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偽装された異世界召喚  作者: 石畑サン輔
第二章 炎と剣
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49話「不意を突きまくり作戦」


 あの魔法使いを、いかにして倒すか。

 支柱を背に、頭痛で弱った思考を巡らせる。

 

「偽装、オーバーキャスター。……ダメだな」


 一応唱えてはみたものの、黒い霧は出なかった。

 偽装を看破された影響だろう。

 もう、オーバーキャスターへの変身は期待できない。

 

 この穴を埋める、別の立ち回りが必要になる。


 相手は腐っても魔法学の教師だ。

 俺を仕留めにきたあの動きは、戦い慣れている証拠。

 加えて、どんな魔法が飛んでくるかもわからない。


 迂闊に動けば、まず死ぬ。


「──メインを優先させてもらおう」


「は?」

 

 支柱の後ろから、奴の声は聞こえてきた。

 落ち着いたトーンに乗せて、聞き捨てならない言葉を吐き捨てる。


「これ以上構っていると、『太陽』の昇る時間に遅刻してしまうのでね」


 足音が鳴り、遠ざかっていく。

 

 ベルマンは、俺たちを放置する気なのか?

 あれだけ殺す気満々だったのに?

 見逃してくれるのなら、とてもありがたいが……。

 

「……どこまでも、あたしたちを舐めてるな」


 フラメアはしゃがみながら、強く拳を握っている。

 もはやどうでもいいと侮られた。

 そのことに、彼女は憤慨しているらしい。

 

「アメハル。魔力残量は?」

 

「……わかんないけど、限界が近いなのは確かだよ」


 俺は血だらけの両手を上げる。

 頭痛、吐き気、喉の痛み。

 風邪の上位互換のようなウザったらしさは健在だ。


 満身創痍の自分にできることは少ない。

 せいぜい囮になって、奴の注意を引く程度だろう。

 

「なら、できる限り温存しろ。使い切ったら負けだ」


 軍服に付いた汚れを軽く払って、彼女は立ち上がった。

 ブロンドの髪を揺らし、支柱から顔を覗かせる。


「ベルマンの優先順位は、()()()()()ことらしいからな」


「……というと?」


 意図を読み取れずにいると、フラメアは鉄扉を指差した。

 

「いいか、制御魔道具ってのは抑止力だ。あれがある限り、大規模な魔力犯罪は起きない」


 確か、ルシアンが言っていた。

 制御魔道具には、『邪な魔力』を制限する役割があると。

 人の敵意や殺意を感知して、常に作動しているそうな。


「逆に言えば、壊されたら最後。帝国にいる悪党どもは、暴れ放題になるんだよ」


 魔神と眷属たちにとって、有利な状況になる。

 ベルマンの狙いは、魔力の使用を自由にすることか。


「アイツに殺意を向ければ、こっちの魔力も制限される。どうだ? すごく便利で面倒だろ?」


 無差別かよ。

 ドヤ顔で誇ることでもないぞ。

 どうやら、道具は善悪を問わないらしい。

 

 ああ、だから魔力の温存をしろと。

 なるほどな。悪感情を抱けば、魔力の無駄になる。

 

「……じゃあ、どうすれば?」


「……今考えてる。お前も何か考えろ!」

 

 フラメアの横顔を見上げていると、キッと睨み返されてしまった。

 慌てて視線を前に戻して、作戦を考えてみる。


 地下空間に広がるのは、何本もの支柱。

 最低限の魔力で、殺意を持ってはいけない。

 その上で、ベルマンを倒す方法か。


 未だに、俺は自分の魔力総量を知らない。

 今日はかなり使ったから、おそらく限界間近という雑な判断だ。

 あと数回、偽装が使える程度だろう。

 

 ……まぁ、こういう作戦くらいか?


