそがれてーいるからねー。ー――


どうやらリガルダ王の秘術は、神力を集めて森の入り口を隠すだけでなく、森自体にも多大な恩恵を与えているらしい。本来ならばリガルダ王の凄さをより感じる場面であったのだろうが、初代国王に対する精霊達の呼び方に気をとられてしまうシャスであった。


(リーくん…。古代王がリーくん…。)


何となく凄さが薄れて感じてしまうのは仕方がないだろう。



知識検索の通り、ラムザ草はそこら中に生えていた。また、ベラクスの実とマナティアの花も其々密集して生えており、投影を駆使せずとも容易に見つけることができた。


しかし、このリガルダの森が閉ざされた環境にあった為か、ラムザ草一つを見ても、大きいものから小さいもの、実の形が少し違うものなど、独特の進化を遂げた個体が多く見つかった。


その為、一株あれば投影で株数は増やすことが出来るため、運ぶ量は気にしていなかったシャスではあるが、より調理に適した個体があるかもしれないと、多くの個体を採取していき、結果として少々運びずらい量となってしまった。


「ちょっと張り切りすぎちゃったね。取り敢えず運んじゃおっか。」


――運ばなくてもー大丈夫だよー――


「ん?」


==ぎゅぎゅーっとしてーぽーいすればーいいよー。==


「え゛!?」


山のように積み上がる戦果を見て、少しやり過ぎたかと、気恥ずかしい気持ちになったシャスであったが、風の精霊と大地の精霊の不穏な言葉の再来に、顔をひきつらせてしまったのであった。


「ぎゅーってあのぎゅー?」


あの、分裂の際に感じた存在を圧縮させられるような圧迫感が蘇る。


――そうだよー。あのぎゅーだよー。――


――だけどーこんどはーそんざいだけでなくてーじったいもーぎゅーってするからーぎゅぎゅーっなんだよー。――


わかったようなわからないような。今一想像しがたい説明ではあるが、どうせ渋っても強制実行になる可能性が高いので、シャスは続きを促した。


「ぽいってのは何するの?」


「ぽいはねーぎゅぎゅーってしたーものをーつながってるーあいてにーわたすのー」


==こーんなーかんじー==


言うや否や、風の精霊と大地の精霊がそれぞれ近くにあった木の実を圧縮させてビー玉状にしたかと思うと、突然シャスの目の前に一粒出現させた。


突然出現したそれに驚いたシャスが、咄嗟に受け止めようと手を伸ばして触れた瞬間、弾けるように元の木の実に戻ったのであった。


「わっ!?」


(わっ!?)


魂を通じて同時に起こった驚愕。どうやらもう一粒のビー玉は、ファルに転送されていたようだ。


(急にびっくりしたよー。ちゃんと事前に合図してって言っといて。)


(了解~。)


「急には止めてだって。」


==は~い。==


相変わらず反省の色が見えない精霊達である。


「これは分裂しないんだね。」


――ちょうせつーしてるからー。――


――それにーぶんれつーさせるならーじったいはーぼうちょーさせないほーがーひきあうーちからがーはたらいてーかんたんーなんだよー。――


中々奥が深いようである。

――じゃあーシャスちゃんー。ちゃんとーおてつだいーするからーさっそくーファルちゃんにーおくってーみよー。――


――ぶんれつよりーかんたんだからーだいじょーぶよー。――


精霊達に促され、積み上がった山の幸に向き合うシャス。意識をそちらに固定し、先ほど精霊達が行った光景を思い浮かべる。すると、そこには山のような収穫物は消え、一粒の丸い球体が出来ていた。


ビー玉よりも二回り程大きくなってはいたが、大丈夫だろうと、ファルに合図を送る。


(行くよー?)


(どうぞー。)


まさにぽいっと投げるような感覚の後、丸い球体は姿を消していた。


(無事届いたよー。)


(良かったー。)


無事荷物が運ばれたのを確認し、シャスは一息ついたのであった。


――ぶじーおくれたーみたいだねー。――


――じゃーてぶらにーなったーところでー。――


==いざーたんけんにーしゅっぱつだー!!==


まだまだリガルドの森から出られないようである。


うきうきとお薦めスポットを出し合う風の精霊と大地の精霊を見ながら、まあ楽しそうだからいいかと、精霊達の話し合いが纏まるのをのんびり待つシャスであった。




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