↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その瞳 煌めく時   作者: 甲斐 雫
第3章 2つの地方の共同統治国

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
53/72

3-20 後宮の女性たちの趣味

 サリオスとトゥーレは、自分たちに視線が集まっていることに気付いていた。

 けれどここは後宮で、女性たちしか暮らしていない。辺りを見回せば、商いをしている男性もそれなりにいるが、皆かなり年配の者ばかりだ。

 若い男が2人もいれば、注目されるのも当たり前だろうと思っている。しかし市の邪魔になってもいけないので、露店の後ろの陰になるような場所で、ひっそりと蹲っていた。


 アストリアは、そんな市の雰囲気をしっかりと感じていたが、後宮の女たちの視線の中に、どこかでそれと似ているものを感じたことがあると気付いていた。

(普段見られないような若い男性に対する、熱っぽい視線は当然だと思うけど・・・それとは少し違うような・・・あ!思い出した)


 それはバシケーンでアン公爵令嬢が、自分とジェラルディーナを見つめていた時の視線と似ている。

(ええと、これって・・・もしかして?)

 男性二人の甘い関係を欲しているような、そんな視線のような気がしてきた。

(女ばかりの生活空間で、女性同士が恋愛関係になる場合もあるとは聞くけど・・・男性同士のそう言う関係を想像したり妄想したりする可能性も無いとは言えないわよね。あれだけ女性の数が多ければ、そういう嗜好の人がいるかもしれないし)


 そんな考えで自分を納得させ、アストリアは再び古着などを売りながら、王宮内の話を聞き集めた。

 その結果、ある程度の戦準備はしているようだが、後宮ではまるで別世界のように関心が無いらしい。おそらく関心の全ては、王様の寵愛をいかにして受けるかと言うことに費やされているのだろう。


 やがて開店当初の忙しさがひと段落すると、アストリアは店をフェローに任せて、他の露店を見て回ることにした。

 特に興味があったのは、文具や本を並べる店だ。並べてある品を見てみると、本は女性向けの物ばかりで、雑誌などの薄い本も多い。平積みにされているそれ等の奥に数冊、隠れるように置いてある冊子に気付いた。

(あら?・・・これって・・・)

 アストリアが手を伸ばすと、横からヌッと別の手が伸びて来た。

「あっ、すみません」

「いえ、こちらこそ」

 アストリアの横に、侍女らしい格好の娘がいた。

 お互いに手を引いて、顔を見合わせるが、娘は困ったような顔をしていた。


「あの・・・私、これを全部買うつもりなんですけど」

 平積みの薄い本数冊を指さして、小麦色の肌の娘がもじもじと言う。

「ああ、中身にちょっと興味があっただけなので、少し見せていただければ私は大丈夫」

 アストリアがニコッとして言うと、娘は辺りを見回して答えた。

「それじゃ・・・あっちの方でなら」


 裏庭の片隅へ移動する時に、アストリアはふと思い出して、荷物の中から冊子を持って来た。

「見せて貰ってる間に、良ければこっちを見てて」

 差し出したのは、アン公爵令嬢から貰った物だった。


 何となく、この冊子が、彼女が買った本と同じようなジャンルなのではないかと思ったアストリアだ。

 案の定、見せて貰った数冊の冊子は、男性同士の恋愛物だった。

 そしてアストリアから受け取った冊子を、とりあえず読み始めた娘は、ハッとして食い入るように紙面を読み始める。


 やがてアストリアが、納得したように見せて貰った冊子を返す。

「ありがとう。これってやっぱり、後宮の流行りなの?」

 娘は、立ったまま没頭していたらしいが、慌てて顔を上げた。

「えっ・・・あ、はい。友達から頼まれていた分もあるんです。好きな傾向は、それぞれ違うんですけど。でもっ、それよりっ、この本は?・・・あっ!」


 公爵令嬢が趣味で書いた本を胸に抱いて、アストリアの顔を見た娘は、直ぐに気が付いた。

(これに出て来る、前髪に白いひと房がある女性って・・・まさか?)


(あ~~~やっぱり、バレるわよね~~)

 簡潔に言えば、この話はジェラルディーナと自分の、恋愛小説のようなものだ。ジェラルディーナに見せたら怒り出しそうだと思うので、隠すようにしていつも持ち歩いていた。


「これは、バシケーンの貴族の御令嬢から貰ったものなの。秘密の趣味だから内緒で、って」

 アストリアの言葉に、娘は興奮して話し始めた。

「今、少しだけ読んだんだけど、これって百合ですよね。初めてのジャンルだけど、これって凄く素敵ですっ。こんなお話を書いたり、挿絵を描ける方とお知り合いなんて、羨ましいっ。あのっ、もし良ければお手紙を書きたいんですけど・・・」


(え?・・・それって、大丈夫なの?)

 それは、両方に取ってだ。誰にも知られないように趣味を楽しんでいる公爵令嬢に、ファンレターのような物が届くのは大丈夫なのだろうか。

 そしてこの後宮の侍女は、普通に手紙を出せるのだろうか。


 戸惑うアストリアに、娘は更に言い募った。

「このお話、絶対にここで流行ると思うんです。出来ればもっと、他のお話も読みたいですし。ご迷惑にならないように、お手紙の内容には配慮します。実は私の実家って、ナツメヤシを扱う商店で、少しだけどバシケーンにも送ってるんですよ。後宮では、実家への手紙は許されてますし、私は結構な額を仕送りしてるんで、頼みは聞いてくれます。ですからナツメヤシと一緒に、お手紙をその公爵令嬢様に送れると思うんです」


 アストリアは、暫し考えてから答えた。

「それじゃ、送り主を『アストリアとジェラルディー』にして貰える?それなら、あちらも安心して受け取ってくれると思うから」

 2人の名前は、ブルール公爵家も知っている。旅先からの、お礼の名産品だと思ってくれるだろう。


「それと、これは貴女にあげるわ。そんなに気に入ってくれたのなら、譲っても大丈夫だと思うし」

 アンは、捨てても良いと言っていた。流石にそれは出来ないと思っていたアストリアだが、旅の間ずっとそれを持っているのはちょっと面倒でもある。彼女の気持ちはしっかりと受け取っているのだから、紛失したり破損したりするよりは良いのではないかと思った。


「えっ!いっ、イイのっ!・・・うわぁ、ありがとうございますっ!」

 娘は、小躍りして喜んだ。

 アストリアは、最後に一言だけ、彼女の眼を見て言った。


「バシケーンとの戦が本格化したら、そういうやり取りも難しくなるでしょうね。こういうのって、平和だから出来ることだと思う」


 真剣なアストリアの言葉に気圧されるように、娘は何度も何度も頷いていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。