60話「また会おう」
新たな服をゲットし、再び街へ。
下を向くフラメアと並んで、中央通りを歩いていた。
「なぁ、あれって──」
「軍のフラメアか? いつもと雰囲気が違うぞ」
「隣にいるの、噂の英雄様じゃない? 少しカッコイイ……かも?」
帝国民のざわめきが聞こえてくる。
どうやら、相当注目されているようだ。
そりゃそうだろう。オシャレした美人は自然と目立つ。
「もっと早く歩け。ノロノロ歩くな!」
「いやあ、チヤホヤされるって滅多にないからさぁ。つい」
「魔神倒したのお前じゃねぇだろ。調子乗んな」
フラメアがうざったいと言いたげに睨んできた。
その通りだから、反論はできないな。
俺の体に乗り移った悪魔。
彼なのか彼女なのか知らないが、見事に魔神を撃破してくれた。
その間の記憶はないし、実感もない。
それでも英雄扱いされて、感謝されているんだ。
応えないのも失礼だろう?
「はぁ……どうしてあたしが、こんな……」
「──あ、姉上?」
と、先を行っていたフラメアの足が止まる。
「ル、ルル、ルシアン……!?」
正面を見てみると、目を見開いたルシアンがいた。
「──それで一体、何をしていたのだ」
呆れた顔で、ルシアンはため息を吐いた。
お昼時、俺たちは高級そうな飲食店に入店。
テラス席に着いて、今は頼んだ料理を楽しんでいる。
俺は熱々の謎ステーキにフォークを突き刺した。
「ただの散歩だよ。暇つぶしのな」
「そうか、ただの散歩か。ホッとしたぞ」
簡潔な説明だけで、ルシアンは頷いてくれる。
彼は恐ろしく優しい男だ。
ここの料金も持ってくれるというのだから。
「こ、こいつが無理やり着せてきたんだ! ほら、これを着ないと殺すってな!」
フラメアがバンとテーブルを叩く。
何を笑顔で、変な嘘をついているんだ?
あんなに自分から着たがっていたくせに。
「アメハル、お前は案外恐れ知らずなのだな……」
「はあ? 誰もそんなこと言ってないって」
ひと口サイズのステーキを頬張った。
俺はただ、正直な感想を言っただけだ。
「お前の姉、意外と可愛いもの好きだって教えとく」
「いいや、驚かん。父が死ぬ前はお淑やかな性格だったからな。むしろ、久しぶりにこんな姉上を見られた」
「……え? マジ?」
彼女がお淑やかな性格?
こんな男っ気のある口調と振る舞いで?
思わずフラメアの方を見てしまう。
「もぐもぐ……軍人として、適した振る舞いを覚えただけだ」
鍛えたとかいう問題なのか。
本当にお淑やかだったのか……とても信じられない。
「それより、どうして散歩でホッとしたんだ?」
ルシアンは何故か胸を撫で下ろしていた。
散歩に安心できる要素とかあったか?
「あぁ、姉上とアメハルが恋仲になったかと」
「「──ぶふぉ!?」」
口の中にあったものが吹き出た。
コイツ、いきなり何言ってくれてんの?
「お前が兄上になるかと思うと、気が気でなくてな」
済ました顔で気持ちの悪いことを言い放った。
俺とフラメアは身を乗り出す。
「ごほっごほっ……! 誰が! こんな奴と!」
「そうだぞ! 笑えない冗談やめろって!」
俺を初対面で脅してきた奴だぞ。
恋仲になるとかありえない。
「あぁ!?」
「え? いや、なんで俺……?」
意見が一致したのに、フラメアは俺を睨んできた。
「無しと言われると、逆にムカつく」
もう無茶苦茶だろ。
反論するのも面倒なので、大人しく椅子に座り直した。
理不尽すぎる怒りに、思わず肩を落とす。
「それはさておき……アメハル。授与式の準備はできたか」
「準備?」
皇帝陛下に会うためにも、この格好に着替えた。
他にも何か必要なものが?
「貴族の作法は……知らなそうだな。くれぐれも、そんな服で陛下と会うなんてことはするなよ」
「ダメなのこの服!?」
「当然だ。みすぼらしいにもほどがあるだろう」
自分なりに真っ当なチョイスだと思ったんだが。
謁見するには、いかにもな礼装が必要になるらしい。
「まぁ、この服も今後着続けるつもりだし、いいか」
「……授与式が終われば、この帝国を去るのか?」
ルシアンは少しだけ寂しそうに目を伏せた。
「多分な。アスタフィア王国に戻るか、もう一体の魔神の所に赴くか。レイネ先生の方針に任せるよ」
短い間だったが、帝国とはお別れだ。
ある程度の準備をしたら、速やかに出国する。
フェイルノートの対策も考えなくてはならない。
「帝国を北上すれば、トネリク聖王国があるな。道中は平原が多いから、大した苦労はしないだろう」
ルシアンは料理を口に運ぶ。
険しい道のりにはならなそうだな。
もう一体の魔神がどこにいるかわからない以上、しらみつぶしに各国を回ることにはなりそうだが。
「なんなら、あたしが護衛くらいしてやろうか?」
フラメアは頬杖をついて、悪戯っぽく笑う。
「遠慮しとくよ。帝国はただでさえ人手不足だろうしな」
「ま、それもそうか」
返答がわかっていたように、フラメアは軽く頷いた。
しばらく沈黙が続く。
無心で昼食を食べ終え、すみやかに店を出た。
食後の運動も兼ねて、また街を歩くことにした。
「……アメハル、ありがとう」
「え?」
隣で歩くルシアンが、急にそんなことを言ってきた。
お礼をしたいのは俺の方だ。
特に金銭の面で頼りきりで、感謝しきれない。
「ここまで立ち直れたのは、間違いなくお前のおかげだ。アメハルがいなければ、どのみち死んでいただろう」
どことなく、嬉しそうだった。
会う前はルドたちに虐められていたルシアン。
あの時と比べて、彼は実に清々しい顔をした。
「いつでも頼ってくれ。それに応えられるよう、いつでも屋敷の部屋は空けておくからな」
差し出された手を見つめる。
出会った頃の彼なら、こんな表情で手を差し出すことはなかっただろう。
帝国に来て、初めての友人。
俺は迷わず、その手を握り返した。
「……頼もしい限りだ。ありがとう」
ルシアンには頑張ってほしいものだ。
フラメアにあんな啖呵を切ってしまったしな。
相応の男になると信じているとも。
「父の仇も討てたし、コイツのフリして学園にいたことも許してやるよ」
「あぁ、ありが──って、え、知ってたのか!?」
前を歩くフラメアは、してやったりと笑った。
「ふん、やっぱりな」
まんまと不意を突かれたな。
いつからバレていたんだ?
偽装の精度が甘かったのか。
「ひとまずは、これで不問にしてやる」
フラメアは極めて優しい力で、俺の頬に拳を当ててきた。
「ほら、帰るぞルシアン」
「ちょ、姉上! また会おう。くれぐれもお大事にな」
「……あぁ、また」
先を行くフラメアを追いかけるように、ルシアンは手を振って去っていった。
その後ろ姿をしばらく見送ってから、俺は街の雑踏へ戻るのだった。




