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偽装された異世界召喚  作者: 石畑サン輔
第二章 炎と剣
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50話「火葬方陣」


 偽装した本人と並び立つのは、これが初めてのことだ。

 瓜二つの人物が横にいる。なんとも不思議でならない。

 これまでの痛みが引いていくような、奇妙な安心感があった。


「……どちらかが、あの少年ということか」


 張り付けたような笑みを崩さないベルマン。

 だが、炎剣によるダメージは確実にある。

 その証拠に、奴の剣を持つ姿勢がお粗末だ。

 

 きっと痩せ我慢だろう。

 心のどこかでイラついているはず。


「さて、どっちが本物でしょう」


 俺も負けじと、余裕があるフリを続行した。


 偽装は()()()()()によっても左右される能力。

 今この瞬間でさえ、解除させられる可能性は捨てられない。


「順当に言えば、剣を持っている方が──」


 その先を言わせてたまるか。

 俺とフラメアは、お互いを交差しながら走る。


 どっちが本物かという話はもういいんだ。

 奴に言い当てられる暇を与えないよう、なるべく焦点が合わさせない──


知恵土喚(エルダアース)地裂連牙(ガイアスパイク)


 地面が盛り上がり、土の槍は波となって迫る。


 大雑把だが、俺たち両方を消し去るつもりだな。

 察するに、あっちも必死になってきたということ。


 俺は立ち止まり、自分の剣を地面に置く。

 同時に、フラメアの手を引いた。


「偽装、馬車!」

 

 言い放つと、予告通り馬車は現れた。

 偽装の重ねがけは可能……!

 

 馬はなく、荷台だけのハリボテ。

 俺たちは出来上がった安全地帯に乗る。

 中身はなくとも、土槍の波を一度回避するには、十分。


「チャンスはもうない。決めてこい!」


 フラメアは激励すると、馬車から飛び降りた。


 もはや、魔力の温存は必要ない。

 

 覚悟を決めろ。


 あの男を──仕留める!


 その一心で、土槍によって壊れていく馬車から飛んだ。


 大して速くもない足は、再びベルマンの方へ駆け出していた。

 

「……偽装、大布ッ!」


 奴との距離は目前。

 俺は惜しまず叫んだ。

 連想するのは──巨大で、薄く、軽い布。

 

 スマホから剣に、剣は赤い布へ。


 俺とベルマンの両方を、容易に覆い隠せるほどの布だ。

 それをすぐさま広げ、奴の視界を遮らせる。


「どんな真似をしようと、全て無駄に終わるというものさ!」


 奴はなりふり構わず、持っていた剣で布を切り裂いた。

 容赦のない一閃が、どこから来るのか把握しきれない。

 

 あるのは防衛本能。

 俺は勘で頭を下げ、姿勢を低くする。


「……ッ!」


 ──奴の剣は、俺の肩を貫いていた。


 なんて速さだ。

 認識すらできないまま、攻撃されるとは。

 

 吐くほど痛い。

 視界が霞む。

 偽物の軍服に、赤色が滲み出てきた。


 短期間で、連続的に味わう『死』の気配。


 ──動け。


 死ぬよりはマシだ。

 前を見据え、ベルマンを睨む。


「な……」


 寸前で意識を取り戻した俺を、奴は心底驚いたようだった。


 自分はこの中で、圧倒的格下。

 だからこそ、意表を突く必要がある。


 目の前切り裂かれた布に、手をかざした。


「偽装──柱ァ!」

 

 できるかどうか。

 それを検討する暇もなく、柱は現れた。


 偽装したのは、地下の支柱。

 

 布から転じた柱は、タケノコのように高く伸びる。

 直線上にいたベルマンを、天井へと強く押し上げた。

 

「今だ、フラメ──」


 呼びかけようとした時、すでに炎剣は向かっていた。


「地獄で、父上に詫びろ」


 彼女は指揮者のように、指先を閉じる。

 四方から無数に発射された炎剣たち。

 

 ベルマンのいる一点のみを、集中的に爆撃した。


 パラパラと落ちる地下の天井。

 偽装した柱は形を保てず、崩れていく。


 ──決まった。


 これで生きていようものなら、奴は人間じゃない。


「っあァ! はぁ……はぁ……」


 思わず、尻餅をついて倒れた。

 

 後から遅れて、忘れていた呼吸を思い出す。

 心拍数が数倍に跳ね上がったかのようで、苦しい。


 無我夢中で、呼吸を繰り返していると。


 ──前から歩いてくる、人影があった。


「はぁ……はぁ……はぁ……!」


 待ってくれ。冗談だろ?


