[10]やまがらの夫婦に何が起こったのか [11]トイレが大変だ!
[10]ヤマガラの夫婦に何が起こったのか
狸狐庵山荘に来るヤマガラの夫婦と云えば、
勿論ブラッキーとホワイティーのことである。
改めてご紹介しよう。
殆どのヤマガラには、黒い頭の頭頂部分にある白い帯状の模様、いわゆるモヒカンカットの白黒を入れ替えたような柄があるが、ブラッキーの場合はその白い部分が線のように細くて、全体的にほとんどが黒く見える。
一方のホワイティーは他のヤマガラよりも白い部分が広く、頭全体が白っぽく見える。
つまりそんな特徴が、二羽のヤマガラの名前の由来となった。
「ねえ、餌持って行くのって、ブラッキーばっかやねえ」
山荘の東側にある一枚硝子の窓に近いデッキに、ひまわりの種をばら蒔きながら妻が言う。
二羽の特徴に注目しながら様子を見ていると、ブラッキーはひまわりの種をくわえたままで窓の中の様子を窺う余裕さえ見せ、一方のホワイティーは、窓の近くまで飛んでは来るものの、中に人の気配を感じたら直ぐにUターンしてどうしても餌のところまで辿り着けない。
「ホワイティーは、下半身がぶるぶる震えてるねえ。どうしたんやろ」
「そうなのよ。卵を産む前なのかなあ。それともどっか悪いのかなあ」
妻もホワイティーの異変に気付いてたようだ。
「ホワイティーは何やっても鈍臭いねえ。この前、山荘の中に餌置いてたら、取りに来たのはいいけど、出口がわからんなってねえ、硝子戸にぶち当たってパニクってたよ」
「あっ、そう。可哀想に。もっと取り易いところに餌置いてやらにゃ。具合が悪いみたいやから」
その頃から、ブラッキーが山荘の餌場に来てもホワイティーの方は姿を見せなくなり、矢張病気だったのか、或いは卵を産んだのか、などと妻と心配していた。
そんなある日のこと、
「わーっ、ホワイティーが一番先に餌取りに来た」
確かにホワイティーだった。
相変わらず餌のところでは逃げ腰である。
そのあと直ぐにブラッキーも来た。
ところがブラッキーはもう一羽の見慣れない新入りヤマガラを伴っていて、なんと来るなりホワイティーを追っ払らおうとしたのである。
二羽はいつも一緒で、丁度我々みたいに、とても仲のいい夫婦ヤマガラだと思っていた僕達には、到底信じられないような光景だった。
因みに新入りヤマガラのモヒカンは極普通の幅と色である。
ホワイティーを追っ払ったあと、ブラッキーと新入りヤマガラは僕が窓際に蒔いた餌を仲良く啄んでいたが、そこに再びホワイティーがやって来て、今度は新入りヤマガラとホワイティーが連れだって何処かに行ってしまった。
事情を知らない人達にとっては、全くどうってことのない普通のヤマガラ達の行動であろう。
「ホワイティーとブラッキーの新しい彼女との二羽が、何処かに行っちゃったみたいね」
妻も気付いてたようだ。
「二羽で妻の座をかけて、差しで話し合いに行ったんじゃないの」
「ヤマガラの世界も、人間と同じなんじゃ」
暫くして、ホワイティーと新しい彼女が帰ってきて、今度は三羽仲良く窓際のひまわりの種を、代わる代わるに啄みだした。
一夫一婦制の多い鳥類だが、まさかブラッキーは二羽の雌を妻の座に据える積もりじゃないだろうか。
雲行きが怪しくなってきた。
山荘のトイレ編Ⅰ
[11]トイレが大変だ
狸狐庵山荘のトイレは、簡易水洗トイレとやらいうやつで、つまり汲み取り式トイレである。
簡易水洗というトイレは、皆さん余り馴染みがないと思うから簡単に説明しておこう。
実を言うと地方育ちのこの僕でさえ、見たことはあるが余り真剣に使ったことはない。
一般的に汲み取り式トイレとは、いやここは汲み取り式便所という方が似つかわしいと思うが、通常大きな便槽が地下に掘ってあってその上を覆う床板に穴を開け、そこから便槽向かって放水したり爆弾を落としたりする形式のものが多い。
ところが、用足しの合間に切り抜き穴から覗き見る便槽は、暗い空洞の壁面を蛆虫達が這い上がったり、そして更にものが溜まってくると、下方からジリジリと身近に迫って来るその渾沌とした圧迫感、或いはおつりと呼ばれる汚水の跳ね返りまであって、それらの景色は頻繁に夢の中にまで現れ、僕をトラウマ的な恐怖に落とし入れるのである。これは、汲み取り式便所には殆ど馴染みのない今の若年層には全く未知の世界なのであろう。
これを取り敢えず物理的に解消しようというのが簡易水洗だったようだ。
つまり切り抜き穴を便器で覆い、その便器には用足したものが通る丸い弁のようなものがついていて、これがいわゆる我々がパッコンと呼んでいるもので、その上にものが載るとその重みで弁が開き、ものは便槽へと落下する。
そして開いた弁は元の位置に跳ねて戻るような仕掛けになっているのだが、戻るときに鹿おどしのようにパッコンと懐かしい音がする。
ところがこの簡易水洗、山荘で使いはじめて2週間くらいして、いろんなアクシデントが起こり始めたのである。
今年は山荘でも残暑が厳しい。
吹く風は爽やかだが陽射しは相変わらずきつい。
先頃までうるさいほど鳴いていた鶯もいつの間にか鳴りを潜め、替わりにヒグラシたちの演奏会が盛んだ。
山荘の秋の訪れは意外と早いのかも知れない。




