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偽装された異世界召喚〜喚ばれて早々用済みになった俺は、最強の偽装能力で魔神に復讐する〜  作者: 石畑サン輔
第二章 炎と剣

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56話「悪魔VS剣の魔神 3」


 悪魔の指摘に、ガラティーンは動きを止める。

 いつでも振り下ろせた剣を、掲げたまま静止させていた。

 顎へ手を当てる悪魔を、無言のまま凝視した。


「ガラティーン……確か元は、太陽の聖剣を冠する名前だったな」


 噴水から出た悪魔は、気だるげに偽物の魔剣を捨てた。

 ボロついた制服の上着を脱ぎ、ネクタイを乱暴に外す。

 白いシャツの格好になった悪魔は、再び空を見上げた。


「魂を肉体から切り離し、他の器へ移す秘術。そうか、神器を選んだか」


「……」


「なるほど、魔王クローツェルの野心は本物らしい」


 感心した様子で、悪魔は頷きを繰り返していた。

 魔王の魂が神器へ転写された存在。

 聖なる神器から転じた悪性──それが魔神。


「魔王だった頃など知らん。我らは我ら、人類を滅ぼすだけだ」


 否定することはせず、ガラティーンは鼻を鳴らした。

 黒い太陽が、昇っていく。

 昏い赤空の中心で鼓動し、光はより強くなっていた。

 

「そう。同情も、興味もない」


 黒い角を一度なぞった後、低い声で言い放った。

 悪魔は動じていない。

 嗤うこともなく、落ち着き払っている。

 

「よりにもよって私を喚び、裏切った。その代価は、まだ清算されていない」


 魔力が激流となって渦巻く。

 翼をなびかせ、悪魔は一歩踏み込んだ。


「契約を軽んじる愚かさを──今教えよう」


 軽く膝を曲げ、跳躍する。

 爆発的な衝撃。噴水の瓦礫を一掃し、辺りが整地される。

 風の抵抗をもろともせず、悪魔はガラティーンへ接近した。


「笑止!」


 ガラティーンが剣で迎え撃つ。

 悪魔は勢いを止めない。

 魔力で包まれた拳を構え、振り下ろされた剣を直接受け止めた。


「貴様──」


 悪魔の掌から血が流れ落ちる。

 それだけで留まったという事実に、ガラティーンは僅かに硬直した。

 

「悪いが、粗目にゆくぞ」


 悪魔は空いていた右手で、ガラティーンを殴り飛ばした。

 ガラティーンに防御されるも、攻撃を途切れさせない。

 接近を繰り返し、ひたすらガラティーンを後方へ追いやった。


「この、魔力の重み……! 一体どれだけの──」


 拳打、張り手、飛び蹴り、膝蹴り。

 正拳突きに上突き、回し蹴り。

 悪魔の格闘すべてが、大気を揺るがす一撃だった。


 それらを、ガラティーンは剣技にて対応してくる。

 美しいとすら思わせる、流水のような剣だ。

 隙を見せることなく、一切の迷いがなかった。


「ククッ、フフ……フハハハハハハ!」

 

 悪魔の拳とガラティーンの剣。

 互いにぶつかり合えば、傷つくのは悪魔の方だけだ。

 だが、引かない。止まらない。


 守りを捨てた、驚異の攻め。

 たとえ体が斬り裂かれようと、悪魔は嗤い続けた。

 

「ほら、お前の最後が近いぞ。準備はできているか?」


 黒い太陽の真下に来たところで、悪魔は動きを変える。

 攻撃を中断した。脇を引き締め、片手を振りかぶる。

 ガラティーンを前にして、胴体をがら空きにするという体勢。


「何をしようと無駄だ、貴様に我を殺すことはできん!」

 

 明らかな挙動の変化に、ガラティーンは警戒した。

 悪魔が何かを実行するよりも先に、必殺の斬撃を浴びせる。

 よろめく悪魔を見て、ガラティーンが嘲笑った時。


「……ハハ!」

 

 自分が斬られたことを意に介さず。

 悪魔は手で握った血液を、水滴として飛び散らせた。

 そして、一言。


「偽装、家」

 

 発された短い命令は、速やかに実行される。

 ガラティーンの懐に入った、無数の血しぶき。

 それらは形を得て、一気に膨れ上がった。


「ぐ、なんだと……っ!?」

 

 文字通り、家が出現した。

 日本の一軒家や、アスタフィア王国とカルヴェルム帝国の民家。

 雨晴が記憶していた住宅たちが、連鎖的に積み重なっていく。

 

