↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その瞳 煌めく時   作者: 甲斐 雫
第1章 旅の仲間たち

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
7/72

7 どうせなら一緒に旅をしよう 

 愛馬を褒められたジェラルディーナは、近くにいた漆黒の馬を呼んだ。

「この子は、フォルテヴェローチェ」

 アストリアたちに紹介する女戦士は、嬉しそうに、誇らしげに馬を撫でる。

 白いところなど1つも無い、漆黒の馬体。

 黒は身体を引き締めて見せる色だが、このフォルテヴェローチェと言う馬は、それを補って余りあるほどの、堂々とした体躯だ。筋骨隆々としか言い表せない身体と、鋭い眼差しが、彼が軍馬であることを物語っている。


「それから、こっちがフェロー・バブル。従者の仕事をして貰っている」

 ジェラルディーナは、パンを全て食べ終わって、口元をゴシゴシを拭いている少年を指して言った。

「で、その馬が・・・って、カスターニョはどこへ行った?」


 ファローの馬であるカスターニョが居ない、と尋ねる主に、従者の少年は素直に答えた。

「この奥に小川があったので、そっちで水を飲ませてます」

 それを聞いたサリオスは、アストリアに告げた。

「それじゃ、ライゼたちにも水を飲ませに行ってくる。ついでの我々の水も、補給しておこう」


 案内するというフェローを先頭に、サリオスと馬たちが木立の向こうへ消えると、アストリアがジェラルディーナに尋ねた。

「レジネッタの方ですか?」

 おっとりのんびりと言った口調だが、女戦士は微かに警戒の表情を見せて黙る。アストリアは、それに構わず続けた。

「あ、ごめんなさい。フォルテヴェローチェっていう名前を聞いて、レジネッタ風だと思っただけだから」


 この周辺の国々では、言語は共通だが、国ごとに古い言い回しや言葉が存在する。

 フォルテヴェローチェと言う名は、レジネッタの古い言葉で、強く速いという意味だ。


 詮索するつもりなど全く無いと、顔に書いてあるような笑顔のアストリアに、ジェラルディーナはあっさりと白旗を上げた。

「ああ・・・うん、レジネッタが母国だけど、家を飛び出して来たんだ」

「あ~~~、じゃぁ同じ。私たちも家出してきたの」

 兄の方は支援者を探す目的の旅だったが、家を出るなりあっさりとそれを捨てたので、家出と変わりない状況だと言える。

 そしてその会話で、アストリアとジェラルディーナは意気投合した。


 やがてサリオスたちが馬たちと共に戻ってきた時には、すっかり友人のようになっていた2人である。

「あ、お帰り兄さん。ジェラルディーナと話し合ったんだけど、ここから一緒に旅をすることになったから」

 決定事項かよ、と突っ込みたくなるサリオスだが、きっと最終的には妹の希望を受け入れるだろうと思うので、解ったとだけ答えた。


「よろしく頼む、サリオス。お互い特に目的地がある訳でも無いし、冬が来る前に山脈を越えてエリンコートの方へ行こうかと言うところは一致したからな」

 ニカッと笑って手を差し出したジェラルディーナに、サリオスはこっそりと溜息をつきながら、その手を握り返した。


 するとジェラルディーナは、アッと声を上げる。

「忘れていたが、まだ仲間がいる。もう戻って来ているはずだから」

 そして彼女は、指を唇に当てると、鋭く指笛を慣らした。

「ピイイイィィーーーー」


 すると呼応するように鳴き声が聞こえ、風を切る翼の音と共に1羽の鷹が飛んできて、ジェラルディーナの肩にとまった。

「辺りを偵察させていたんだ。賢いぞ。名前はファルコだ」

 自慢げに言うジェラルディーナに、アストリアがボソッと漏らす。

「鷹・・・ね」

