2-1 人間関係のあれやこれや
第2章「雪と氷と星の煌めき」スタートです。
シスコン兄、のほほん妹、女戦士王女、苦労人少年従者、フライパン少女、一途な執事見習い。
漸く出そろったメンバーは、北の都で冬を過ごしながらドタバタ?
まだまだ続く長い話ですが、どうぞ気長にお付き合いくださいませ。
山の端に沈みかける夕日を、アストリアは静かに眺めている。
(旅に出て、良かった・・・空気は澄んでるし、食べる物も美味しいし、仲間が居て楽しいし。この時間を、大切にしないと・・・)
穏やかな眼差しと自然な微笑み。
けれどどこか、微かに悲し気な色が見えるのは、気のせいだろうか。
いや、そんな色合いも、彼女の瞳を深い色に彩っているのかもしれない。
その横顔から、トゥーレは目を離せなかった。
最初に出会った時に感じた、一目惚れのような感情。それが彼の中で、確かになってゆく。
(・・・知れば知るほど・・・)
心が温かい掌で、優しく包まれるような・・・
けれどその時、声が掛かった。
「トゥーレ・・・君?」
妹を見たまま動かない彼に、サリオスが近寄って来た。
「あっ、はい。サリオス様、何か?」
執事見習いだった頃の癖だろうか、ついその様に答えてしまうトゥーレだ。
従者のフェローも、調理人のケィティも、そうしているのだから、無理やり同行させてもらった自分も、そうするべきだろうと思っている。
一方サリオスの方は、彼に対してどんな態度で接すればよいか、まだよく解ってはいない。
けれど、言いたい事はある。
トゥーレが大切な妹に、恋心を抱くようなら、釘を刺しておかなければならないのだ。
「ちょっと、来てもらえるか?」
サリオスはそう言って、トゥーレを少し離れた場所を示した。
夕食の支度を手伝っていた彼は、持っていた食材をケィテイに渡すと、素直にサリオスの後をついてゆく。
サリオスは唐突に、真正面からトゥーレを見て問い掛けた。
「君はアストリアを、どう思っているんだ?」
まるで尋問のような口調に、流石にトゥーレも呆気に取られる。
この兄が、妹を相当大事にしていることは、ここ数日一緒に旅をしている中で気づいていた。可能な限り傍にいるし、何かと手を出して世話をしようとする。アストリアの方は、いつもサラリとかわしているのだが。
多分彼は、いわゆるシスコンではないかと思い始めていたトゥーレだ。
「・・・どう、とは?」
話の方向は見えていたが、とりあえずそう答えてみる。
「だから、その・・・彼女見る眼が、気になるんだ。はっきり言えば、アストリアに恋しているんじゃないか、とな」
サリオスは、単刀直入に切り込んだ。
トゥーレは、ここは否定しておいた方が良いと判断した。
「いえ、そのようなことは・・・アストリア様は、可愛らしい方だとは思いますが、そのような心は抱いておりません」
サリオスは、多少疑う気持ちもあったが、望んだ答えが返って来たことで、スイッチが入ってしまった。
「そうか、それなら良いが・・・うん、確かにアストリアは可愛い。それに、優しくて穏やかで、賢くて努力家で、けれどそれらを鼻に掛けず、謙虚で慎み深い。華奢で可憐で清楚で、守ってやりたくなるような・・・」
兄の、シスコンてんこ盛りの熱弁が始まった。
アストリアが聞いたら、フィルター何重に掛かってるの? と言うだろう。
けれどトゥーレは、黙って聞いていた。
(この恋路には、茨が茂りまくって山になっているのだろうなぁ・・・)
と、思いながら。
一方フェローとケィティは、同じ年頃の仲間がいないせいもあってか、急速に親しくなっていった。
それぞれ自分の仕事をしっかりとこなしながらも、互いを気遣って手伝い合い、日々を楽しく過ごしている。
そんな、小さな恋人たちのような微笑ましい様子を、年長者たちは優しく見守っていた。
フェローとサリオスは、食事の後の片付けが終わった後、寝る前の時間を剣の訓練に当てていた。
サリオスは大工の親方事件の時に購入した木材を削り、フェローの体格にあった木剣を作った。重さも長さも調節したそれは、フェローにぴったりと合っていて、訓練の成果も上々である。
兄と弟に加え、師匠と弟子の関係も得た2人だ。
そしてケィティは、アストリアとジェラルディーナを、憧れの姉のように慕うようになる。
ジェラルディーナは、凛々しくて高貴で強いお姉さま。
アストリアは、博識で穏やかで優しいお姉さま。
と言った感じである。
姉役になった2人は、可愛い妹のようなケィテイが作る料理に、しっかりと胃袋を握られている。
そして新参者のトゥーレは、彼らの関係を正しく認識し、執事見習いの礼儀とマナーで、いつのまにか彼らの輪の中に入っていた。
落ちた橋を迂回したために、少し日数は掛かってしまい、宿を取ることも出来ないまま、それでも一行は漸く王都の近くまで来ることが出来た。
のんびり進んでも、あと半日ほどで到着できるという所まで来た時、重く垂れこめていた雲から雪が降り始める。
粉雪のような細かい粒が、さわさわと降って来る中で、彼らは足を止めて相談した。
雪に慣れていない一行は、天候の予測が出来ない。結局、無理をせず、どこかで雪を避けて様子をみようという事になった。
小さな森の陰に入り、風と粉雪を避けて背後が壁のような場所で、火を起こして暖をとる。
けれど粉雪は、降っては止みを繰り返し、やがて夕方になってしまう。結局一行は、そこで野宿をすることになった。
不安ではあったが、何も問題は無く、アストリアたちは無事に朝を迎えた。
「うわぁ、眩しい~~~」
朝日が昇ると空は晴れ渡り、うっすらと雪化粧した景色が、眩しくも美しい。
声を上げたアストリアと一緒に、皆その風景を喜び、先ずは朝食の支度に取り掛かる。
「これならば、昼過ぎには王都へ到着しそうだな」
忙しく立ち働くフェロー達を見ながら、ジェラルディーナがサリオスに言った。
「ああ、天気も直ぐには変わらないだろうしな」
答えた彼に、彼女はにこやかに提案する。
「朝食前に、少しこの辺りを駆けないか?昨日も歩くだけだったから、フォルテヴェローチェを発散させてやりたいと思うのだが」
それはサリオスの愛馬、ヴェルトライゼンテも同じだ。2頭は軍馬で、歩くだけでは物足りないだろう。
そしてジェラルディーナとサリオスは、仲間に声を掛けて、白い野原を駆けてゆく。
しばらくして、アストリアが言った。
「手が空いたから、ちょっとそこに生えているウィンターベリーを摘んでくるわ」
森の縁に、こんもりと茂った低木がある。目ざとくその実をみつけた彼女は、小袋を持って歩き出した。
彼女の後ろを、マイネレーツェルがトコトコとついて来る。
その様子を見たトゥーレは、肩のヨウムに頼んだ。
「ヤーコ、アストリアさんと一緒に行って、何かあったら知らせておくれ」
見える範囲の場所だが、念のためと言うトゥーレに、ヤーコは楽しそうに返事をして、灰色の翼を広げた。
お読みいただいて、ありがとうございました。
気長に続けてゆく所存ですが、応援いただけると本当にありがたいです。
一応主人公はアストリアで、彼女は誰にも言えない秘密を抱えています。図太くて暢気だけどw
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ちなみに、馬はお好きですか?w




