[40]黒川温泉、混浴は楽し [41]下呂温泉、マッサージとヘルスは楽し
[40]黒川温泉・混浴は楽し
熊本県阿蘇の黒川温泉郷には何度か訪れた。
僕のお気に入りで、温泉好きにはその情緒を結構満喫できる場所だ。
一度は今から15年程前、高岡君という僕より5歳程年下の職場の同僚ともう一人、ふたりの共通の女友達である典子さんの三人で車で出掛けた。
愛媛の八幡浜港からフェリーで別府に渡り、そこからやまなみハイウエーで阿蘇に入るというルートの一泊旅行であったが、なにしろ三人共に所帯持ちである。男ふたりに女一人という組合せに各方面で波紋を呼んだ。
特に僕の妻に至っては、
「最初は『えー?何よそれ!』って思ったけどー、三人の馴れ初めとか関係を聞いたら、成る程それなら別にいいのかな、って思うようになったから、どうぞ行ってきてください」
とは言うものの、
玉音放送(終戦の詔勅)ではないが『堪え難きを堪え、忍び難きを忍び・・・』の如く当惑した体が傍目にも歴然としていて痛々しい。
やまなみハイウエーは阿蘇の雄大な景色の中を走っている。
北海道の広々とはまた少し趣を異にしていて、どちらかと言えば富士山のような火山性の雄大さに共通するものがあるような気がした。
高岡君はサンルーフから上半身を車の屋根の上に出し、これをフランソアと子供たちに見せるのだと言って、ビデオカメラを回して雄大な景色を撮り続けた。
因みに高岡君の奥さんは裕子という名のれっきとした日本人であるが、顔がどことなく外国人っぽい雰囲気が漂っていて、更に限定すれば東欧の、目の縁に薄い隈のような縁取りがあって、影のような愁いを秘めたロシア系の女性を連想させた。
そんなわけで高岡君が面白がって彼女のことをフランソア、自分をリチャードと呼んでじゃれあっているのだった。
三人は、黒川温泉郷の割合奥の方に位置する『黒川荘』という日本旅館にその日の宿をとった。
この旅館もやはり自慢は大きな露天風呂であろう。
内風呂とセットで二組の露天風呂があって、泉質はここもまた僕の好きな白濁とした硫黄泉である。
黒川荘のフロントの女性がこれまた可愛い別嬪さんで、早速高岡君が、今晩の夕食ご一緒にいかがですか、などと軽いジャブを飛ばしていた。
一方の僕は夕食の食前酒に出た甘ーいリキュールが効いて可なりの酩酊ぶりであったが、それでも二回は露天風呂に入った。
翌朝もやっぱり、ここでやることと云えば温泉三昧である。高岡君とふたりで目覚ましの朝風呂に行ったのであるが、僕はトイレのために彼より少し遅れて行く。このことが後にふたりの運命を大きく左右することとなる。
内風呂は湯けむりで視界が悪い。
遠くの方の洗い場にひとりだけ人がいるのが確認出来た。小柄で丸っこい感じは、一見して高岡君ではないことが判る。僕はそのまま露天風呂に出た。そこには誰もいない、僕だけだ。
僕はそこで20分くらいの間ひとりで湯浴みを楽しんだが、その間入って来るものはひとりもなく、その後僕は温泉でふやけ切った体を脱衣場で乾かしていた。
すると突然典子さんの声が入口の暖簾の下で響き渡った。
「えー?!ふじとうさん!何してるのこんなところで!女風呂よこちらは!」
成る程、彼女の指差す先には『女湯』という赤い暖簾がぶら下がっている。
夜と朝では男女が入れ替わるという、旅館の風呂ではよくある常識を僕はウッカリと見過ごしていたのである。
つまり僕が内湯の湯けむりの中で見た小柄で丸っこい人は紛れもない女性だったわけで、更に露天風呂で過ごした20分余りの間に只一人の女性も入って来なかったというのは奇跡に近かった。
もしあの時、若い女性なんかが一人で露天風呂に入って来ていたら、相手は自分の方が間違えたと思うかもしれないし、もしかしてここは混浴だったのかなあ、などと思うかもしれない。そして僕は一瞬とは言えいいものを目撃出来たのかも知れなかった。或いはその女性たちが4,5人の大勢だったりしたら、僕の運命は?、などと考えるとやっぱり僕はとても運がよかったに違いなかった。
「ふじとうさん、どうして風呂に入って来んかった」
と不満気な高岡君に僕が事情を説明すると
「まー、あんたという人はどこまでも助平な人やねえ」
結果的にはそういうことになってしまったのかも知れないが、決して僕には悪意はなかったのである。解って欲しい。
