58話「帝国・エピローグ」
目覚めてから1日後。
俺はレイネと共に、軍の療養所の屋上に来ていた。
魔神によって壊された街を復興している様子を、二人で眺めている。
「この世界の悪魔って、どういう扱いなんだ?」
静かな空気の中、ふと彼女に聞いてみた。
「嫌い派が多数、どうでもいい派が少数ね」
「好き派は?」
「さぁ、私は見たことがないわ」
「……俺、皇帝に打ち首にされたりしないよな」
屋上のフェンスに寄りかかり、遠くの方を見た。
悪魔は魔物と同じ扱いなのだろうか。
「心配性ね。皇帝陛下から令状まで受け取っておいて、今さら何を怯えるの」
「……そう、だな」
実は、皇帝が俺を城へ招待してくれたのだ。
なんでも、今回の功績を称えて叙勲の授与式を行うらしい。
大がかりなので断るわけにもいかず、2週間後に来てくれとのこと。
俺がなったという悪魔の風貌は、帝国中で噂されている。
この場で退治してくれる! なんて展開にならないことを願うばかりだ。
「それにしても」
さっきからずっと気になっていることがあった。
俺はレイネを下から上へ観察する。
「な、なに」
「可愛い服だな。レイネらしくない」
黒いローブ姿が見慣れていたから、驚いた。
白いブラウスに黒のロングワンピース。
赤髪によく映える、落ち着いた装いだった。
「失礼ね、私も不本意なのよ。ティオナさんに連れられて、無理矢理……」
「ティオナが?」
レイネは小さく唇を尖らせた。
知らない内にそんな仲になったのか。
「すごい似合ってる。いつもより断然良いぞ?」
「……失礼ね」
レイネはそう言うと目を逸らした。
白い頬がほんのりと赤く染まっている。
本当に似合っているから、目の保養とはこのことだ。
「あなたのおかげで、ようやく一体目の魔神を倒せた」
俺はそよ風を浴びながら、彼女の横顔を見る。
穏やかな表情をしているが、どこか元気がないようにも見えた。
「改めてお礼を言わせて。それと、疑ったりしてごめんなさい」
顔を向けずに、レイネは静かに言う。
「仕方ないだろ。俺が同じ立場でもそうする」
記憶を失った俺も悪い。
彼女が謝るほどの非はないだろう。
「なぁ、次はどうするんだ?」
「このままアスタフィアへ戻りたいけれど、また返り討ちに遭いそうね」
「まぁ……国民全員が操られてちゃなぁ……」
フェイルノート打倒には、相当苦労しそうだ。
人を操るように、情報も統制しているのだろう。
どうにかして、あの国の異常を他国に伝えられないか……?
「違うの。私が──無能だから」
「え?」
突然、レイネは自分を卑下した。
下を向き、暗い顔で口を開く。
「私たち勇者の末裔は、代々受け継がれてきた聖剣が使えるの。最高神が鍛造した、最強の聖剣」
ほう、聖剣。
俺の世界で有名なのは、エクスカリバーとか?
そういう伝説の神器を扱えるとは、流石勇者の一族だな。
「でも……私は使えない。呼び出すこともできなかった」
レイネは鉄のフェンスを強く握る。
「赤雷さえ、ガラティーンには傷ひとつ付けられなかった。本当に、滑稽ね」
彼女はひどく落ち込んでいるようだ。
聖剣は使えず、魔法も効かなかった現実に。
自分を責めるように、小さく丸まっている。
滑稽だという一部始終は見ていない。
そうだな、と肯定することはできなかった。
なら、自分も情けない話をしてやろう。
「──俺は異世界から来たんだ」
突拍子もないが、自分の出身を明かした。
レイネはそれに反応して、ゆっくりと顔を上げる。
「ここよりもずっと騒がしくて、生きにくい世界だったな。だから逃げた。遊び呆けて、辛い現実を見ないフリをしてきたんだ」
思い出したくもない、日本での暮らし。
父と母に妹。……そして兄貴。
俺は見たくない現実から、今も逃げ続けている。
「それに比べれば、レイネはよくやってると思うよ」
こんなことしか言ってあげられないな。
俺自身、人に何か助言できる身じゃない。
レイネは少しだけ目を見開いた。
「魔神を倒すために何度も立ち向かってきたんだろ? 俺なら、とっくに逃げ出してる」
「そんなこと……」
「聖剣が使えなくても、お前が頑張ってきたことは変わらないってことだ」
風が二人の間を吹き抜ける。
レイネは俯いたまま、小さく笑った。
「……あなたって、本当に変な人」
「そうか?」
思わず笑い合う。
張り詰めていた空気が、少しだけ柔らかくなった。
「よし、今なら迷わず言える」
赤髪を揺らすレイネは、俺の方へ向く。
「俺が何者であろうと、レイネを裏切ることだけは絶対にしない」
ここに、新たな誓いを立てた。
落ち込んだ顔はあまり似合わない。
いつもの強気なレイネでいてほしいと、心の底から思う。
「次の魔神も一緒に倒そう」
「……えぇ、わかった。約束、忘れちゃダメよ?」
レイネはふっと頬を緩め、微笑んだ。
その仕草はとても自然で、不意を突かれた胸がどきりと鳴る。
「授与式までゆっくり休むといいわ。次に向かう場所はそれから決めましょ」
「お、久しぶりの休暇かぁ。せっかくだし、帝国をもっと見て回りたいな!」
俺はレイネと並んで、復興の進む帝国を見下ろした。
残る魔神は、あと2体。
たとえどんな敵が待ち受けようと、彼女との契約は破らない。
というわけで、2章完です
ここまで見てくださった方々、本当にありがとうございました
冒頭のゲームシーン、雨晴の過去、その他重要な情報は第3章で明らかになる予定です
もちろん3章を投稿していきたいですが、続きを見たいという読者様が多ければ続けようと考えています
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