未だ見ぬ師を知る
虹色の羽が四つの的を射た事で、先生役候補者が半分にまで絞られたのだと思ったファルとシャスは、次は一体どのような方法でこの中から一人を選ぶのだろうと、精霊達の動向を伺っていた。
だが、悪酔いから復活した精霊達は今回の結果に大変納得して、しきりにウェンデルファルン神を誉め称えていた。
――さすがはーうんめいのーめがみさまー。――
――このよにんをーいっしょにーえらぶとはー。――
――そーだよねー。べつにーひとりだけしかーせんせーにーできないわけではーないよねー。――
――よにん合わせればーファルちゃんとーシャスちゃんのーきぼーをーあますことなくーかなえられるねー。――
――そうだねー。――
――めいあんだねー。――
どうやら生け贄は一人から四人に増えたようである。
ファルとシャスは、先生役への了承なしに交わされる議論に、大変申し訳ない気持ちになってはいたが、一方で有識者へのつてが無い現状では、ありがたいとも思っていた。
しかし、一人だと思っていた先生役が、四人に増えたとなると、申し訳なさも四倍へと膨れ上がるのであった。
因みに精霊達が突撃モードで目標に向かっている時は、はっきりした理由が無い場合は止めれないと最早諦めの境地に二人は至っているのであった。
考えてみて欲しい、ファルとシャスが精霊達を目視出来る二千年ぶりの人間であることからもわかるように、先生役に選ばれた人間達も当然精霊の姿を見る事が出来ない。
つまり、精霊達は自分達を認識すらしていない人間にファルとシャスの先生役を押し付ける気満々であるし、当然出来ると思っている。
一体どんな無茶をやらかすのやら。
まだ見ぬ先生陣に心の中で合掌をするファルとシャスであった。
――ええーではではー。ここでー。はえあるーせんせーにーえらばれたーよにんをーしょうかいーしましょー。――
突然仕切り出す風の精霊の音頭を皮切りに、虹色の羽によって的を壊された四精霊が、我が事のように胸を張って紹介し始めた。
――まずはー、いちばんーさいしょにー羽にーあたったーぼくからーしょうかいーするよー。――
最初に紹介を始めたのは、水の精霊である。
――ひとりめはーヴェルサースくんってーなまえのーみゅてぃぬすーきょーかいのーまえのーそのまたまえのーもういっこまえのーしゅきょーだよー。半せいじんでーまだーにひゃくごじゅっさいーぐらいのーぴちぴちなのー。――
初っぱなから突っ込みどころ満載な紹介である。
ファルとシャスは今の紹介で、良くわからなかった単語、半せいじんを素早く知識検索した。概要にあたりそうな項目をざっとまとめると、半せいじんとは、半聖人つまり、聖人に近い人間の事だとある。
世界に大きく貢献すると、神々から直接加護と報酬を賜る事がある。その褒美として人間から半聖人に存在を格上げされる事があるのだ。
半聖人は人間であった時にくらべて、体力、魔力、運動能力など、自身の持つ能力が倍近く上がり、不老に近い程、老いが緩やかになる。
つまりは、普通の人間ではない、正にビックリ人間なんだな。まあ精霊が選ぶくらいの人間だしな。と変な納得をしたファルとシャスであった。
彼女達は知らない。自身を含める神子は一般的に聖人と呼ばれる、さらにとんでもないスペックと潜在能力を持つ存在である事を。
まさか自分達がそんなビックリ人間であるとは考えつかないファルとシャスは、特に聖人について知識検索を行うことはなかった。
だが、考えてみれば、精霊達主導であったとしても、存在の分裂などをやってのけて、無事でいられる人間が、普通の人間である筈ないのだが、幸か不幸か彼女達に突っ込みを入れる者はいなかった。
先生役から教わる事は彼女達が考えている以上に多そうである。
――つづきましてーごしょうかいーしますはーとこやみのーもりのーはしゃーまじょヴェルヴェンディーちゃんですー。こちらもー半せいじんのーぴちぴちーにひゃくごじゅうだいー。――
続けられる闇の精霊の紹介には常闇の森だの覇者だの魔女だの、とても詳しく検索したくない単語が目白押しである。
ファルとシャスが少々意識を飛ばしかけていると、気にせずに火の精霊が三人目の紹介を始め出した。
――はいはいー。つぎはーぼくー。さんにんめはー火のくにーヴぁどりあのーせんせんだいーこくおーだよー。ダリオンくんってーいうんだー。ちなみにーこちらもー半せいじんでーぴちぴちのーにひゃくごじゅっさいぐらいー。――
なんだか国王だとかいう物騒な単語を耳にしたファルとシャスは、脳みそが完全に白旗をあげたのを感じた。もはや何も言うまい。
燃え尽きた二人に構うことなく紹介を引き継ぐのは、司会をつとめていた風の精霊である。
――さいごにーしょうかいしますはーぺんとみーねをーちゅうしんにーしょうかいをーいとなむーあきんどのーララフェンリーちゃんでーす。なんとーララフェンリーちゃんはーよにんのなかでーさいねんしょうー。ぴちぴちのーにひゃくよんじゅうだいのー半せいじんだよー。――
もはや何も言うまい。突っ込みなどは入れぬぞと、ファルとシャスは平静に努めた。が、心中では、
((変わんないよ!!!))
