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偽装された異世界召喚  作者: 石畑サン輔
第二章 炎と剣
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51話「契約に従い──」


 もう無理だ。これ以上動けない。

 俺は背中から倒れ、改めて呼吸を繰り返した。


 ベルマンは死んだ。

 頭にトドメを刺した以上、俺たちの勝ちだろう。


「かはっ、こほっ……ま、マジで死ぬ……」


 自分のしぶとさに段々と呆れてきた。

 生身で戦って生きていることが信じられない。

 悪運だけが強くなってきたのか?


 だが、制御魔道具は守った。

 魔神の企みを防いだと言っていいだろう。


「……さっさと立て。まだ問題が残ってる」


「いや、いやいや。そう言われても」


 フラメアだって怪我をしているだろうに。

 小一時間の休憩も贅沢なのか?

 1週間の休日でも足りないくらいだぞ。


 実際、問題は山積みになっている。

 ガラティーンとかいう魔神が帝国にいるはずだ。

 

 制御魔道具は死守したものの、地上はどうなっているのかわからな──


「──そうさ。まだ終わっていない」


 ありえない。


 今のは幻聴だ。

 でなければ、この期に及んで生きているわけが……!


「ハ、ハハ──ハハハハハハハハハハハハハハハ!」


 発狂が聞こえてくる。


 首だけしか動かせない今、耳を傾けるしかない。


「どういうことだ……確かに殺したぞ!」


 俺を見下ろしていたフラメアは、腰を据えていた。

 心底驚いたような顔で前方を警戒している。


知恵地喚(エルダアース)土牙(ランス)ッ!」


 鋭い声が木霊した。

 爆発的な風圧と、熱を帯びた衝撃。

 身動きが取れない中、それらを肌で感じ取る。

 

 何かの魔法を使った?

 まずい、避けられない──


「この身が……朽ち果てようと、全ては、貴方様の……ため……に……」


 状況を把握できないぞ。

 何が起きた? 何をされた?

 バタンと倒れた音は、誰のものだ?


「──最悪だ。扉を、破られた……!」


 フラメアの震える声が聞こえる。


「最終手段を用意してやがった。外付けの魔力使って、無理やりこじ開けるなんて……!」


 どういうことか説明してほしい。

 扉を破られた?

 あれだけ必死に守った扉を、一瞬で?


「お、おい……どうなって……」


「ベルマンは死んだ。制御魔道具も、死んだ!」


「はあ?」


 呆気ない結末を、信じられなかった。


 俺は暗い天井しか見られない。

 だから、ベルマンがあの鉄扉を破ったという話も、自分の目で確かめるまで信じたくない。


 それに、制御魔道具が死んだとも言ったのか?


「信じない……信じないぞ……」


「寝るな、起きろ! 今すぐにここを出る」


 彼女の声が、遠くなってきた。


 まぶたの閉じる力が強くなっている。

 眠くないのに、寝なければならないと体が叫ぶ。


 ──寒い。


 凍えるような悪寒が芯から広がっていた。

 恐怖はないが、安心もない。

 やり切ったと思えば、途端に不幸が舞い降りたショックか。


「早くしないと帝国が──!」


 立ち上がる気力すら湧かない。

 もう、帝国のことはどうでもいいとすら……。


 血が流れすぎたんだ。

 魔力も限界まで使った気がするし、体力はもちろん残っていない。


「……死……」

 

 俺にはわかる。

 本物の『死』が迫っていることを。


 可能な限り手は打った。

 戦った結果がこの始末なら、潔く逃げればよかった。












 

『──死すら欺くのが、ワタシの仕事なのサ」

 

 唐突に、知らないはずの声を聞いた。


 ──思い出した。


 この瞬間、記憶は復活するということを。

 心臓が勢いよく跳ね、生命活動を再開させる。

 視界が消え、音が消え、心が沈んでいく。

 

 なぜ忘れていたのか?


 そういう契約をしたからだ。あぁ、そうか。

 この世界に来たのは、()()()に呼ばれたからだ。


 俺は悪魔と契約した。


 嫌でもあの顔が浮かぶ。

 金髪で、生意気で、常に薄ら笑いで。

 傲慢な態度のくせして、俺に()()()をしてきた。


 ──アスタフィア王国で死ななかったのはなぜか。

 ──あるはずのない魔力があるのはなぜか。

 ──魔力が尽きないのはなぜか。

 ──ただのゲーマーが選ばれたのはなぜか。


 ──魔神を殺さなければならないのは、なぜか。


 死にかけることで、あの時の記憶を取り戻せる。

 変な誓約と、偽装という契術は引き換えなんだ。


 命懸けで戦場に出向くのも。

 フェイルノートから逃げることだって。

 この場で意識が堕ちることさえ。


「なんだよ……全部お前らの都合じゃないか──」


 あぁ、面倒くさい。

 コイツらの経緯を知っているから、なおさら。

 

 ここから生き返って、約30分だったか。

 俺の体の自由はアイツに委ねられる。


 その後に俺が死んでいようと、契約に従って不問となるのが理不尽極まりない。


 生きるか死ぬかは彼女の選択しだいだ。

 ()()()()()()()()()()()()としても、知らぬ間に二度と目覚めないというのは勘弁してほしいな。


 ともかく、今は疲れた。

 どれだけ酷使する気かは知らないが、ほどほどな行動を心がけてほしいと願う。


「──! ──!?」


 フラメアが何かを叫んでいる。

 青ざめた顔で、こっちを心配してくれているみたいだ。

 

 取り戻した記憶は、また消えるらしい。

 次に目覚めた時、俺はベルマンとの戦い後の記憶しか残っていないと言う。


 いわゆる、『オートバトル』というやつだ。


 彼女の目的は、魔神を殺すこと。

 厄介ごとを潰してくれるなら、それはそれで助かるよ。


「──さて、ゆくか」


 俺の意識は堕ちた。

 この悪魔が、全てを片付けてくれることを願って。


 



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