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[35]まむしの親分の噺 [36]大阪のおばちゃんvs まむしの親分 [37]まむしの親分、余話

35]まむしの親分の噺


(前回から続く)


今日も考える村・考堂のレストランに行った。

人里離れ、世間からは隔絶して、と言えば如何にも厭世的で逃避感漂う風情だが、訪れる人々はここを別天地、或いは別世界と言い、そして人里や市街地のことを下界と呼んで、僕たち村の住人を悦に入らせてくれるのである。

つまり、ここは雲の上に存在する村であり、ここに住む人々は天使であったり仙人であったり、或いは場合によっては死者である場合もあるわけだ。

我々夫婦は、何の根拠もないが、おそらく前出の『なんちゃって狸狐庵仙人』の末裔とでもしておこうか。

そして更に、村に通ずる、車で凡そ15分くらいかかる葛折の林道を、我々は雲の階段に(なぞら)える。

ある住人は、これは神社に通じる玉砂利のようなものだと言う。

どちらにしろ、林道は下界と雲の上とを結ぶ架け橋的存在であろう。


閑話休題。

少々乱暴な言い方をすると、要するに、人里離れて他に店もレストランもないから、毎日でも考堂のレストランに行くしかないのである。

断っておくが、勿論行くのが嫌だとか、飽きたとか言っているわけではない。

僕たち夫婦は、いつものように窓際に座る。

テーブルの横にはこの前と同じように花瓶に差したやまももが置いてあって、矢張変わらず美味しそうな、完熟した実が5つ、いや、この前は5つくらいだったと思うが、今日は3つに減っていた。

その減った2つの行方が僕には大変気になった。


「この前、山田さんの山荘に、やまももを取りに行っちょったよ」

僕はいつもの口調で、小西さんに話し掛ける。

「そうですか。いっぱいあったでしょう」

「それが、まむしがおってねー」

「えーっ?本当ですか!」

僕は、その時の状況を事細かに小西さんに話した。

ガラガラヘビのように尻尾を振って威嚇されたことを話すと、小西さんは震え上がって怖がりながら厨房に戻り、料理をする古田さんに逐一報告する、その話し声が店内にも響いた。

小西さんは、また我々のテーブルの横に立って

「まむしって普通のヘビと見た感じ違います?」

「あれ、まむし見たことないの若菜ちゃん」

「噂には聞くけど、ないんですよ。大っきいですか?」

「いや、割合短くってねえ、ずんぐりした感じ。普通のヘビに比べてスマートさが全くないねえ。色と言い、形と言い、僕に言わせりゃ、うんちがトグロ巻いてるような感じやねえ」

「えー?そうなんですか。でも、まむしの毒って強いんでしょう?」

「体の大きさの割りには結構強いらしいねえ。ハブの毒より強力だっていうからねえ。」

「えーっ?怖い!」

今時の若い者は、矢鱈と、えーっ?を連発する。

それほど驚いて貰うと、話す方も自ずと気合いが入ってくるというものだ。

ただ、若い者と言っても、小西さんはもうとっくにアラフォー世代は過ぎている筈だが、下界はともかく、ここら辺、つまり考える村近辺では、若い者で十分通るからと、いつも嬉しそうに笑っている。

「でもねえ、服の上からだと結構毒も薄まるらしいから、長靴みたいなやつ履いてると、大丈夫っていうねえ」



[36]大阪のおばちゃんVSまむしの親分


(前回の続き)


小西さんは余程まむしに興味があるらしく、先程から我々のテーブルの脇にお盆を持って立ったまま、足のしんどいのも忘れて、話に夢中である。

彼女も怖いもの見たさなんだろう。

実際、話してる僕にしても、ヘビには滅法弱い質で、ヘビの話をしてるだけでも、背筋をもぞもぞさせ、なんとかその気味悪さを払拭させようとしながらも、それでもなおびくびくとしながら話しているというのが実情なのである。

更に言えば、パソコンでヘビの検索をしていて、写真や動画を見たりするときでも、何処か覚悟を決めたり胆を据えたりしていて、極端な話、自分の携帯やタブにヘビの写真が保存されてると考えるだけでも、何処か薄気味悪く思うのである。

その時、僕の直ぐ近くにある花瓶のやまももの枝から、バサッという大きな音を立てて、えんじ色の実が2つ同時に転がり落ちた。

まむしの話をしていた僕は、自らが胆を冷して飛び上がる。

少年のトムソーヤにもなれない、びくついた自分が情けない。

「まむしの目の前の方には、ピットっていう穴の器官があってねえ、ここは獲物から出される赤外線を感知して、生き物は少しでも温かいと赤外線を出すらしいけど、だから、まむし自体の動きは、普通は鈍くて緩慢やけど、一度狙った獲物は、瞬発的に、決して逃さないらしいよ」

「えーっ?すっごいー!怖いですねえ、まむしって。ハイテク機器で獲物を捕るんですねえ」


これほど脅かしといたら、多分口コミで拡がる筈だから、考える村ではまむしの咬傷被害は起きないだろう。

僕も含めての話だが、なんとかそう願いたいものである。


それから2,3日して山荘の中井さん夫婦が狸狐庵山荘にやって来た。

中井さんは、大阪の千里ニュータウンに実家があって、山荘は完全な別荘として使っているのだが、典型的な大阪のおっちゃんとおばちゃんで、ご主人は吉本新喜劇の池乃めだかを連想させ、一方の奥さんは中川家演じる大阪のおばちゃんそのまんまである。

