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偽装された異世界召喚〜喚ばれて早々用済みになった俺は、最強の偽装能力で魔神に復讐する〜  作者: 石畑サン輔
第三章 夢と過去

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59話「久しぶりの休息」


 数日間の療養を終えて。

 俺は一人、帝国の街へ繰り出していた。

 

 帝国はいつにも増して活気に満ちている。

 半壊した街の復興は、滞りなく進んでいるらしい。

 やはり魔法の存在が大きいのか、すでに直っている建物がほとんどだった。


「さて……授与式まで何してるかなぁ」


 そこかしこから、俺を噂する声が聞こえてくる。

 むず痒い気持ちになるが、悪い気分じゃない。

 不審者より英雄扱いの方が何倍も増しだからな。


「せっかくだし、異世界文化を堪能といきたいところだけど……」


 立ち止まって、ざっと辺りを見渡してみる。

 魔道具店、服屋、料理店、雑貨屋に武器屋。

 暇つぶしには持ってこいだな。


「ん?」


 と、服屋の前に、見覚えのある人物がいた。


 軍服を着た、ホワイトブロンドのショートヘア。

 あの後ろ姿はおそらく──


「おーい、フラメア〜」


「なっ、ア、アメハル!?」


 俺を見るなり、フラメアは驚いた顔で後ずさった。

 目をキョロキョロとさせて、何故か頬を赤らめている。


「どうしてここに……」


「療養所から解放されてな。こうして出歩けるのは、流石の寛容さだよ」


 軍はある程度の自由を保障してくれるそうだ。

 バルドルさんは顔に似つかず、案外優しい。


「それで、こんな所で何してるんだ?」


「い、いや? 別に、何もしてねぇよ……」

 

 腰に手をついて、フラメアはそっぽを向いた。

 何もしていないということはないだろう。

 一体何を見て……ほう?


「可愛らしい服だな。フリフリで」


 服屋にはガラスのショーウィンドウがあった。

 その中には、華やかなドレスが飾られている。

 お嬢様の着るような、上品な一着だ。


「おい、そのニヤケ面を今すぐ止めろ!」


「そんな顔してますかね?」


「よしぶっ飛ばされたいんだな!? こっちに寄れ!」


 支給された軍の私服の胸ぐらを掴まれた。

 フラメア、よく見ると涙目になっていないか?


「いやいや、よくお似合いだと思うぞ? フラメアって性格に似合わず、結構可愛いし──」


「よ、余計なお世話だッ!」


 声を荒げながら、彼女は俺を軽く突き飛ばした。

 あまりに反応が良いもので、ついからかってしまう。


「あたしは軍に入ったんだ。貴族の振る舞いは昔に捨ててやった。こんな服、今更似合うわけがない」


 そう言ってフラメアはふんと鼻を鳴らした。

 両腕を組み、明らかに不機嫌になっている。


「似合うと思うけどな。試しに着てみたらどうだ?」


「……着ない」


「見てみたいなぁ。ちょうど俺も服が欲しかったし」


 ついでにという流れで、同行を誘ってみる。

 男性用の服もこの店にあるといいが。


「……………まぁ、一度だけなら着てやってもいいけど」


 随分と遅い返答だったが、了承してくれたようだ。


 さっそく二人で服屋に入ってみる。

 店内は見た目より広く、色々な服が売られていた。


「いらっしゃいませ〜」


 店の奥から綺麗な女性が出てきた。

 優しく微笑んで、俺たちを歓迎してくれる。


「あら? いつもの軍人さん?」


 そう言って口元に手を添え、店員さんは笑う。


「……いつもの?」


 横を見てみると、フラメアが下を向いていた。


「店前のドレスをいつも見に来てくれていたの。もしかして、ついに心を決めてくれたのかしら」


 おいおい、今日が初めてじゃないのか。

 まさか、店員さんに顔を知られるほど通っていたとは。


「……こ、ころせ……」


 フラメアは肩を震わせて、俺を睨んでくる。

 多分、この辺りの人たちは見慣れた光景なんじゃないか?

