3-11 一つ先の村で
アストリアとトゥーレが仲間たちと合流したのは、バレット村の次の宿場町だった。
都への道と渓谷へ向かう道の、分岐点になる小さな町である。
上空を巡回していたファルコに誘導され、2人は一軒の宿屋に入る。
流石に疲れ果てていたトゥーレだったが、報告だけはしなければと、上の階から降りて来た仲間たちと一緒にテーブルに付いた。
「先ず、向こうに着く前にクアンから聞いた事をお伝えします。彼はバレット村で『青い薬』を買おうとしたが、所持金が足りなかったそうです」
高価な薬の代金を稼ぐために、クアンは短期間で所持金を増やさなければならなかった。そして少しでも早く、薬を買って妻の元へ帰らなければならない。
ごく普通の労働者だった彼は、短時間で纏まった金を得る方法を考え、古戦場へ向かった。何か、金に換えられる物を見つけるためだ。長い年月の間に、目ぼしい武具や装飾品などは粗方拾いつくされていると解ってはいたが、それでもごくたまに見つかることがあると聞いていた。
亡霊が出ると聞いていたので、クアンは朝から古戦場へ向かい、金目の物を探した。すると石碑の近くで、浅い土の中から金色のお守りのような物を見つける。探し尽くされた場所にあったのは、とても幸運だった。
村に持ち帰って売ると、『青い薬』を買うことが出来た。後は急いで妻の元へ帰るだけだったが、そこで魔が差した。
もう少し所持金を得て、病気の妻が喜ぶような土産を買っていきたい、と。
夕暮れ間近な古戦場へ戻り、石碑の近くで再び探し回るクアンだが、幸運は二度も無い。気が付けば辺りは真っ暗になり、これはマズイと立ち上がったところに、亡霊が出たという。
「結局クアンは、先に持ち去ったお守りの件もあって、そこで命を奪われたそうです。後悔と果たせなかった約束に縛られて、地縛霊のようになってからも、他の亡霊たちにかなり苛められたみたいですが・・・そのせいもあったのか、イチルさんの霊よりもずっと自我を保っていたようです」
そしてトゥーレは、クアンとイチルの霊が巡り合えた時の事を、丁寧に報告した。
「最後にイチルさんから、伝言を預かりました。アストリア様へ、謝罪と感謝の言葉です。私も、クアンさんからいただきました」
トゥーレはそこまで言って、口を噤んだ。
『届かぬ想い』ゆえ同調できたのだということについては、言わない方が良いと判断していた。言ってしまえば、自分のアストリアに対する想いや、アストリアのサリオスに対する想いも、解ってしまうかもしれないのだから。
報告の義務を果たすと、トゥーレは宿の部屋で泥のように眠った。
その間に、仲間たちは今後のルートについて話し合う・・・筈だったが・・・
「アストリア!なぜ、黙って、独りで、夜だというのに、出て行った!」
開口一番サリオスが、一語一語区切って、強い口調で妹に言葉を投げた。
「あ・・・ごめんなさい、兄さん。ジェラルディーナには、言っておいたんだけど・・・」
一応殊勝に謝るが、アストリアはチラッとジェラルディーナを見る。
けれど彼女は、事も無げに言った。
「ああ、朝になってから伝えておいた」
アストリアを連れ戻すために飛び出して行くサリオスの行動を、予見していたからだ。
つまりは、共犯という事だろう。
危険は無いと女戦士が判断したなら、それは信頼できるが、サリオスの苛立ちの大半は、アストリアが仲間とは言え、男性を迎えに行ったということが原因なのだ。
(妹だからと言って、行動を束縛することは出来ない。そんな事は、解っている・・・)
シスコンは卒業するべきだと思い、少しずつ言動を改めてきたサリオスだ。お互いにもう子供ではないことは重々解かっているが、妹がそれなりの年頃になれば、新たな心配も出て来る。
(まさか・・・とは思うが、アストリアも恋を知る年頃・・・いや、相当に遅いのか?)
アストリアとトゥーレ・・・お互いの心情はどうなのだろう?
以前トゥーレには、単刀直入に聞いた事がある。その時は、そう言う目でアストリアを見ることは無いと言っていた彼だが、あれから随分時が経ってる。
(一度、両方にさり気なく聞いてみるか・・・先ずは、アストリアの方だな。その結果についても、どうするか考えないといけない・・・)
サリオスは、仏頂面で組んでいた腕を漸く解き、ふぅと息をつく。
するとアストリアは、上目遣いで兄の顔を覗き込みながら、いつもの穏やかなのほほん顔で言った。
「ごめんなさいね、兄さん。でも大丈夫だったから、許してね」
これからは気を付けるとも、もうしないとは言わない。
それでもこの兄が、これで許さざるを得ないことを知っている妹は、ある意味悪女なのかもしれなかった。
漸く本題に入った一行は、今後の進路をどうするか話し合った。
真っ直ぐに都を目指すかと思われたジェラルディーナだが、意外にも渓谷の町へ行くことを提案する。
「渓谷の町ディフィートには、マグリブに通じる街道がある。都とは離れているが、その周辺の状況を知っておきたい。老公が現役だった頃は、地方に足しげく通って、現場を自分で確認してから対処することをポリシーにしていたんだ。報告だけでは、判断を誤る可能性があると言っていた」
尊敬するヴェール公なら、きっとそうするだろうと思うジェラルディーナは、自分もそのように行動するつもりらしい。
ジェラルディーナの意見を快く了承し、一行は渓谷を目指すことになった。
翌朝には、トゥーレも馬に乗って旅が出来るほどに回復していた。
彼の馬は、ファヴァルトの町の共同牧場で入手した斑馬である。入手と言うより、預かり物と言うべきかもしれない。
都のとある住所を渡され、この馬をそこまで連れて行って欲しいと言われたのだ。向こうに着いたら礼金が出ると言われ、それをしたためた手紙と一緒に馬を渡された。
「ブチと呼ばれていたらしいです。この辺りでは、珍しい毛色ですが・・・性格がかなり難物で」
トゥーレは苦笑交じりに言うが、ここまで来るだけで相当に苦労したようである。
それでも何とか、騙し騙しここまで来れたのは、忍耐強い彼だから出来たことかもしれない。
馬も人も何とも危なっかしい状況だが、仲間の助けもあって、トゥーレは一緒に渓谷へ辿り着いた。




