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偽装された異世界召喚〜喚ばれて早々用済みになった俺は、最強の偽装能力で魔神に復讐する〜  作者: 石畑サン輔
第二章 炎と剣

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54話「悪魔VS剣の魔神 1」


 ──悪魔とは、謎多き存在だ。


 異次元にあるという地獄を生息地としている。

 人間の欲望を糧として、現世に這い出ようとしている。

 神の敵対者であり、神秘を愚弄する冒涜者。


 どれも真実であるかは不明だ。

 唯一判明している事象、それは人間との契約である。


 例えば、人間が生死を彷徨う時。

 怒りや苦しみによって引き出された、強い意思を抱いた時。

 悪魔はその者へ呼びかけ、契約を持ちかける。


 何らかの条件と、魔法の使用不可。

 これらを引き換えに、契約を交わすことで常識を超えた力を手にすることができる。


 一度交わした契約を破棄することはできない。

 生涯で魔力を捧げなければ、命の保証もない。

 悪魔たちの目的は、誰にもわからない。


 悪魔の正体は、そんな不鮮明なものだった。




 

「アメハル……じゃないよね?」


「おいおい、なんだアイツは。まるで──」


 レイネたちは呆然と見上げていた。

 ガラティーンを吹き飛ばした存在。

 悪魔と呼ぶに相応しい、曇雨晴の姿をした誰かを。


「久しぶりの現世だが、少し暑苦しいな?」


 軽く文句を垂れながら、悪魔は悠然と浮いていた。

 観察するかように、カルヴェルム帝国を見渡している。


「さて……」


 悪魔が真下へ視線を落とした。

 困惑するレイネたちの顔を、一通り見物する。

 嗤うのをやめ、深いため息を吐いた。


「無償で助けるのは不服だな。あとで請求して──」


 悪魔がよそ見をしていると、地面で爆発が起きた。

 風を突き抜ける、魔力の塊。

 剣先が光り、標的を斬り裂かんと迫る。


「──偽装、剣」


 悪魔は髪の毛を一本取った。

 短く唱えると、それは剣の姿へと変わる。

 迫り来る相手の剣を難なく受け止め、再び顔を歪ませた。


「これはこれは、()()()()()()!」

 

「貴様……何者だ!」


 両者の剣は火花を散らす。

 ガラティーンが魔力を放出させると、力の均衡は崩れた。

 悪魔は押し負けるも、余裕そうに後方へ漂った。

 

「何者ときたか。これはこれは」


 悪魔は笑みを絶やさない。

 手首を楽にして、遊ぶように剣をぶらつかせる。

 ガラティーンと対面しながら、威圧感をもろともしなかった。

 

「お前が忘れようと、交わした契約は決して忘れない。それが悪魔という生き物だ」


「……悪魔だと? 貴様など知らん」


「んん?」


 ガラティーンが一蹴する。

 悪魔を名乗り、自分に一切臆さない者。

 そんな奴は初対面だと、悪魔の言い分を否定した。


 すると悪魔は、ポンと手を打つ。

 何かを思い出したかのように、数回頷いた。


「あぁ、今は()()()()()()()んだったな。失敬」


 自然な動きで剣を突き出し、口を動かす。


「偽装、()


 剣が黒い霧で覆われ、その形を変えた。

 瞬間、乾いた破裂音が響き渡る。

 あまりに軽く、速い衝撃。


 ガラティーンの額には、小さな穴ができていた。


「なんだそれは……?」


 銃弾を受けたガラティーンが呆気に取られた。

 見たことのない傷、受けたことのない攻撃。

 絶命はしていないが、驚きが尽きない様子だった。


「驚いたか? 私も驚いているよ」

 

 悪魔はお構いなしに、次々と発砲した。

 握られた拳銃から、薬莢が飛び出し落ちていく。

 それは間違いなく、この世界に無いはずの武器。


「小賢しい!」


 激昂したガラティーンが、悪魔へ直進する。

 二度目以降の銃弾は全て斬り伏せた。

 そのまま剣を構え、悪魔へと振り下ろす。


「ちっ、案外難しいな。なら──」


 悪魔は空いていた左腕をかざした。

 魔力を練り上げ、ガラティーンの魔剣を直接防ぐ。

 左腕は血が滲むも、斬り落とされていない。

 

 悪魔がガラティーンの顎へ、銃を突きつける。

 間髪入れず、引き金を引いた。

 銃弾は確実に、ガラティーンの頭を貫通した。


「──無駄だ」


 それでも、致命傷には至っていない。

 即座に傷を再生し、ガラティーンは平然としている。

 その場から退く悪魔を、追撃することはなかった。


「これはこれは、大した再生力じゃないか?」


 離れた悪魔が、負傷した左腕を見せつける。

 出血して傷ついた前の、元の左腕へと戻った。


「──わからん」


 戦いの最中、ガラティーンは一言だけ呟いた。

 心底退屈そうに剣を下ろし、反撃すらやめている。


「なぜ我の邪魔をする。貴様の目的はなんだ」


 純粋な疑問。

 悪魔だとして、魔神と対峙する理由が不明だと。

 ガラティーンが髪をかき上げ、悪魔へ問う。

 