黒川温泉では入浴手形なるものを購入し、そのほか2ヵ所の旅館で温泉を楽しんだ。
一ヶ所は旅館の主人自らが掘ったという洞窟風呂、もう一ヶ所のコバルトブルーの白濁湯なるものは、長年僕が憧れていたものだった。
これだけ温泉に浸かると、如何に温泉好きの僕と言えども、さすがに湯疲れするものである。
12分に癒され過ぎた僕達は、ごご3時頃、温泉玉子を頬張りながら高岡君の運転で帰路に着いたのだった。
[41]下呂温泉・マッサージとヘルスは楽し
随分前の話である。
会社の研修会とかいう名目でバス一台借りきって下呂温泉に行ったことがある。
研修会と言ってもその行き先は、松本城、黒部ダムからアルペンルートを通って兼六園だの下呂温泉だの、どのように考えても会社の仕事内容と関係があるようには思えなかった。
参加者の誰もがこれは慰安旅行に違いないと思ってた筈だ。
宿泊したのは団体客がよく泊まる類いの、そこそこに大きくて造りも雑でなんの特徴も無い、そうかと云って別に悪い印象も無いような、古い卓球台と寂れた売店のある、中の中、といった感じのホテルであった。
そして中流旅館の定番のような夕食を済ませ、腹は張ったが何となく気分的に物足りないねえ、などと言いながら、同僚で僕よりは少し年上だが独身の女性と二人で、温泉街のとある小さな居酒屋に入った。
「なんかつまらんねえ、この旅行」
「こんなもんよね会社の旅行なんて。ふじとうさん、やっぱり旅行は彼女と二人っきりで行くに限らあね。これ食べてみて。美味しいよ」
「なに?これ」
佃煮のようではあるが、何の佃煮かは判然としない。
「イナゴ。バッタの佃煮」
そう云えば彼女は、社内でも有名なゲテモノ食いだった。
僕は、バッタの生前の姿を思い浮かべながら、躊躇しながらも恐る恐る食べてみた。
バッタだと言われれば、食感の中にそれらしき痕跡が無くもない。しかしやっぱり佃煮以上の何物でもなかった。(このくだり前出の『昆虫食』でもありました)
そのあと出された『馬刺』には、その当時の僕には箸を出すことは出来なかった。
その店の人の話によれば、『イナゴの佃煮』と『馬刺』はこの地方では極普通の食べ物らしい。
若い頃から温泉好きだった僕は、郷土料理と地酒で少しは旅情を味わった後、ひとりでその日二度目の温泉に浸かりに行った。
風呂には誰もいなかった。僕一人だ。
団体客が泊まるホテルにしては余り大きな風呂ではない。
脱衣場の壁に温泉に関する様々な能書きが並べてある。
下呂温泉は『アルカリ性単純温泉』で、『神経痛、筋肉痛、関節痛』に効能があるらしい。
これもありきたりなことで、嘘か本当かは判らない。
多分書いてる本人も判らないと思う。
ようやくのことのんびりとした気分で湯槽に浸かっていると、誰か一人入ってきた。
どうやらうちの会社の連中ではなさそうだ。
僕は彼を無視して湯浴みを楽しんでいると
「何処から来られました?」
見ると40前くらいの断髪のおじさんである。
僕はその当時30前だった。
彼は僕が聞きもしないことをあれこれと喋りだし、そのなかで中日ドラゴンズの選手達が療養とか静養のためこのホテルを利用することもあり、そんな時彼が選手たちのマッサージを彼らの部屋とかこの風呂でしたりもすると言う。
「ちょっと、そこに足を伸ばして座ってみてください」
そう言いながら彼はそっと僕の方に近付いて来た。
僕は言われるがままに、風呂のタイルの上に足を伸ばして座った。
すると彼は、素早い手つきで僕の太股のマッサージを始めたのである。
それは揉むと言うよりも激しく擦る感じのもので、彼の手は僕の男根とか玉袋辺りにもぱたぱたと当たっていて、どう見ても故意に当てているとしか考えられなかった。
危険を感じた僕は、「あっ、もう結構です」と言いながらあからさまに身を引いたのである。
彼は一体何をするつもりだったのか。
それとも単なる僕の思い過ごしなのか。
未だに謎である。
いい機会だから少し触れておきたい。
僕の読んだ小説の中に『男根』のことを『触角』とか『竿』とか表現したものを見掛けた。(皆さんもご存じだと思うが、共に芥川賞受賞作品である)
個人的には余りピンとこなかった。
『触角』が一つというのもおかしな話だし、この年になると『竿』である時間などほとんどない。
『○○こ』とかいうのも更に面白くない。
いろいろ考えた末、僕は『男根』を使った。