 レジネッタでは、鷹の事をファルコと呼ぶ。鷹の名前がファルコなら、馬をウマと名付けるのと同じじゃないかと思うアストリアだ。

「ん?・・・それ以外の何に見えるって言うんだ?」

 けれどジジェラルディーナは、寧ろ怪訝そうに言った。

「あ、うん。鷹にしか見えないから大丈夫。ファルコ、よろしくね」

 アストリアは、軽く首を傾げて優しく微笑み、鷹に挨拶をした。



 秋の山脈を越える旅は、サリオスが思ったよりもずっと楽しかった。

 山道で、冬ごもり前のクマに何度か出くわしたが、雌のクマはアストリアの進言で、追い払うだけに留める。

「あの種のクマの雌は、冬ごもり中に出産するの。その為にも、沢山食べて栄養を体に蓄えるのよね」

「妊婦なら、クマでも大事にしてやらんとな」

 女性2人の言葉には、逆らえるはずもないサリオスだ。


 けれど気が立っていて、既に攻撃態勢に入っている雄のクマは別だ。

 山道では、馬に乗ったままでは戦えない。サリオスは、パッと馬から降りて武器を構える。ヴェルトライゼンテは主とアストリアの間に立って、サリオスの様子を見ながら彼の妹を守る態勢になった。


 ジェラルディーナは、即座にフォルテヴェローチェの腹を蹴り、森の中に点在する岩の上を跳んでゆく。そしてあっと言う間にクマの背後に回り、そこで愛馬の背から跳び下りながら双剣を抜き放った。


 後ろ肢で立ち上がっていたクマは、背後に出現した女戦士に気付くと、バッと振り返って両腕を頭上に翳した。威嚇で体を大きく見せるクマに、女戦士と軍馬の覇気が飛ぶ。


 その瞬間、サリオスが踏み込んで初撃を与えた。

 ガッ!

 クマの脇腹から、剛毛の束と血しぶきが走る。

 グァァッ!

 比較的柔らかい脇腹を狙ったとはいえ、致命傷にはならない。

 クマは、咆哮を上げてサリオスに向き直った。


 それを見逃さず、今度はジェラルディーナが跳んだ。

 右手の剣で、クマのもう片方の脇腹を割き、身体を回転させながら同じ個所に左手の剣を叩きこむ。

 そこから飛びずさって間合いを取るまでの動きは、舞うように滑らかで速かった。


 前に剣、後ろに双剣。

 クマは翻弄され、剛腕から繰り出すはずの攻撃など、一つも当たらない。

 フォルテヴェローチェも、後ろ足の蹴りで加勢し、結局大きなクマは、あっと言う間に討伐されてしまった。


 倒れ伏したクマの身体を見下ろしながら、戦士2人は刃を拭う。

 そこへトコトコと近づいて来たアストリアが、いつも通りの穏やかな声音で言った。

「お疲れさまでした。命は無駄にしちゃいけないと思うから、持てるものは持って行きましょ」


 そして、解体作業が始まった。

「先ずは、肝臓の近くにある胆嚢。『熊の胆』って言うんだけど、干したものは貴重な薬になるの。後は、爪と牙と毛皮ね。素材になるから売れるわ。肉は、数日分の食料になるから、そのくらいの量で」


 アストリアの指示で動く、サリオスとジェラルディーナとフェローだが、討伐よりこっちの方が大変だったと言えよう。

「豚の屠殺を手伝ったことはあるけど、これだけ大きいとキツイです・・・」

 フェローが、小声で呟く。

「双剣を、こんなことに使うとは・・・なまくらになっちまう・・・」

 腹を割いていたジェラルディーナは、つい口調が荒くなっている。

「うぉぉぉーーーー、かっ固い!」

 大剣と短刀で爪と牙を外そうとするサリオスも、呻きながら頑張った。

 アストリアも、護身用の短剣で少しずつ毛皮を剥いで一緒に作業するが、こっそりと心中で呟いた。

(やっぱり、臭いわぁ・・・)


 やっと目的を達した時には、全員血みどろで生臭い姿になっていた。

「どこかで、身体を洗おうか」

 誰言うともなく、そんな声が上がった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。