↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その瞳 煌めく時   作者: 甲斐 雫
第2章 雪と氷と星の煌めき

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
21/72

2-7 雪と氷で、鍛えて遊んで

 数日間振り続けた雪は、エリンホルムとその周辺を、銀世界に変えた。

 彼らの屋敷の庭も、腰の辺りまで雪が降り積もり、木々や植え込みは真っ白な綿をこんもりと被っているようだ。池や噴水は凍り、庭のオブジェも雪像のようになった。


 そんな庭の中で、馬たちは自由に過ごしている。

 厩の馬柵棒は外され、彼らは何時でも好きな時に庭に出ていられる。食事の時と夜間だけしか、馬房に戻らない事も多い。


「ああ、またやってる。庭を見てみないか?」

 ジェラルディーナが、1人掛けのソファーに座るアストリアに声を掛けた。


 肩の怪我の腫れもほぼ治まり、微熱も無くなってきているアストリアは、往診してくれている医者から、室内なら歩き回っても良いという言葉を貰っていた。


「え? 何?」

 アストリアは持っていた本を閉じて立ち上がると、窓辺にいるジェラルディーナの傍へ歩み寄った。

「馬たちだ。ほら・・・」

 庭に面した窓から眺めると、深い雪をラッセルしながら力強く歩くフォルテヴェローチェとヴェルトライゼンテがいた。

「自主トレのつもりなのだろうか。雪が積もってからは、ああやって鍛錬してるようなのだが、見ててごらん。マイネレーツェルも、やるんだ」

 2人が見守る中、鹿毛の牝馬は、2頭の軍馬に倣って深い雪の中を歩き出した。


 凍るように冷たい外気の中に、馬たちの吐息が白く棚引く。

 2頭の先輩馬に倣うように、マイネレーツェルも雪を蹴立てていた。


 ジェラルディーナは、眼を細めて続けた。

「マイネレーツェルはあの一件以来、面構えも違って来た」

「それって、顔に傷跡が出来たから?」

 呟くように尋ねるアストリアに、女戦士は笑みを深くして答えた。

「いや、目つきが違うんだ。以前のマイネレーツェルの眼は、丸く大きくてクリクリしてだだろう?だが今は、鋭くなってキリッとした。雰囲気も違って、意思と言うか決意のようなものを感じるな」


 やがて馬たちはラッセルを止め足を止めるが、先ずフォルテヴェローチェが、深い雪の中にドサリと体を投げ出した。

 そして仰向けになり四肢をバタバタさせ、雪浴びのように転げる。

 けれど直ぐに、バッと立ち上がってブルブルと胴震いをした。


 暑くなった身体を冷やしているのかと思ったが、フォルテヴェローチェはその動きを何度も繰り返し、やがて転がると同時に瞬時に立ち上がるようにする。

 それを見て、残りの2頭も同じように転がっては立ち上がるという動きを繰り返した。


「・・・フォルテは、教えているのかもしれないな」

 ジェラルディーナは、暖かい眼差しを投げながら、そう呟いた。


 戦いの場では、何があるか解らない。背中の主を落とさないことは当たり前だが、それでも不測の事態は起こる。馬が転倒した場合、鞍上の戦士にとっては絶体絶命のピンチになることは間違いない。

 そうなった時、馬自身が瞬時に態勢を整えることが出来れば、危機回避が出来る可能性が生じる。

 転倒してもダメージを最小限にして、直ぐに起き上がって次に備えることは、軍馬としての奥義に近いものがあるのだろう。


 ヴェルトライゼンテは、慣れているのか、直ぐに同じような動きが出来るが、マイネレーツェルにはまだ難しいようだ。

 不格好に藻掻きながら、それでも必死に学ぼうとしているマイネレーツェルを、先輩馬たちは優しく見守っている。


「レーツェルは、強くなろうとしてるのね・・・私を護るために」

 アストリアは、泣きそうに顔を歪めながらも、嬉しそうに微笑んだ。

 母親のように、姉のように、育てて来た愛馬。

 けれど、子供や妹は成長して巣立ってゆく。

 寂しくもあり誇らしくもある気持ちを、アストリアは確かに感じていた。



 やがてアストリアも、医者から完治を告げられ、外出が出来るようになった。

 そんな妹がかえって気掛かりな兄サリオスだが、そうも言ってはいられない。屋敷を借りた時に出した金のせいもあって、手持ちの金貨が底をついていた。

 このままでは、ジェラルディーナに頼りきりで生活することになる。


(出来ることがあるのに何もしないで、寄生虫のような生活をするのは、人としてどうかと思う)

 ジェラルディーナが女性だからというわけでは無く、健康な体と能力があるのに誰かに頼り切りと言うのは、あまりにも情けないと思うのだ。


 そこでサリオスは、王都の依頼所に足を向けた。

 独りでもこなせそうな依頼を選び、少しずつ金を溜めてゆく。ジェラルディーナも、鍛錬の意味もあって、時々は同行していた。

 時々と言うのは、普段は王都にある剣術指南所、つまり平民たちの道場のようなところだが、そこを訪ねては稽古をつけて貰っていたからだ。まぁ、道場破りっぽい感じではあったが。


 外出可能になったとはいえ、流石に兄たちに同行したり、採集などの依頼を受けるほどまでは回復していないアストリアは、街中を歩くことで体力回復に努めていた。



「アストリア様、どちらへ?」

 寒くない様に万全の服装で屋敷を出ようとしたアストリアに、トゥーレが声を掛けた。

「広場にある池が凍って、人々が滑って遊んでいると聞いたので、見に行ってみようかと思って」

 アストリアは、もこもこに着こむ服の中から覗く顔を、楽しそうに輝かせて答える。

「それでは、私もご一緒いたします。フェローとケィティも、そこに行っているはずなので」


 サリオスから、アストリアを1人で外出させないように、と厳命されていた。

 いつもはまるでアストリアの従者になったかのように、買い物やら散歩に同行しているのはフェローだったのだが、たまには自由な時間も必要だろう。

 昼下がりの数時間、遊んでおいでと送り出したのは、他でもないアストリアだ。


「もう独りでも大丈夫ですが・・・」

 少し不満そうなアストリアだが、以前は付いて来たがったマイネレーツェルも、近頃は自己鍛錬に余念がないので、多少は不安もあった。

「いえ、私も見てみたいと思っておりましたので」

 彼女に気を遣ってそう言うトゥーレに、アストリアはふわりと笑って頷いた。


 広場に着いてみると、厚く張った池の氷の上で、大勢の人々が笑い声を上げながら楽しんでいた。

 今で言うスケートに近い遊びだろう。


 氷の傍まで行って、トゥーレが氷上を見渡しながら言った。 

「流石に人が多すぎて、フェローたちがどこにいるかは解りませんね」

「そうねぇ・・・でも、皆楽しそう」


 何やらウズウズとしてきたらしいアストリアに、トゥーレは強い不安を覚えた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。