 圧倒的な物量に、ガラティーンは不意を突かれた。

 次々と出現する家が、彼を上へ押し上げる。

 ダメージはない。流れにも逆らえない。


「──現存する悪魔の数を、数えたことはあるか?」


 黒い太陽の目前まで押し上げられたガラティーンへ、悪魔は問う。

 聞こえているかも定かではない。

 聞かせるためではなく、自らの力を誇示するためだけの独白。


「魔力の一割が……この手の中に」


 積まれた家を眺め、悪魔は紫の光を手に集めた。

 背中の翼を広げ、傷口から血を垂らしながら上昇していく。

 徐々に落下する家々を躱しながら、魔力を一点へ集中させる。

 

「……見事だ。感服すらした。見下すことすら愚かしい」


 ガラティーンは、飛んでくる悪魔を遠目から賞賛した。

 自分を押し上げる家の屋根に、剣を突き立てる。

 黒い炎を巻き起こし、爆散させた。

 

「故に、もうよい」


 崩れ去る住宅。その上でガラティーンが浮かぶ。

 黒い太陽を背に、落ち着いた声色で言い放った。


「これは戦いではなく、災厄の訪れなのだから」


「……っ! 来るか!」


 ガラティーンが黒い太陽へ近づいていく。

 掲げた剣先が、太陽の炎と接触した。

 すると、それまであった黒い太陽が剣に吸収された。


「──ソル・カタストロフ」


 人々は見上げた。

 肌を灼く感覚が消え、太陽の消失を確かめた。

 代わりに、身の毛がよだつような震えが襲う。


 赤空に輝く、漆黒の刃。

 太陽を取り込んだ剣は、真に完成した。

 性質を反転させた終末剣、『ガラティーン』へと。


「この地に刻むとしよう。人類の滅亡、その一歩目を!」


 ガラティーンが終末剣を振るおうとする。

 赤みを帯びた金髪が逆立ち、鎧は爛々と燃え盛る。

 

 帝国は甚大な被害では済まされない。

 太陽のエネルギーを解き放てば、生命は焼き払われる。

 だが人類は、固唾を飲んで見守ることしかできなかった。


「……これはこれは、ありがとう」


 人外である彼を除いて。


(わっぱ)に神聖力がなくとも、効くことは実証済みだ」


 悪魔は嗤う。

 ガラティーンの行動に、喜んでいた。


「偽装、叢雲。魔天モード」


 手に滲んだ血液を、ボロついた刀へ変化させる。

 刀の鞘をすばやく抜き捨て、ゆっくりと構えた。


「!? そのような、醜い棒切れで……っ!」


 ガラティーンは終末剣を振り下ろした。

 帝国全土を両断せんとする、巨大な黒炎の斬撃が飛ぶ。

 逃げることのできない、まさに災厄だ。


 だが、悪魔は問答無用で突き進む。

 斬撃に向かって、自分から衝突した。


「──本当に、良い契約をしたよ」

 

 災厄の斬撃が消失する。


 悪魔の持つ刀に丸ごと吸収された。

 

 斬撃のあった場所には紫の霧が漂っている。


 その霧は、元の形へ瞬時に修復した。


「貴──」


 悪魔は極光まばゆい妖刀を握る。


 引き絞る刃に迷いはない。


 間髪入れず振り上げた。


『魔天の叢雲』


 音が消えた。


 風が歪み、一閃が走る。

 

 激しい光の奔流が、ガラティーンを飲み込んだ。


 星の煌めきのように打ち上がり、爆ぜる。


 赤空をも裂いて、澄み渡る青空を切り拓いた。


 暗雲が引いていく。


 現れたのは──本物の太陽。


 暖かな陽光が帝国に差す。


 灼熱の災厄は、影さえ残さず姿を消した。


「……想定より早く終わったな」

 

 悪魔は嗤うことなく佇んだ。

 

 手元を見下ろし、乾いた血を眺める。


 ゲームが生んだ虚構の一振り。

 

 されど妖刀は、神造の終末剣を凌駕した。

 

「手本は見せた。せいぜい感覚を忘れないことだ、()()()


 悪魔は目を閉じた。


 すると、頭から角が消える。

 続くように翼もなくなり、瞳は黒く染まった。


 悪魔の意識は静かに遠のく。


 帝国を救った英雄は、力無く地上へ落ちていった。


 

帝国での戦いは、これにて決着です


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― 新着の感想 ―
一気にここまで読ませていただきました! とても話のテンポも良く、読みやすかったです。 評価も入れておきますね。
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