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その瞳 煌めく時   作者: 甲斐 雫
第1章 旅の仲間たち

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12 計画実行 少女のフライパン

 計画実行の、朝が来た。


 一行は宿代を払うと、厩からそれぞれの馬を引き出す。

 準備を整えて待っていたフェローは、その姿を披露した。


 服はケィティが来ていた物だが、少し丈が短い。頭には即席で作った三つ編みの鬘を被っている。

 顔を半分、スカーフで隠した姿だが、遠目には充分ケィティだと映るだろう。


 実は鬘は、藁を叩いて柔らかくして作ったものだ。多少質感は違うが、亜麻色の髪に近いものが出来上がっている。最初はアストリアが作り始めたのだが、自分の指を叩いてしまったり、針で指を刺したりしてしまった。彼女の指が包帯だらけなのは、そのせいだ。

 結局途中から、サリオスが作業を代わって作り上げたのだが、どうやら器用な彼は針仕事も出来るらしい。


「これなら大丈夫そうね。それじゃ、計画通りに・・・ふふっ」

 アストリアが、眼を細めて、楽しそうに言った。

(悪戯っ子みたいで、可愛いじゃないか)

 サリオスが、こっそり思っていたことは内緒だ。



 4頭の馬にそれぞれ乗って、先ずは村外れを目指す。

 フェローの馬、カスターニョにはケィティが乗っていた。


 カスターニョはその名の通り栗色の馬で、乗馬用でありながら荷役馬としての仕事もこなす。穏やかで従順、忍耐強く賢いその馬は、馬に乗ったことが無いケィティを、落馬させないように乗せて運ぶのが任務だ。

 そしてその背に乗っているケィティは、緊張しつつも、バレない様に自然な様子を必死に演じていた。


 そしてフェローは彼らを見送ると、自分の仕事に取り掛かった。

 村の中をこっそり移動して、まだ彼女を探している男の眼に留まるようにする。

「・・・あっ、いたか?」

 疲労困憊の男が眠い目をこすりながら駆け寄ろうとすると、フェローはパッと身を翻して逃げる。

 隠れては逃げを繰りかえし、捜索者たちを引き付けて、ケィティたちが向かった方と逆の方向へ誘導した。


「あの~~、何かあったんですか? 宿を出たら、物々しい雰囲気みたいだけど」

 村の出口で、アストリアは突っ立っていた男に声を掛けた。穏やかで優しい声と顔に、男は笑みを返した。

「ん?・・・あ~~旅人さんか。いやぁ~~、ちょっとした人探しさ。気にせず、良い旅をなぁ~~」

 大工の棟梁の知り合いなのだろうか。村から出る人間を、調べるために駆り出されたようだ。

 眠そうな声で答えた男は、4頭の馬の積み荷にサラッと眼を配ると、愛想良く手を振ってくれた。


「結構呆気なく、出て来れたわねぇ~~」

 のぉ~~んびりとした口調で言うアストリアだが、背後にはもう村は見えなくなっていた。

 そして次は、サリオスの出番だ。

「それでは、最後にフェローの回収だな。行ってくるから、アストリアたちは先に進んでてくれ。なぁに、ライゼの足なら直ぐに追いつくさ」


 ヴェルトライゼンテは、4頭の馬の中で一番足が速い。おそらくその速度は、軍馬の中でもトップクラスだろう。フェローを乗せて多少斤量が増えても、問題なく走破すると思われる。

「すまんな。私の侍従なのだから、私が行くのが道理だと思うんだが・・・」

 ジェラルディーナの愛馬、フォルテヴェローチェもスピードは充分ある。ヴェルトライゼンテに僅かに劣るくらいだ。けれど戦いとなれば、総合的な戦闘力はフォルテヴェローチェに軍配が上がる。