 そんなに恥ずかしがることでもないだろうに。


「えっと、服を買いに来たんですけど……」


「はい、ここではどんな服でも揃えておりますよ。私服から作業服、冒険用もございます。実用性からデザイン性まで、どうぞご要望ください」


「おぉ。それは助かります」


 冒険用っていうのがあるのか。

 思えば、ジャージや学園服しか着てこなかったな。

 よし、新たな装いに身を包むとしよう。


「じゃあ、アレ着たら教えてくれ。俺は服見てるから」


「お前、前と態度が違くないか……?」


 その指摘を無視して、商品の吟味を開始した。


 約10分後。


 俺は試着室から出て、店員さんにお披露目する。

 

「あらあら、よくお似合いですよ」


「そ、そうですか?」


 小さく拍手を受けて、俺は自分の姿を見下ろした。


 落ち着いた青を基調とした、冒険用の服装だ。

 長袖長ズボンに、ベルトと革具のセット。

 黒のブーツをトントンと叩き、手袋をキュッと締める。


 想像通りのカッコ良さだ。

 実に気分がいい。

 

「俺は着替えたけど、そっちはまだかかりそうか?」


 隣の試着室に呼びかけてみる。

 すると、箱自体が飛び跳ねたように見えた。


「も、もう着替えた。だけど、これは──」


「なんだよ、終わったなら早く見せてくれ!」


「あ! 待て、ちょっ……!」


 俺は我慢できず、試着室のカーテンを開けた。


「お、おぉ!」


 そこにいたのは、お嬢様だった。


 淡い空色を基調とした、白いフリルのワンピース。

 胸元には小さなリボンが結ばれ、ふわりと広がるスカートが歩くたびに軽やかに揺れる。

 普段は軍服しか身にまとわないフラメアには、十分すぎるほど可憐な装いだった。


「…………」


「わぁ、すっごいお綺麗ですよ!」

 

 彼女は落ち着かない様子でスカートの裾をつまんだ。

 視線を泳がせ、頬がみるみる赤に染まっていく。

 

「に、似合ってるとか……間違っても言うなよ」


 視線を外し、フラメアは小さく呟いた。

 

 照れ隠しなのが一目瞭然である。

 不覚にも、俺はその仕草に見惚れてしまっていた。


「なんというか、フラメアに会って良かったなって」


「はあ? そっちこそなんだ、その格好」


 フラメアは俺を見て少し笑った。

 まるで、少し小馬鹿にしたような目で。


「おい……何か文句でも?」


「フフ、いや? アメハルにしちゃあ、張り切りすぎだと思ってな」

 

「はいはい、どうせ俺は強そうに見えないですよ……」


 素朴な日本少年で悪かったな。

 ゲームのように、着ただけでステータスアップするわけじゃない。

 だが見た目から入るのは、決して悪いことではないだろう。


 このニュースタイルで、残り2体の魔神も攻略してやるさ。


「じゃあ、もういいだろ。早く軍服に──」


「せっかくだしこれで街歩こう。店員さん、お会計お願いします」


「は?」


 店員はニコニコで頷き、店の奥へ引っ込んだ。


「あ、俺金持ってないからさ。ここはフラメアさん頼みますわ」


 情けない話、未だに一文無しだ。

 冒険者にでもなって、小遣いを稼ぐことも考えなきゃな。

 ここはひとまず、偶然いたフラメアに貸しを作るとする。


「お、お前……あたしを相当舐めているようだな……?」

 

 フラメアは拳を震わせて、口角をピクピクと動かしている。


「あたしは買わないぞ、こんな服!」


「自由にしてくれ。買うのは俺の服だけでいい」


「それはそれでムカつくんだよ! 人に頼む態度じゃねぇだろ!」


 少し横柄すぎたか。

 そこは反省しよう。


「ったく……おい、アメハル」


「ん?」


 目を合わせず、フラメアは静かに俺を呼んだ。


「──似合っているか」


 何を言い出すかと思えば、そんなことか。


「あぁ、超似合ってるよ」


「……フン。なら買ってやる」


 フラメアは顔を背けて、店員のいる受付へ歩いて行った。

 

 結局買うのかよ。

 正直に褒めただけなんだが、フラメアってちょろい。


 

最後まで読んでいただきありがとうございます。


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