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その瞳 煌めく時   作者: 甲斐 雫
第4章 海と新しい出会い

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4-4 若い商人たち

 海難事故から救助されたアストリアたちが上陸したのは、この辺りでは一番大きなライトフルという港町だった。

 北に屏風のように切り立った断崖絶壁を背負うその町は、東西い土地を有効に使い、貿易で発展している。


 船着き場に上がって救助してくれた人々に礼を言うと、一行はさてどうしたものかと辺りを見回す。すると一緒に救助された若い男2人のうち、少し年嵩の男性が声を掛けた。

「あの時は、本当にありがとうございました。お陰で自分たちも、命が助かりました」

 2人揃って深々と頭を下げるが、サリオスは寧ろ恐縮してしまう。

「いや、大したことはしていない。助けてくれたのは、イルカとクジラとここの救助船だと思う」


 若い男2人は、人好きのする顔をニコニコとさせ、更に言葉を続けた。

「いえいえ、それ以前に舳先部分に引き上げてくれたじゃないですか。それで、お礼と言っては何ですが、我々の家に来てください。あ、私はイオル・アニスと言います。こっちは弟のウィットで・・・・」

 イオルと名乗った若者は、海水を浴びて生乾きになっている彼らを案内しながら言う。

「あ、それじゃ俺は先に行って、管理人に伝えて来るわ」

 弟のウィットが、そう言って駆けて行った。


 イオルは道々、自分たちの事を親し気に語った。

「俺たち兄弟は、レジネッタの南端にあるフリオンという町の出で、父親は王都で商いをやってます。スターアニス商会というのですが」

「聞いた事があるな・・・」

 レジネッタの王女であるジェラルディーナが、小さく呟いた。イオルは彼女を見たが、その正体には気づかない。国王の末娘の顔など、滅多に見る機会はないのだろう。

「そうですか、まぁかなり手広く商売していますので名前くらいは聞いた事がある人は多いと思います。扱う商品の種類も、相当多いですから。俺は次男で弟が三男なんですが、家と商売は長兄が継ぐことになってます。実は俺と弟は妾腹の子で、兄が正妻の息子なんですよ」


 イオルとウィットの母親は、彼らが子供の頃に亡くなったという。その後は父親の元に引き取られ、一応ひと通りの教育を受けて育てられたそうだ。

 やがて兄弟たちが成人して、長兄が後を継ぐことになった時、家長である父はこう告げた。

「イオルとウィットには、生前贈与というかたちで纏まった金を渡す。それを持って、家を出てゆくように」

 将来的な兄弟間の争いを、未然に防ぐつもりだったのだろう。後腐れの無いように、縁を切っておくと決めたのだ。


「それでも貰った金は、2人合わせると新しく商売を始めるには充分だったので、良さそうな場所を探して、ここライトフルに決めたんです。中古ですが手頃な物件があったし、貿易も盛んですしね。今から案内する家がそうなんですが、古かったので内装やら何やらの工事が必要で、どうせなら準備が整うまでの間、扱う商品の仕入れのためにエポカドーロ国に行っていたんです。その帰りに、あの船が沈没しちゃったんですよ」


 金の残りの殆どは、信用できる管理人に預けてあるので、今後の心配は無いと言うイオルは、屈託ない笑みを浮かべた。

 やがて彼が案内した家は、港と山脈の中間地点あたりにある、見た目はかなり古い2階建ての家屋だった。1階を仕事場にし、2階を生活空間にするつもりのようだ。

「留守の間に、家具などは運び込んでもらっていますから、直ぐに住める状態です」


 イオルが説明していると、弟のウィットが帰って来た。

「伝えて来たよ、兄さん。直ぐに使用人たちも来るってさ」

 全ての手配は、管理人が行ってくれていたようだ。

 サリオスたちはとりあえず、彼らの好意をありがたく受け取った。何しろ今は、殆ど着の身着のままの遭難者状態だったのだから。



 翌日、風邪をひいて熱を出したアストリア以外は、全員が良く休んですっきりと目を覚ました。

 しばらくは逗留させて貰う事にし、それぞれがやるべき事をする。

 ジェラルディーナは、早速ファルコに簡単な文を託した。先ずは、金策である。

 フェローとケィティは、町中に買い出しに出かけた。アニス兄弟と話をつけて、滞在中は食事関係の仕事をするという事になっている。

 サリオスは、馬たちの世話に専念した。長時間海水に浸かっていたストレスが、心配だったのである。

 そしてトゥーレは、アストリアの看病をした。


 夜になると、兄弟たちと一緒に夕食をとって、色々と話をした。

「ところで、商売の方は順調なのかい?聞いた事が無かったが、どんな商品を扱うんだ?」

 サリオスが訪ねると、イオルとウィットは楽し気に答える。

「今のところは、まだ準備期間ですが、順調です。商いのノウハウは、叩き込まれていますからね。商品は、色々なんですが・・・」

「俺は明日、また船に乗ってエポカドーロへ行きますよ。前回話をつけて置いた取引先に行って、商品を受け取ってきます。ナツメヤシとオリーブですね。オリーブは、生とオイルを入荷する予定です。他にも売れそうな品も、幾つか見繕ってくるつもりなんです」


 食品系から衣料品、家具調度の類も扱うつもりらしい。

 最初はナツメヤシとオリーブから初めて、様子を見ながら他の商品も仕入れる予定なのだろう。


 するとサリオスが、ふと思いついたように尋ねた。

「砂漠の方へ行く予定はあるのかい?例えば、ドリューの町とか」

「ああ、そうですね。良質のナツメヤシは、やはりそっちが良いので、そこから仕入れます。ベルペル人の民芸品も、視野に入れています」

 ウィットが答えると、彼は身を乗り出した。

「フォッシルが入った原石を、知っているかい?」


「はい、実はそれも前回幾つか購入してみたんですが、原石10個を割ってフォッシルが入っているのはたった1つだったので、扱うのは難しいと、兄と話し合ってやめたんです」

 ベルペル人が磨いて作った完成品は、ここライトフルでは売れないだろうと思った。あれらはあくまで土産物で、現地だから欲しくなるような物だと判断したのだ。

 ただ原石ならば、ライトフルの町にも加工や細工を仕事にする人々もいるので、そこに需要があるかもしれないと思った兄弟だ。何しろ、原石なら相当に安い。とは言え、内部にフォッシルが入っていなければ、それはただの石である。


 サリオスは、ニヤリと笑った。

「フォッシルの原石について、素晴らしい鑑定眼をもつ人物を知っている。彼なら、百発百中だ」

 イオルとウィットは、ほほぅと身を乗り出した。



 そして半月後、ウィットは大量の良質なナツメヤシとオリーブ、そしてフォッシルが入っている原石を木箱一杯持って帰って来た。

 彼に持たせた手紙が、功を奏したようである。サリオスとジェラルディーナの名前は、ベルペル人の間でも知れ渡っていたし、アストリアが書き綴った薄桃色のフォッシルの顛末も、彼らの心を動かしたのだろう。


 サリオスは、その原石を数個買い取り、かつて世話になったタヤス村の細工師バーグの元へ、手紙と共に送った。彼なら面白がるだろうと思ったし、船の沈没で彼から購入した携帯用の石磨きセットも無くしてしまったので、新しい物を欲しかったのである。

 いくばくかの金と共に包まれた荷物には、送り主を『シスコンから卒業した兄』としておいた。

 それできっと解るだろうから。



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