と盛大に叫んでいた。二百五十も二百四十も大差ないであろう。特に人間とは比べるまでもなく長く生きている精霊には、そんな差など有ってないようなものであろうに。
突っ込みを入れさせる為に、よもやわざとボケているのではないかとジト目で見やれば、凄いでしょオーラと誉めていいのよオーラを放つ精霊達にやられ、ノックアウト寸前になるファルとシャスであった。
「凄い人達だね。全員半聖人なんだ。」
――そーだよー。――
――じつはー。このよにんはーむかしーひとつのーぱーてぃーをーくんでーぼうけんーしてたんだよー。ー――
――そのぼうけんのーなかでーラグアスさまとーファルテナさまのーおとしものをーみつけてーほごしたんだー。――
――あれはーみものだったー。――
――すごかったなー。――
何やら大分凄い出来事のようである。精霊達が口々に称賛を述べる姿を見たファルとシャスは、例によって知識検索のタイトルを見ないふりをした。何故関連項目に『ラグアス神とファルテナ神の大喧嘩』とか『落としたのはどちらのせいか?第二回大喧嘩勃発』とかがあるのやら。
落としたものが大変気になりはしたが、それを知るまでにいくつ恐ろしい情報があるのかと考えると、とても情報を開く気になれない二人であった。
――さてさてー。せんせーたちのーしょーかいもーおわったーところでー。――
――たびだちのー。じゅんびをーすすめたいとーおもいますー。――
((!!))
精霊達の行動力の活発さから見ても、近い内に外の世界に出る事が出来ると、密かにわくわくしていたファルとシャスではあるが、同時に少しの緊張と恐怖も感じていた。それが一日も経たない内に、出発の準備である。いやはや、精霊達の猪突猛進な行動は本当にダイナマイト級の破壊力である。
――ちなみにーファルちゃんとーシャスちゃんのーどちらがーいくのー?――
「あ。それは私が行くよ。」
風の精霊の問いに答えたのはシャスであった。
――シャスちゃんはーたかいところーだいじょうぶー?だいじょーぶならーいどーはーとんでいこーよー。――
「「飛べるの!?」」
これにはファルとシャス両人で勢い良く聞き返してしまった。
胸の奥に密かに大空への憧憬を募らせてはいたが、こんなに早く飛べる機会が巡って来るとは思いもしなかったため、大変嬉しい驚きであった。
――とべるよー。いきなりはーあぶないからーうくれんしゅーをしてーうまくできたらーしゅっぱつしよー。――
風の精霊が胸を張って答える。指導役は任せろと言わんばかりのドヤ顔である。
おそらく、今までで一番の尊敬の眼差しを風の精霊に向ける二人を見て、他の精霊達はちょっとムッとした嫉妬の念を風の精霊に送るが、何事も適材適所。そこは我慢して二人の修行の応援にまわるのであった。
果たして精霊主導の修行は無事に終わるのか、空への興奮で頭が一杯のファルとシャスには、安全性について考える余裕はないのであった。
まあ、怪我をする事は無いだろう。心労が無いかはわからないが。それが精霊クオリティーである。