「一か八かだけど──思いついたぞ」


 刻一刻を争う。

 フラメアは振り返り、俺の打開案を聞いてくれた。

 

 とりあえず言ってみて、ダメだったら他を考えよう。



 ♦︎♦︎♦︎♦︎



「──いつまでチンタラやってんだ、間抜け」


 ベルマンは鉄扉の前で立ち尽くしていた。

 背後を振り返り、落胆したように肩を落とす。

 支柱に隠れるのをやめた俺を見ても、奴は取り乱さない。

 

「扉を破壊する魔法を考えていたんだ。消費する魔力は極力抑えたい。わかるだろう?」


 あからさまに油断している。

 制御魔道具を壊してからが本番らしい。

 真っ先に魔法を撃ってこないのなら、好都合。


「さあな。あいにく、魔法学の授業は興味ないんだよ」

 

「残念。それで……わざわざ扉を開錠しにきてくれたのかい?」


 俺はいつでも動けるよう身構えた。

 できるだけ余裕を演じろ。

 そうすれば、奴は必要以上に警戒してくれるはず。

 

「これが最後のチャンスだ。()()()()君」


 ベルマンは微笑みながら、確かにそう呼んだ。

 脅迫でもするかように、手のひらを突き出してくる。


「こちらに寝返るのであれば、歓迎しよう。我らが故郷の滅ぶ様を、最前列で眺めようじゃないか」


「……なんだそれ」


 そうか。コイツも、アスタフィア王国のアルタと同じなんだ。

 結局のところ、利用価値でしか考えていないのだろう。

 信用も何もない。拒否すれば、魔法を撃たれる。


「あぁ、死にかけの彼は諦めてくれ。どのみち助からな──」

 

「こっちから願い下げだ!」


 俺は正面に向かって駆け出した。

 奴が反応するよりも速く、距離を詰める。


()()()()!」


 全力で開戦の合図を叫ぶ。

 支柱の後ろから次々に飛来するのは、燃える剣たち。

 

 ベルマンは目を見開いていた。

 奴の足元を炎剣が襲撃し、爆音と煙を生み出す。


 不意は突けた。

 あとは、()()()()()()()()()が一役買うだけ!


「偽装──剣!」


 煙越しでも、ベルマンの姿を捉えている。

 充電切れになったスマホを剣に変え、奴の方へ振りかざした。


「クソ……!」


 不恰好な剣術は当たらない。

 振り下ろした剣は、あっけなく避けられた。


「……まさか、君はフラメア君じゃ──」


 だが問題ない。むしろこれでいい。

 一瞬の油断を誘うことこそが、目的なのだから。


「──火葬方陣」


 彼女の声が響き渡る。

 ベルマンも気づいたようだが、もう遅い。


 俺は足にブレーキをかけ、急いで身を引いた。

 直後、煙を裂くように焔色の光が──


「どわああああッ!?」


 背後で爆風が巻き起こり、軽く吹き飛ばされてしまった。

 

 フラメアの魔力がこもった炎剣。

 目の前で、ゲリラ雨のように降り注いでいる。

 ベルマンのあの様子だと、直撃しているはずだ。


「す、すご……」


 やれと言ったが、やりすぎだろ。

 危うく巻き込まれるところだった。

 

 安易な作戦で、成功するかは正直運任せ。

 奴が俺の偽装に気付けば、そこで打ち切りだったが……。


「……ゲームみたく、簡単にはいかないか」


 煙は晴れ、ベルマンの姿が見えた。

 こちらを睨み、血を流して立っている。

 所々に傷を負っているが、どれも致命傷じゃない。


「でも、防ぐのに魔力を使ったはず。追い詰められているのはアイツも同じ……だよな?」


「自信を持てよ」

 

 本物のフラメアは、支柱の裏から歩いてきた。

 汗を流し、苦しみつつも笑っている。

 

 フラメアへの偽装。

 試してみれば、すんなりと上手くいった。

 他人への偽装条件は、ますますわからなくなったが……。

 

「魔法を撃ってこないってことは、あたしたちに使う用の魔力はほとんど残ってないと見た」


 ベルマンの魔力は残り僅からしい。

 それを知れただけで上々。

 さっきよりも、大胆に近づけるというもの。


「本番はこっからだ──速攻で片をつける」


 作戦、第二フェーズに移行だ。

 俺はフラメアの横へ並び立つ。


 奴が偽装看破を口にする前に、『不意を突きまくり作戦』を完遂させてやる!



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