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空翔るに必要な事

風の神力を使って物を浮かせる事は、風属性の奇跡の中では初歩と言え、難易度の低い部類にあたる。しかし、自身を浮かすとなると話は別である。


通常物を浮かす場合は、浮かす物を視認しているため、浮いたまま停止させた状態や、動かす際の道筋なども比較的想像しやすい。


しかし、自身を浮かせるとなると、浮いている最中の自身の状態を全体的に確認するのが難しい上、自身の足場がない状態というのは想像以上に不安定で、恐怖を煽りバランスを崩しやすくする。


この自身を浮かす技を修得するのに、最初はかなりの時間がかかるのだろうと、覚悟を決めていたファルとシャスであったが、その覚悟とは裏腹に、思わぬ要因で僅か半刻(一時間)足らずで修得してしまった二人であった。


その思わぬ要因とは、まず、彼女達が分裂している事が挙げられる。


通常、自身の浮いている姿を視認する事は出来ない。よって失敗した時にどの辺りからバランスが崩れたのかとか、どの姿勢が浮くのに適しているのかなどを確認するには、第三者の目で見てもらうか自身の感覚に頼るしかない。


一方でファルとシャスは分裂体であり、魂が大元で繋がっている二つで一つの存在であり、互いに感覚を共有する事が可能である。つまり、浮いている最中に視界共有する事で、片割れの視点からの自身の姿を確認する事が可能なのである。


(世の中いつ何が役に立つかわからないね。)


(本当にね。)


正に、棚からぼた餅である。


次に大きな要因となったのは、浮く方法の想像力の多彩さであろう。


前世は実用書やサブカルチャーまで興味のある事は一通り手を出すタイプだったため、綿毛などの浮力を利用したものから、気流に乗る雲の流れ、映画撮影のワイヤーアクション、漫画やファンタジー小説等、様々な浮いている状態を参考に想像を使い分けているのだ。


二人で様々な浮き方を試した結果、空中に漂うには空気を固めたクッション状の浮き輪の様にするのが楽で、移動の際はワイヤーアクションを想像するとスムーズにいき、静止するには空気を圧縮させた足場を作るのが一番安定する事がわかった。


まだ室内で浮ける範囲でしか試してないため、スピードを出すなどの大がかりな事は試せてないが、早くも想像力を刺激されて、色々と試したい気で一杯な二人であった。


さてさて、想像以上に飲み込みのいい、むしろ良すぎて教える前に自分達で改良してしまった二人に、風の精霊は余り教えられなかったと拗ねるかと思えばそうでもなく、


――さーすがーファルちゃんとーシャスちゃんー。こんなにー浮けるならーだいじょうぶー。さっそくーそらをーとんでみよー。――


どこまでもマイペースにぶっ飛んでいた。


((はや!!))





眼下に広がるのはサファティガル城、少し視界を広げれば湖の煌めきと青々と繁る木々も目にする事ができる。


窓枠に立つファルとシャスは、数刻前にも目にした景色を感慨深く見つめた。


「何だか変な感じがするね。」


「本当だね。」


――二人ともー準備はいいー?――


「「うん。大丈夫だよ。」」


――じゃー。いくよー。まずはーおてほんねー。――


風の精霊がそう掛け声を掛けるや否や、二人の周りを風が包み込み、大空へと誘った。その感覚は、数刻前に落ちていた際に感じていたものと良く似ていた。違いと言えば、今は時に昇り時に急降下しと、縦横無尽に緩急つけて大空を回遊しているところだろう。


((凄い…。))


大空を翔ることにより目まぐるしく変わる景色に二人は目を輝かせ、心を踊らせた。


一通りファルとシャスを飛び回らせて、ある程度満足した風の精霊は二人の修行へとシフトさせる。


因に、外で修行するために、ファルとシャスと光の精霊は、共同で光学迷彩を参考にした不可視の目眩ましを開発していた。これで誰にも気づかれずに修行に専念できる。地球の現代技術もビックリなステルス性能になっていたりする。


――じゃあー。あいずしてーはなすからー。さっきみたいにー浮いてねー。――


((ゴクリ…。))


――うふふー。きんちょーしなくてもー。だいじょーぶー。あぶなかったらーちゃんとーたすけるーからねー。――


そう胸を張る風の精霊の自信満々な様子に、肩の力が少し抜けたファルとシャスであった。


――じゃあーいくよー。さーんはーいー。――


掛け声と共に包んでいた力が霧散するのを感じながら、ファルとシャスは風の神力を投影する。


((う、浮いたー!!))

まだ浮いただけではあるが、地面からかなり離れた空中に自力で浮いているという事実は二人に深い感動を与えたのであった。


さてさて、人というものは現金なもので、大丈夫だとわかれば色々と試したくなるのが世の常である。


ゆっくり移動と浮遊を確認したあとは、上昇気流に乗って上昇してみたり、逆に下降気流にのって下降してみたり、中々やりたい放題に様々な案を試す二人であった。


だからであろう、いつも騒がしい精霊達がやたら静かにしているのに気づかなかったのは。


台風は突然やって来た。


――ぼくもーやるー!!――


楽しそうに派手な飛び方を試すファルとシャスを見た風の精霊は、我慢出来なくなったのだ。文字通りの小規模台風を起こし、ファルとシャスを呑み込んでいく。


((う、うわ~~~!!))


==ぼくらもー。==


巻き込まれたファルとシャスと自ら飛び込む精霊達。彼らをひとしきり洗濯機の洗濯物のように回転させた台風は、不意にポイッと大空へと吐き出した。


==きゃははははー。==


((ぎゃーーーー。))


突然の解放による飛行を楽しむ精霊達と、頭がついてかずに声なき絶叫をあげるファルとシャスであった。


多少パニックになりかけ自由落下しかけるも、どうにか正気になって体勢を持ち直した二人。


((こ、こわ~~。))


本当に精霊とは自由な存在である。


――たのしかったー?――


どこをどう見れば楽しそうに見えるのやら。多少抗議も言いたくなったが、とても本気で楽しかったか聞いている様子の風の精霊を見て、呆れを通り越して苦笑が漏れる二人であった。


旅立ち準備は順調に進む。



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