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土産に悩めば菓子を持て

風の精霊主導の飛行訓練は、冷やっとした場面もあっものの、何とか無事に終わったのであった。


「今更だけど、皆が選んでくれた人達にはどうやって先生役をお願いするの?」


移動手段を確保出来たシャスは、思いきってどのように半聖人の方々に先生役を引き受けて貰うのかを聞いてみた。精霊達の行動の突進具合を考えると、絶対にこちらの心臓に悪い方法に違いないと確信していたのだ。


――えーとー。どうってーいうほどのーことじゃーないよー。――


――そうそうー。ただーシャスちゃんがーこーごーしーおーらをーだしながらーまいおりてーめいれいすればーいいんだよー。――


「って!?突撃するのは私なの!?」


――そうそうー。ボクたちはー、かれらにはーみえないーからねー。――


――だいじょーぶだよー。さいしょにーいくのはーヴェルサースくんのーところだからー。ー――


――そうそうー。あのこはーしんかんとしてもーすごいこだからー。シャスちゃんをーみればーちゃんとーみこだってー気づいてーくれるよー。――


――それにーちゃんとーこーごーしくーなるよーなーえんしゅつもーばっちりーするからー。――


――まかせろー。――


――うでがーなるぜー。――


全然おまかせ出来ない提案である。


「え、演出はいらないかな…。」


――えー。いるよー。――

――ひっすだよー。――


「あーっと。ほら!私はまだ飛べるようになったばかりでしょ。あんまり派手な事やると失敗して落ちちゃうかもしれないし…。今回は普通にやろうよ。普通にね。」


やはり何事も第一印象は大切である。精霊達の神々しい演出とやらで引き受けて貰えたとしても、先生役の方々からは一線引かれてしまうであろう。ここは、例え引き受けて貰えなくても、普通にお願いして、運良く引き受けて貰えればそれで良しとしよう。ただでさえ教会では針のむしろなのに、外に出てまで腫れ物のように扱われては堪らない。


精霊達も落ちそうになったら助けるし、完璧な演出にするよと力説しだしたが、シャスが頑なに譲らないのを見て、仕方ない、派手な演出は諦めようと、一度身を引いたのであった。


しぶしぶ頷く精霊達を見て、シャスはお礼を言いつつも、心のなかでは疑心暗鬼になっていたりする。


(くそ~。絶対に諦めてないよあの子達。)


(頑張れ~。)


(裏切り者~。)


(だって私留守番組だもん。)


(代わらない?)


(代わらな~い。)


(だよねー。はぁ…。)


出発前から気苦労は増えるのだった。



さて、先生役をお願いしに行くからには、手ぶらで行くのも申し訳ないと、ファルとシャスは手土産を用意することにした。


とは言ったものの、ファルとシャスが用意できる物と言えば、塔の中で作る事が出来る物なのだが。


やはり、前世の知識を元に作る菓子あたりが妥当であろう。


「やっぱり、時間がたっても美味しい焼き菓子がいいよね。」


「そうだね。クッキーとかカップケーキとか。煎餅何かも作れるといいかも。」


「煎餅か~この世界にもち米なんてあるのかな?」


「どうだろう、知識検索によると、ラムザ草の実をお米みたいに食べる地域があるみたいだけど。」


「ラムザ草ならその辺に生えてるよね?ちょっと採って来るよ。」


――ボクもいくー。――


――ボクもー。――


「ついでにベラクスの実とマナティアの花も採って来て。私はシシルの実の粉をベースにしたクッキーの試作品を作ってるから。気を付けてね~。」


「はーい。」


==はーい。==


元気な返事と共に三人組は空を翔て行ったのだった。



窓から出掛けていくシャスと風の精霊と大地の精霊を見送ったファルは、早速試作品の準備に取り掛かる。


まずはお茶会の用意の為に作り出した植物園へ移動して、必要な材料の収穫に取り掛かった。


ファルシアスの部屋となっている塔の最上階は、大きく分けて九つの空間に別れている。真ん中に空いた円形の広間をドーナツ状に囲うように繋がった部屋が八つ有るのだ。八つの部屋の中で階段に正面から面しているのがファルシアスの良く使う部屋である。