彼らは、自分達の山荘からここまで、散歩がてらに、それぞれが剪定鋏と小さなつるはしのようなものを携えて、狸狐庵山荘に来るなり挨拶もそこそこに、いきなりそこら辺にしゃがんで草を刈ったり、根を掘り起こしたりしながら、口も手も止めることなく、ぺらぺらと夫婦が交替交替に喋りだす。しかも絶妙のコンビネーションであり、ふたりの会話が重なることは殆どない。

我々がその話に割り込もうとしても、中々これが容易ではない。

長年培った夫婦のコンビネーションというのは侮り難いものがある。

「この前、山田さんちに、やまももを取りに行ってました」

やっとのことで割り込めた。

山田さんちと中井さんちは、木立を隔てて隣同士である。

折角のチャンスだからまむしと出合った話を始めると、

「この前私が草刈りしてるときにもまむしが居てねえよう見たら頭のないまむしがコロコロ転がってるからなんでやろ思うてたら私が草刈り鋏でまむしの頭飛ばしてましたんやでもービックリしたのなんのって・・・・」

完全に奥さんに話取られてしまいました。

「まむしって2メートルくらいは空中飛ぶいいますやんかほんままむしってこわいわー」

大阪のおばちゃんの方が、もっと、こわいわー!


「結局あの人達何しに来てたの?」

妻も呆れ顔だ。

因みに、まむしは自分の体長以上の跳躍は出来ないそうです。

ほな、さいなら。



[37]まむしの親分・余話


まむしの親分の存在感は実に大きい。

しかし日本に於いてニホンマムシの生存する個体の数は、ヘビの種類の中でもそれ程多い方ではないらしい。

事実、僕の人生を通じて、まむしと直接関わった事例は、この前の山田さんちのやまももの木の下での遭遇と、もうひとつ、それは今から20年近く前の話になるが、横浪半島にあった子供の森自然公園での絡みのみである。

その頃サラリーマンをやっていた僕は、日曜日は大概家族サービスに時間を費やし、車で手軽に行けるフィールドアスレチックやレジャープールなど、同僚から、子育て用のレジャーマップを作ってくれと云われるくらいに、日曜の度に家族連れで頻繁に車で出掛けていた。

その日も僕は炎天下、7才になる息子を連れて、海沿いにあるフィールドアスレチックを目指していた。

僕は、海岸線の急な傾斜の山道を軽快なテンポで駈け下り、幼い息子がそれを追いかけるようにして後に続いていた。

薄暗く鬱蒼とした木立のなかに差し掛かったとき、足元をふと見ると薄茶色に盛り上がった木の根っこのような塊が目に入った。

幅が1メートル半程の山道のほぼ中央付近に陣取るその塊を、咄嗟に僕はヘビだと認識したが、同時にそれは普通のヘビでないことも肌で感じ取った。

全く逃げようとしない彼のその物腰は、間違いなくまむしであることを、即座に確信出来たのである。

全く偶然に踏み出した僕の足とまむしとの距離は僅か10センチ余り、正に危機一髪というところだった。

たまたま踏み出したところが少しでもまむしの体に掛かっていたとしたら・・・、今でもぞっとする記憶である。

「止まって!」

僕は1メートル程通り過ぎて咄嗟に振り返り、大声で幼い息子を制止した。

途端に息子も事情を察したようで、その場に止まったまま固まってしまった。

僕はそこら辺に落ちいていた木切れを拾い、とぐろを巻いたままのまむしを追っ払おうとしたが、全く動こうとしない。

普通のヘビとは違うまむしのこのような行動に僕は恐怖感と不安感が募り、同時に気持ちは焦りでパニクってしまい、気が付いたら少し離れたところから手当たり次第に石を投げつけていた。

それでもまむしは逃げようとはせず、身動ぎもしない。

そして投げつける石はどんどん大きくなっていき、仕舞いには大きな岩を両手で持ち上げてまむしの上に置くようにして投げた。

まむしは岩の下で潰れた筈だった。

しかしまむしは最初から最後まで身動ぎもせず、だからその生死さえも確認できなかったのである。

その間息子もまむしの向こう側で固まったままで立ち尽くしていたため、藪蚊に体中あちこちと刺されて痛々しい。


「いやー、そこの下りて来る道にまむしが居った」

僕は興奮醒めやらず、アスレチックに居たおじさんに話し掛けた。

「そうかね。海沿いの崖地には、うんとおるき」

「まむしって、どうやっても逃げんですねえ。子供連れちょったき、往生した」

「そうじゃろう。あいつら、強力な武器持っちゅうきのう」

おじさんは、余り驚いた風もなく、それ以上の会話の進展はなかった。


僕のまむしに絡む思い出は、これのみである。

そして、この前のやまもも事件がそれ以来ということになる。


まむしに纏わる噂は、たまに聞くことがある。

その多くは、犬がまむしに咬まれたという話だ。

犬の頭がバケツくらいに腫れるらしい。

犬も猫も好奇心が旺盛だから、ついついまむしにちょっかいを出すのだろう。

だから咬まれる。しかし幸いなことに彼らの体は、まむしの毒に対する免疫力が、まむしの餌となる小動物よりも遥かに高いらしい。だからそれで命を落とすことは、まずないという。

自然界は、巧く出来ている。

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