55話「悪魔VS剣の魔神 2」
帝国の民たちが、一斉に目を覚ました。
黒き太陽は依然として残っている。
照りは衰えず、光は肌と生命力を灼いている。
屋根を貫通し、人体に害を及ぼし続けている。
意識を取り戻すことは、ある種の自滅に過ぎない。
それでも、彼らは目を覚まさざるを得なかった。
帝国上空に、太陽とは別の気配が現れたからだ。
「……騒々しい」
国の中心にそびえる城のバルコニー。
現カルヴェルム皇帝は腕を組み、空を見上げていた。
他の側近たちは気絶していた。
彼を守る兵士は、ただ一人。
兵士は皇帝にひれ伏し、そっと見守り続けていた。
遠くで激突する怪物たちを、皇帝は黙って見つめている。
玉座を捨てて避難することも、兵を動かすこともなかった。
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「ゆこうか」
悪魔は腕を脱力させ、コウモリに似た翼を畳む。
重力に身を任せると、ガラティーンのいる方へ落ちていった。
「貴様、それほどの魔力を──!?」
高みから降り注ぐ、底知れない圧力。
およそ個人が持ってはならない魔力量が、形となって空を震わせていた。
悪魔が接近するたび、ガラティーンは高度を失う。
刹那、悪魔は下降速度を急激に上げた。
渦巻く魔力が風と一体化し、辺りを薙ぎ払っていく。
直線状にいたガラティーンは咄嗟に剣を構え、防御の態勢へ。
だが、防ぎ切れない。やむを得ず、後退を強いられた。
「ククッ、フハハハハハ!」
嗤う怪異が魔神を追う。
軍司令館スレスレを、悪魔とガラティーンが飛行する。
余波で起きた暴風に、レイネたちは身構えた。
「アメハル……!」
風に押されたレイネが、目を細めて彼の名を呼ぶ。
だが悪魔の視線は、一度たりとも彼女へ向かない。
黒い翼を広げたまま、ガラティーンだけを見据えていた。
「剣の魔神とほざいていたが、調子はどうだ!?」
帝国の都で、2つの光が衝突する。
建物の壁面が弾け飛び、石畳がめくれ上がった。
二人の戦いは、帝国そのものを巻き込みながら加速していく。
「太陽魔剣、奴を焼き尽くせ!」
「これはこれは!」
悪魔は拳に魔力を乗せる。
ガラティーンの剣から放たれた炎を、乱暴に振り払った。
その余波だけで、帝国の街並みが崩れていく。
「な、何が起きているんだ!?」
「外に出るな、巻き込まれるぞ!」
建物から出てきた帝国民たちが頭を下げ、悲鳴をあげている。
軍の兵士たちは、混乱する帝国民たちへ必死に避難を促していた。
「よかろう……そこまで死に急ぎたいならば!」
ガラティーンは咆哮を上げた。
同時に今まで以上の魔力が噴き出し、その口元が獰猛に歪む。
「この国もろとも、太陽の薪にしてくれるッ」
剣で袈裟斬りを繰り出しながら、ガラティーンは全身を使って突き進んだ。
悪魔は身を捻り、その剣を躱す。
頭上へ抜ける瞬間――ガラティーンの掌には、すでに炎が集束していた。
「ふっ……!」
放たれた業火が悪魔を呑み込んだ。
魔力の膜を展開するも勢いを殺しきれず、悪魔は後方へ吹き飛ばされる。
民家や施設を突き破りながら、帝国南部の広場上空まで押し流された。
「撃ち落とせ、ネガソル!」
響き渡るガラティーンの命令。
黒い太陽は鼓動し、瞬時に光を集めた。
そして、悪魔めがけ熱光線を放つ。
「──偽装、火葬方陣」
熱光線が到達する前に、悪魔の契術は発動していた。
一本の炎剣がどこからともなく飛来し、悪魔を守るよう立ちはだかる。
炎剣は風車のように旋回し、迫る熱光線を相殺した。
「良い出来だ。耐久面も申し分ない」
宙に浮く炎剣をキャッチし、悪魔はその造形を眺める。
フラメアの炎剣より、刃渡りは二回り大きい。
悪魔の膨大な魔力によって、性質すら別物へ変貌していた。
「貴様ァ!」
血相を変えたガラティーンが、悪魔へ斬りかかる。
割り込んだ二本目の炎剣によって、攻撃は止まった。
「……その、燃える剣は……っ!」
「フフ、これがどうかしたのか?」
これ見よがしに聞く悪魔。
ガラティーンの目線は、悪魔の生み出した炎剣から離れない。
「契術で鍛造した、鉄要らずの剣! 何という鬼畜! 剣の価値を貶める塵めッ!」
肩を震わせ、ガラティーンが拳で炎剣を破壊した。
「軍を支配するため、軍団長を殺し、地位を奪った。あの女に制御魔道具の単独警備を言い渡し、誰が助けに来ないよう図った! それなのになぜ、こうもまた同じ冒涜者が現れるのだ!」
怒りに満ち、冷静さを欠いている。
余裕さはどこへ消えたのか、ガラティーンは歯を剥き出しにして吠えた。
対する悪魔は、ゆっくりとあくびをする。
「怒るなよ、全て偽物なんだから。それに、似ているだけで……中身は別格かもしれんぞ?」
気づけば悪魔の背後には、焔の円環が広がっていた。
数十、数百の炎剣が並んでいる。
「き、さッまあああああ!」
悪魔は右手を突き出した。
呼応するように炎剣が円環から飛び出す。
激昂したガラティーンを切り裂かんと迎撃を開始した。
「こんなもの──取るに足らんわッ!」
炎剣は四方八方から殺到する。
まるで意思を持ったかのように、それぞれ異なる軌道を描いた。
「魔力は有り余っている。ほら、もっといくぞ?」
豪雨のごとく炎剣が降り注ぐ。
一振り一振りが達人の斬撃を思わせる軌道で迫り、ついにはガラティーンの鎧すら裂いた。
「無意味無意味無意味ィ! この我に、剣で勝とうなどと──」
猛る黒炎をまとい、ガラティーンは全ての炎剣を振り払う。
そして、目を見開いた。
悪魔の持つ、禍々しい一本の剣。
その存在を疑うかのように、体を硬直させる。
「燃え狂いな、太陽魔剣」
悪魔が握るのは、ガラティーンと同じ黒き魔剣だった。
「無制限の、複製能力……!」
「複製じゃない、偽装だ。もっとも、この童のおかげで制限など無いに等しいが」
刃から溢れた黒炎が龍のようにうねる。
持ち主であるガラティーンを襲い、影が見えなくなるまでその身を覆った。
「──よもや、我をも真似てみせるとは」
悪魔の真横へ、ガラティーンは瞬時に現れた。
横薙ぎの一撃が悪魔を炎剣ごと薙ぎ払い、中央通りまで叩き飛ばされる。
地を抉り、噴水を砕きながら、悪魔はようやく勢いを殺した。
「これはこれは……その口ぶり、やはり」
半壊した噴水の中で、悪魔は呟く。
自分を追撃しにきたガラティーンを見上げた。
水浸しの地面から立ち上がると、ある物に指を差した。
「お前が持つ剣こそが──お前の正体なんだろう?」
その言葉を聞いたガラティーンの剣が、ピタリと止まった。