実はこの塔、サファティガル城が教会に寄贈される前、かつて王城として存在していた時代に、とある呪われた姫君が幽閉されていたとされる曰く付きの塔である。


故に、いかに景観が良く、部屋の調度も良かろうとも、ここに住みたがる強者も、物好きもいないのだ。


立地的に、神子の放出する水の神力が教会内で聖堂の次に増幅しやすく、幽閉しやすい事から、ファルシアスの居住地に決定されたのだ。


他に使う人がいないため塔の最上階は、好きに使えと申し付けられていたファルシアスであったが、基本的に家事に追われる生活をしていたファルシアスは、主な生活に使っている部屋以外は掃除以外にには滅多に入らないのであった。


とは言っても、一部屋一部屋の大きさがとてつもなく広く、ファルシアスが拠点にしている部屋だけで、充分な広さの居間と寝室の他に、小部屋を五つも内包しているので、拠点ですら使っていない場所が多いのであった。


さて、今回植物園として改造された部屋は、ファルシアスの拠点から時計回りに一つ進んだ部屋である。各部屋の造りは基本的に同じである。一番広い空間を挟んで左右に小部屋が三つずつ並んでいる。この、一番広い空間に、投影でプランターと土を作り出し、種を植えて成長を促進させたのだ。あっという間に植物園の出来上がりである。


ここに植えてあるのは、ファルシアスが着の身着のままで教会に連れて来られた際に、生家の思い出として持って来れた植物と、食事の際に出た果実の種を育てたものである。


ファルシアスが祝福を受けに行こうとしていたミュティヌス教会東サティバ支部のあるカーチェの街は、エルヴィガルナの東部国境付近では最大規模の街である。


故に市場も広く色々な店も揃っている為、当初ファルシアスの両親は、ファルシアスにとっての初めての大きな街を満喫する計画を立てていた。その一貫として、畑で作ったモルブ芋とシシルの実、メルトの花を市場で売ろうと一緒に運んでいたのである。


結果として、不幸が重なり、両親は他界し、ファルシアスも気づけば教会に保護されていたのだが。


ファルシアスは両親の葬儀後、火急的速やかに教会本部に護送される計りとなった為、形見として持って行ける物がその時両親が身に付けていた装飾品と運んでいた植物だけなのであった。


もっとも、それを哀れに思った東サティバ支部司祭長ウーランが、部下に指示してファルシアスの生家から形見になりそうな物を見繕い、ファルシアスの元に送り届けてくれていたりする。密かにファルシアスの中でいつか恩を返したい大恩人である。


さて、植物園からお目当てのシシルの実を中心に、メルトの花や実、ルコンの実、ラプスの実と、使えそうな植物を収穫していくファル。おそらく何度も試作を繰り返すだろうと、中々大量に収穫されているが、まだまだ植物園内にはたわわに実と花を結んだ植物達が所狭しと生い茂っている。


因みに茶会の後でこの植物園を紹介されたガルディア司教長とアメリア侍女長は大変遠い目をしていたとだけ記しておく。


外への足を得たファルとシャスによってこの植物園が今後どのような進化を遂げるかなどは誰にもわからない。司教長と侍女長の胃に穴が開かないのを願うばかりである。


植物園で集めた材料をファルが居間に広げれば、それを取り囲むように精霊達が集まって来た。どうやら精霊達にとっても、神力を菓子作りに利用するのは珍しいようで、興味深々で見学するようだ。


そんな精霊達をかわいいなぁと思いつつも、


(どうせすぐに、ボクもやるー。とか言い出すんだろうなぁ。)


と、達観しているファルであった。真理である。


はてさて、無事にクッキーは作れるのやら。出来れば美味しいものが作れればいいなぁと、精霊達に慣れたのか感化されてきたのか、どこか呑気なファルであった。




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