二章 幕間
雨晴が目を覚ました、7日後の夜。
人気のない路地。
武器屋の裏口が開く。
店主は箱を手に持ち、外へ出てきた。
カラン。
「ん?」
何かが落ちた音がして、店主は地面を見る。
暗がりの中で淡く光るそれを、拾い上げた。
禍々しくも美しい、赤と黒の装飾。
「剣? なんでこんなところに──」
刹那。
店主の喉が、刃に貫かれた。
「──気安く触れるな、人間」
否、刃のように鋭い手刀である。
落ちていた剣は瞬時に人型へ化け、店主を殺害してしまった。
「……勇者……悪魔……小僧……」
現れたのは、倒されたはずのガラティーンだった。
彼はやつれたように膝をつく。
つい先ほど殺した店主を一瞥すると、乱暴に服を掴んだ。
血で染まる地面を踏み、開いていた武器屋へ侵入する。
「おのれ……無駄な魔力を使わせおって……!」
ガラティーンは扉を閉め、店主の亡骸を投げ飛ばした。
苛立ちを隠さないまま、扉に寄りかかるように座り込んだ。
「神聖力もない分際で、ここまで我を傷つけるとはな……」
ガラティーンの脳裏に、あの刀がよぎる。
ネガソルを取り込んだ斬撃を吸収し、別のエネルギーに変換された。
かつてない衝撃と屈辱を味わったが、顔には笑みがこぼれる。
「だが、クク、我は死なん。この身は神器なれば」
魔神は生物と無生物の中間にいる存在。
人間の姿は、以前に神器を扱っていた者の姿を模しているだけに過ぎない。
ガラティーンは剣である本体を破壊されない限り、ほぼ不死身なのだ。
「この国はやめだ。いち早く、魔力を回復するために──」
ガラティーンは武器屋の棚を見渡す。
どれも凡剣、出来の悪い愚作。
神器には遠く及ばないと、鼻を鳴らした。
「くだらん」
座り込んだまま、魔力を解放する。
魔力に当てられた武器は、負荷に耐えきれず砕け散った。
破壊された全ての武器が、大きな音を立てて倒れてしまった。
「あらかじめ魔力が内包された、新たな器を探す。……いや、探さなくともよい」
ガラティーンは立ち上がり、店に飾られた地図を眺めた。
見つめるのは北西に位置している国。
そこには、自分と同じ魂を分けた魔神がいる。
「人類滅亡競争、最初に落ちるのは貴様だ──ロンゴミニアド」
静かに笑い、指に黒い炎を宿す。
それを弾き飛ばして、地図に点火させた。
「我自ら出向き、余りある魔力を有効活用してやろう」
木造の武器屋に、炎が広がっていく。
やがて建物を覆いつくすほどの火事となり、近隣住民が悲鳴を上げた。
「火事だ! 誰か水の魔法を!」
「店主はどこだ!?」
夜空へ黒煙が立ち上る。
その頃にはもう、魔神の姿はどこにもなかった。