「──君が言うまでもなく、偽物だね?」


 フラメアの偽装を破られた。

 俺はたちまち、元の制服姿へ戻される。


 ベルマンは生きていた。

 ボロボロの教員服と、無数の刺し傷と火傷痕。

 見るに堪えないが、生きている。


 魔法で守ったのか?

 だが、そんな素振りは一度も、


「はぁ……はぁ……がっ!?」


「アメハル!」


 近づかれた──気づいた時には遅かった。


 首を握られ、潰される。

 凄まじい握力で、体ごと宙へ持ち上げられた。

 つま先が届かない。

 呼吸が、できない。


 奴の顔を見ると、そこに張り付けた笑顔はなかった。


「稚拙な作戦だったが、悪くなかった。こんなにも多彩な契術は見たことがない」


 その瞳の奥には、ベルマンの本音が現れていた。

 徹底的に見下し嘲る。

 優しさなんて微塵もない。

 

 俺を殺そうとする、冷たい邪悪だった。


「ベルマン……どうして死んでない──!」


「ガラティーン様がくださった、外付けの魔力さ。魔法は使えないが、こうして身体強化に回せる」


 ベルマンはフラメアを一瞥し、すぐに視線を戻した。

 

 外付けの、魔力?

 自分のとは別の、予備タンクみたいなもの?

 そんなのズルじゃないか。反則だ。

 

 彼女の動きも当然鈍る。

 魔力を使えるとなれば、余力があるということ。

 また攻撃は耐えられ、避けられるに違いない。


「ここまで披露したんだ……もう、十分だろう?」


 首を締め付けが増してきた。

 偽装を看破され、足も地に着かない。


 次は──どうする?

 

 フラメアの偽装時に負った傷は消えた。

 だが、それ以前の怪我は治癒していないんだ。

 おまけに、今看破された分のペナルティもやってくるだろう。


 ひょっとして、詰んだのか?

 

 もう挽回できる可能性を見出せない。

 薄れていく意識の中、戦いの終わりを悟り、

 

「……往生際が悪いな」

 

 首を掴む奴の腕を、逆に掴み返していた。


 認めて、たまるか。

 少しでも延命するために、この拘束を引き剥がせ。

 目を見開き、歯を食いしばる。


「本当に、君はなんなんだい?」

 

 自分でもわからない。

 ここまで命を賭ける意味を、疑問に感じてきた。

 

 だが、コイツに勝つ。

 最悪それさえ達成できれば、どうなってもいいと。

 半ば自暴自棄のような反動が、頭からつま先の隅々にまで行き渡った。

 

 手も足も出ないのなら、使わずに勝てばいいんだ。

 何度も見てきたものがある。

 

 必要なのは──自分の声だけでいい。


「ぎ、そぅ──」


 握り潰されながらも、絞り出す。

 僅かに作った隙間から、掠れ声が出た。

 

 俺が知らぬうちに契約した悪魔。

 もし、この世にある全てを偽装できるというのであれば。


 

「火葬、方陣──!」


 

 モノだけでなく、能力すらも覆してくれ。


「な、に──?」


 俺はフラメアを真似て、拳を握った。


 周囲に炎の剣が無数に現れ、飛翔する。


 ベルマンが躱わす暇なく、奴の体を貫いた。


 正真正銘、完全な不意をついた。


「ぐっあ……はぁ……はぁ……!」


 首から手が離され、重力に引かれるように落ちた。

 

 成功した、まさか成功するなんて。

 他人の契術を偽装できた……?

 

 限界を超えたような感覚が駆け巡る。

 酸素を急いで取り込め。

 まだ終わっていない。何とか意識を保つんだ。


「……ガラティーン様の魔力を、破っただと?」


 口から血を流して、俺を見下ろすベルマン。

 痛みを感じていないのか?

 ほとんど表情が変わっていない。


 どう見ても致命傷を与えたはず。

 まさか、これでもダメだと?


「これしきのことで終わるとでも──」


「いいや、終われ。今度こそな」


 ベルマンが俺に手を伸ばそうとした瞬間。


 奴のこめかみを、飛んできた炎の短剣が貫いた。


 フラメアの放った、最後の一撃だったのだろう。


 魔法学を専攻する、長身の教師。

 学年主任であり、爽やかな優男。

 誰にでも微笑む優秀な魔法使い。

 

 帝国を裏切った魔神の眷属は、ついに崩れ落ちた。

 





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