「軽く言えば嫌がらせ、重く言えば復讐。その塩梅はどうでもいい。私はただ取り立てるために顕現した」


 悪魔は銃を器用に回しながら、問いに答えた。

 脱力したように宙に浮き、緊張感が全くない。

 だがその目は、ガラティーンを捉え続けていた。

 

「お前──全盛期に戻れていないな?」


 悪魔がニヤリと口角を上げる。

 芯を突いたような、魔神への見定め。

 ガラティーンからの否定はなく、悪魔の目は光った。

 

「あの太陽が昇ってなお、お前は全力が出せていない。200年前に付けられたという、勇者の枷のおかげか」


 頭の角を撫でる悪魔に、ガラティーンが接近する。

 避けようとしない。防御の態勢も取らない。

 悪魔は昔話をするだけで、焦りを全く見せなかった。

 

「燃え狂え──太陽魔剣」


「なんて好都合。全力の7割程度。どうだ図星だろう?」


 ガラティーンが剣に魔力を注ぐ。

 握られた剣は黒く光り、炎がうねる。

 嘲笑の絶えない悪魔に向けて、黒炎の斬撃を放った。


「偽装、()()()()


 舌舐めずりをして、悪魔は唱えた。


 すると、飛行中の悪魔の姿が消え失せる。

 空の色と同化し、存在自体が確認できない。

 黒炎の斬撃が、悪魔を灼くことはなかった。

 

 悪魔が口にしたのは、他人の契術の名だ。

 剣士斬りのガイゼフが使用していた、透明になれる術。

 それを惜しげもなく、自分の物のように発動させた。

 

「今日は能力の慣らしだ。これ以降、私が顕現することはもうない」


 ガラティーンが動きを止め、周囲を探る。

 声は聞こえる。だが、姿形の揺らめきはない。

 斬るべき標的を見失い、剣の刃先が止まっていた。


「お前を片付けた後に残る2体は──(わっぱ)へ一任している」

 

 声のした方向へ、ガラティーンが剣を薙ぐ。

 空に黒炎の線を描き、広範囲を焼き払った。

 ガラティーンの顔に、苛立ちが見え始める。


「……小細工を」


 悪魔はガラティーンの背後に現れた。

 完全な死角からの、的確すぎる一撃。

 偽装した剣で斬りつけるも、鎧によって防がれている。


「貴様が何者であるかの興味はすでに失せた。悪魔だろうと、我を殺す手段はない」


 ガラティーンが剣を下ろした。

 落胆と退屈、侮蔑が上乗せされた嫌悪。

 相手にする価値すらないと、ため息を漏らした。


「これはこれは」


 悪魔は壊れた剣を見て、嗤う。

 静かに距離を取ると、少しずつ上へ昇っていく。

 持っていた剣が髪の毛に戻り、それをひらりと捨てた。

 

「さっきのは準備運動だぞ? それで満足していては、本番で後悔してしまうというのに」


 銃は効かず、剣撃は無意味。

 圧倒的な魔力による攻防と、自己再生による耐久。

 生半可な手段ではどうする事もできない。

 

 それでも、悪魔は変わらず嗤っていた。

 翼を大きく羽ばたかせ、一呼吸する。


「──権能実行」


 空気が淀んだ。

 黒い太陽に汚染されているのにも関わらず。

 さらなる流れの上書きが、今起ころうとしていた。

 

「常世総ての同胞よ、汝の1()()()()()()()()()()()


 一瞬の間に、事は終わっていた。

 尋常ではない魔力の集中を、ガラティーンが感じ取る。


「……なに?」


 悪魔の体に渦巻く、凄まじいまでの力の濁流。

 黒い太陽に内包された魔力量を、軽く上回っていた。

 ガラティーンは事態を把握し、初めて一粒の汗を流す。

 

 異世界に召喚された、一人の少年。

 溢れ出す魔力を、その平凡な肉体で抑え込んでいた。

 魔力総量の限界以上を、破裂しないまま抱えている。


 ──そんなことはあり得ない。


 曇雨晴という人間には、到底できるはずがない芸当だ。

 本来ならば死んでいておかしくない所業。

 つまり、彼は人間という枠を、大きく超えてしまっているということ。


「試してみよう。童の体で、私がお前を殺せるか」


 悪魔が下降する。


 押し潰すような、人ならざる存在感を放ちながら。

 


 

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