日本列島のたり旅紀行編、[39]雲仙温泉、露天風呂で白酒は楽し
日本のたり旅紀行編
[39]雲仙温泉 ・露天風呂で白酒は楽し
唐津から伊万里を経て雲仙に向かう。
雲仙に登る道は、考える村に続く林道を彷彿させる。
それは林道の傾斜をきつくしてほんの少し引き伸ばせば、それでいい。
雲仙温泉街の標高が約700mくらいというから考える村のそれのおおよそ2倍余りということになる。
それゆえ坂道は結構急峻でピンカーブが続くため、途中で道を間違えたのではと不安になる。
そこら辺も考える村の林道によく似ている。
雲仙岳の標高が1483mだから温泉街はその約半分の高さだが、登ってみるとこれが結構高いのである。
温泉街に入る少し手前に雲仙ゴルフ場というのがあって、ここは日本のパブリックゴルフ場(ちなみにここは県営とのこと)のなかでは最古だというから、当たり前の話だが古さではどこにも負けない。
但しホール数は、全9ホール(いくつかのホールはグリーンを二つずつ設置してあって一応18Hとしてあるようだ)しかない。
僕の経験上、古いゴルフ場には広々として景色のいいところは余りない。何故なら当時は今のような大型の重機がなかったため、手作業での造成工事が中心で、元々の地形を生かした設計になってるからだと聞いた。
ここもそのとおりの狭苦しい斜面に造られていて、ホール数も9Hともなればゴルフコースのなかでも、むしろそれはミニコースという認識しか持てないのである。
温泉街の雰囲気は40年以上前とはそれ程には変わっていなかった。
僕の脳裡が一瞬のうちにフラッシュバックする。
中学の同級生に多古野という坊主頭の真ん丸い男が居た。力があって顔は達磨のようだった。
その男は、か弱い僕をいじめようとする立場にあったが、そこそこ頭のいい男だったからそこまではしなかった。
それに彼が僕をいじめ通せない理由がもうひとつあったのだ。僕には常にマグマ大使がついていて、僕が危機に陥り、大声で『ピロローン、ピロローン、マグマ大使ー!』と主人公のマモル少年(テレビではとし坊こと江木俊夫が演じていた)が笛を吹くような真似をすれば、吉倉というマグマ大使のようにハンサムで力の強いスポーツマンが僕を助けに来てくれたのである。だから、筋書としては多少おかしいが多古野も吉倉も共に僕のいい友達だったわけだ。
その多古野が修学旅行の雲仙の宿泊旅館で、誰か人がトイレに入るとノックをやり続ける。そして「雲仙名物ノック攻め!」と言いながら喜んでいるのだった。僕としても、実に馬鹿々しいがどこかかわいいその悪戯の景色が好きで、40年以上もの間僕の記憶の端に生き続けていたのである。
もう一人高井という友人は、その日は長崎から雲仙に移動したため、出島辺りの雰囲気に酔っていたのか、大広間の舞台のようなところに座っていた僕の前にひざまずき
「南蛮渡来の珍しい品を殿にお持ちしました」
「おー、もーちと近こう寄れ。で、その珍しい物とはなんじゃ」
「はーっ、時を刻むチクタクというものにござります」
「ほー、これへ持て」
雲仙の旅館でのそんな場面の記憶もまた、僕の青春のひとこまであった。
叔父夫婦たちと泊まったのは『雲仙福田旅館』という、古い旅館をモダンな民芸調にリホームしたところであった。この旅館の売は何と言っても風呂であろう。
泉質は、僕の最も好きな白濁とした硫黄泉。
しかもなかなか濃い感じだ。
山肌の斜面に旅館が建っていて、地下一階から更に20段余りのきつい階段を降りたところに大きな露天風呂がある。
雰囲気はまあまあというところか。
夜暗くなってからのことだからはっきりしたことは判らないが、周りの景色は余り無いようだ。
「まあ、ここのお湯はいいなあ」
会社の慰安旅行なのか、或いは出張先なのか、若いサラリーマン風の男が同僚見たいな若い衆に話しかけるともなく、独り言のように唸る。
「本当だなあ」
「この前箱根に行ったんだけど、あそこよりこっちが上だよなあ」
「そりゃあそうでしょう。この湯は凄いわ、これー」
そんなわけで、露天風呂の雰囲気は最高ー!とは言い難いが、お湯に関しては確かに最高に違いなかった。
だから僕は、それから約2時間後に妻を誘って貸切り露天風呂に入った。
予約制だが、勿論無料である。
これは全てが最高ー!だった。
四畳半程のこじんまりとしたスペースだが、湯槽の向こうは山の斜面になっていて、うまく自然に調和している。
山の斜面からは竹の樋が延び、それを伝って白濁とした硫黄泉が湯槽に注いでいた。
更にお盆に載った白酒のサービスがあり、白濁としたお湯にお盆を浮かべ白酒を飲む。
「んー!こりゃー最高ー!」
なんて妻とふざけあっていたら、白酒の載ったお盆がひっくり返ってしまった。
白濁としたお湯の中に白濁とした白酒がこぼれようがどうしようが、勿論痕跡など残ろう筈がない。
いわゆる完全犯罪なのだ。
その後は妻とふたりで白酒ぶろを満喫したのだった。