「いや、大丈夫だ。ジェラルディーナは、何かあった時に皆を守ってくれ」

 サリオスは爽やかな笑顔を投げ、颯爽と駆け出して行った。


 アストリアたちは、先へ進んだ。

 次の町までは、2日で到着する予定だ。

 冬が近い寒風の中を進む彼らだが、和やかな雰囲気は変わらなかった。


 エリンコート王国は山脈に囲まれた土地で、野生動物も他の国と変わっている。小さな群れを作って移動する2足歩行の爬虫類、ギアンなどがその1つだ。

 駝鳥ほどの大きさがあり、真冬の一時期以外は普通に活動できる。肉食で獰猛なので、旅人が恐れる対象になっていた。


 アストリアたちも、案の定、そのギアンの群れに遭遇した。

「ケィティ、私の馬に移って!」

「フェロー、2人を守れ!」

 アストリアとジェラルディーナは、即座に反応した。


 相手は4匹で、かなり小さな群れだ。とは言えギアンは、走る速度も馬並みに速い。2人乗りのカスターニョがいるので、迎撃する方が良いと判断する。


 ジェラルディーナは、双刀を抜き放って、一番大きなリーダーらしきギアンに向かった。

 フェローもショートボウを構え、駆け寄って来る大型爬虫類の1匹に狙いを定める。


 アストリアはマイネレーツェルに移って来たケィティに、声を掛けた。

「大丈夫よ、落ち着いてね」

 村から出たことも無いであろう少女を気遣うアストリアだが、ケィティは怯える風も無く答えた。

「ハイッ、私は大丈夫ですっ!」

 大事なフライパンを胸に抱えて答えたケィティは、意外にも気丈で肝が据わっているらしい。


 全速力でギアンの群れに向かったフォルテヴェローチェは、その瞬発力で一気に距離を詰め、一瞬たじろいだギアンのリーダーのすぐ傍を駆け抜ける。

 その瞬間、双刀が美しい弧を描いた。


 ザシュッ!


 鋭い歯をむき出しにしたギアンの首が、音を立てて切り落とされ、宙を飛んだ。


 一方フェローも、近づいてくる1匹のギアンの眼を打ち抜き、もう1頭は口の中に矢を射込む。

 彼のショートボウでも、狙いさえ正確なら充分効果はあった。

 グギャッ! グァッ!

 2匹の悲鳴を聞いて、遅れて来た最後の1匹は慌てて踵を返した。

 眼をやられた方も、ヨロヨロしながら逃げ出しにかかる。口の中をやられたギアンは、その場に転倒した。


 逃げ出した2匹は、ジェラルディーナが相手をする。

 フォルテヴェローチェは、鞍上の主の意のままに、見事な体捌きで動く。ギアンの反撃も難なく避け、ジェラルディーナは、存分に双刀を振るった。


 アストリアたちの傍で倒れたギアンは、必死に藻掻いていたが、フェローは馬から跳び下りて腰の棒を両手で握った。サリオスから剣を教わる時に使っている固い木の枝だ。

 状況を見て取ったアストリアも、マイネレーツェルから跳び下りてロッドを握る。


 倒れて藻掻くギアンに、立ち上がる隙も与えず、フェローとアストリアは殴りかかった。

「フンッ!フンッ!」

 素振りの要領で、ドスドスと殴るフェロー。

「ええぃ!」

 らしくない勇ましい声を上げ、ギアンの脳天へロッドを叩きつけるアストリア。

 ボカスカボカスカと、ほぼタコ殴りである。


 ギアンはぐたりと頭を落とすが、ホッとしたようにロッドを引いたアストリアに向かって、最後の足掻きの様にまた首を上げて牙を剥く。

 ガァッ!


 けれどその時、シンバルを叩くような音が響いた。

 バィィーーン!


 いつの間にか馬を降り、近寄って来たケィティが、フライパンで思い切りギアンの頭を引っ叩いた音だった。


 キュウ・・・と完全に倒れたギアンの傍で、ケィティは言った。

「えへへ、アタシ、ネズミ退治とか得意なんです」

 調理道具を武器にする少女だが、料理する前にしっかりフライパンは洗って欲しいと思うアストリアとフェローだった。


 でもまぁ、旅の仲間としては、心強いのだろう。

 銀色に光るフライパンを握り締めて、ケィティは水色の瞳をキラキラと輝かせていた。


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