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その瞳 煌めく時   作者: 甲斐 雫
第1章 旅の仲間たち

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3 妹を守る兄は、ちょっと報われない

 数日後、サリオスたちは国境を越えた。

 何度か野宿をしたのだが、それで解った事は、アストリアが全く料理が出来ないという事だった。


 書物から得た知識があっても、それを実践するには、調理用具や調味料が必要で、そんな物を持たない旅では知識さえ無用の長物だ。


 多少の携帯食料はサリオスが持っていたので、数日間は木の実や川魚を捕まえて補った。

 食用に適するかどうかの知識は、役に立ったと言えよう。けれど旅慣れない2人にとっては、苦行の連続でしかない。

「この焼き魚、中がまだ生~~~」

「しまった、丸焦げにしてしまった!」

 けれど、そんなドタバタでさえ、面白いと感じる兄と妹である。


 そんなこんなで、低い山を越え、隣国モンテファストに入った2人は、早速小さな村へ向かった。

 馬上で地図を広げたサリオスは、村を指して言う。

「タヤス村だな。この地図によると、近くに鉱山があるようだ」

「国境を越えたし、追手の心配もひとまずは無いわよね。お父様は、私たちが一緒にいるだろうと思ってるけど、まだ国内で支援者を探していると考えてるはずだから」


 これでもう、自由な旅人のように行動できる。2人は嬉々として、タヤス村に入った。

 そして早速、居酒屋兼食堂のような店に入り、アストリアとサリオスは注文した料理を、パクパクガツガツと平らげ始める。

「んんん~~、味がある料理って、美味しいぃぃぃ~~」

 頬に手を当てて、幸せそうに感激するアストリア。下がり気味の眉と眦が、更に下がっていた。

「・・・あ・・・ああ・・・とりあえずこの村で、塩くらいは買っておくか」

 ここ数日の食事は、よく言えば素材の味のみだったなぁ、と反省するサリオス。

 兄妹の自由な旅はそれなりに楽しかったが、もう少し食の質は上げるべきだろう。


 やがて先に食事を終えたアストリアは、辺りを眺めると、兄に断って席を立った。少し離れた席に、白いひげを蓄えた老人がいる。年齢にそぐわない逞しさで、独り黙々と食べている男に、アストリアは話しかけた。

「お食事中、ごめんなさい。教えて欲しいことがあるの」

 白髭の老人は、眉を顰めて顔を上げた。頑固そうで気難しそうな顔だが、怒ってはいないようだ。

「何だね?アンタ」

「さる御方からの依頼で、鉱山の調査をしているの。お爺さんは、熟練の鉱夫でしょ?」


 老人はフッと眉を緩めて、苦笑を浮かべた。

「少し前に、現役は退いちまったけどな。それに、ここの鉱山は廃坑一歩手前さ。可燃石が主だったが、殆ど掘り尽くされちまってる」

 偏屈な老人であっても、若い娘が話し相手になるのは嬉しいのだろう。どこか嬉しそうに答える彼に、アストリアは一言断ってから、その向かい側に腰かけた。

「それでもイイの。詳しく教えて?」

 目じりが下がった人懐こい表情で、アストリアは老人と会話を続けた。


 やがてひとしきり話を聞き終わると、名残惜しそうな老人に丁寧に礼を言って、アストリアは立ち上がる。

 兄が待つテーブルに向かおうとした時、老人の隣のテーブルから、にゅっと腕が伸びた。

「なぁ、こっちにも話も聞いてくれよ。俺らも鉱夫なんだぜ」

 ニヤニヤと笑いながら、男がアストリアの手首を掴んだ。


 真昼間から酒を飲んでいる男たちは3人で、全員イイ感じに酔っているようだ。色っぽい美人では無くても、若い女性なら短髪男装でも良いのだろう。


 ガタンッ!

 その様子を見ていたサリオスが、椅子を蹴って立ち上がり、パッと駆け寄った。

「おい、妹に何をする!」

 低くどすの利いた声を投げつけながら、サリオスは男の手首を掴んで捩じ上げる。


 公爵家の嫡男とは言え、サリオスは自分の夢のために鍛錬を怠らなかった。世界を旅するには相応の力が必要だと、剣術も含めてトレーニングを欠かしていない。

 自分の夢のために、コツコツと努力することが出来るのは、アストリアと同じだ。

 流石、兄妹である。


 力自慢の鉱夫たちだったが、サリオスの怒りの気迫の方が上回った。

「ーーーッ な・・・何だよ、テメェ」

 腰が引けながらも、何とか言い返す男たちだが、そこに酒場の主人がノシノシと近づいて来た。


「お前ら、騒ぎを起こすなら出禁にするぜ。イイのか?」

 持っていた太いのし棒で、もう片方の掌をピシピシと叩きながら言う主人は、きっと昔は力自慢の鉱夫だったのだろう。彼に頭が上がらないらしい若い鉱夫たちは、言い訳をしながらそそくさと出て行った。


「ありがと、兄さん。私たちも、もう行こうか」

 何事も無かったかのように、平然としている妹に、サリオスは訝しむ。

(普通は・・・いや、普通の貴族令嬢なら、少しは怯えたり困ったり、驚いたりショックを受けたりするものじゃないのか?)

 妹は、かなり肝が据わっているのかもしれない。

 お礼は言われたものの、何となく報われない気分になって、釈然としないまま店を出たサリオスだった。


「兄さん、鉱山へ行かない?ちょっとした資金集めになるから、石拾いしましょ」

 唐突に言った妹の言葉に、サリオスは驚いた。これでも一応貴族である。資金稼ぎとして、石拾いというのはどうなのだろう。

「廃坑みたいな坑道でも、小さな鉱石は落ちてる。質の良い可燃石なら一袋拾えれば、それなりに売れるでしょ。運が良ければ、レア鉱石が見逃されて落ちてるかもだし」

 眼を細めてにっこりと、人差し指を立てて言うアストリアに、サリオスは頷くしかない。

 可愛い妹の我儘を聞き入れるような、そんな気分だった。


 国境を越えたとはいえ、あまり人目につきたくはない。

 廃坑に近い鉱山なら、鉱夫なども殆どいないはずだから、妹の提案はうってつけなのだろう。

 この際、石拾いでも構わない。自分たちは、自由な旅人なのだから。

 兄は、自分に言い聞かせた。



「この坑道口が、良いと思う」

 2人は村を出て馬を進め、アストリアが決めた坑道に到着した。年老いた鉱夫から、聞いた情報によるものだ。左程広くも深くも無い坑道だが、かつては良質の鉱石類が採掘できたという。


 2人は坑道の入り口近くで馬を降り、2頭の馬を木立の奥へ引き入れた。

「ここで待っていてくれ、ライゼ。馬泥棒には、気をつけろよ」

 黒鹿毛の愛馬、ヴェルトライゼンテに指示を与えるサリオス。そしてアストリアも、マイネレーツェルにむ同じ指示を出すが、兄の愛馬に向き直って言った。

「レーツェルをお願いね、ライゼ。勝手な行動しないように、見てて」


 ヴェルトライゼンテより2歳若いマイネレーツェルは、たまに勝手な行動を取る傾向がある。それは自分なりに考えての行動なのだが、良い結果になることは少ない。気性もあるのだろうが、まだ4歳という若さなので、経験値不足なのだろう。


「ブヒンッ」

 ヴェルトライゼンテは、了解しましたと言うように小さく嘶く。

「・・・・ブゥ・・・ヒン」

 プライドを傷つけられたマイネレーツェルは、不満そうな声を上げた。


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