49話「不意を突きまくり作戦」
あの魔法使いを、いかにして倒すか。
支柱を背に、頭痛で弱った思考を巡らせる。
「偽装、オーバーキャスター。……ダメだな」
一応唱えてはみたものの、黒い霧は出なかった。
偽装を看破された影響だろう。
もう、オーバーキャスターへの変身は期待できない。
この穴を埋める、別の立ち回りが必要になる。
相手は腐っても魔法学の教師だ。
俺を仕留めにきたあの動きは、戦い慣れている証拠。
加えて、どんな魔法が飛んでくるかもわからない。
迂闊に動けば、まず死ぬ。
「──メインを優先させてもらおう」
「は?」
支柱の後ろから、奴の声は聞こえてきた。
落ち着いたトーンに乗せて、聞き捨てならない言葉を吐き捨てる。
「これ以上構っていると、『太陽』の昇る時間に遅刻してしまうのでね」
足音が鳴り、遠ざかっていく。
ベルマンは、俺たちを放置する気なのか?
あれだけ殺す気満々だったのに?
見逃してくれるのなら、とてもありがたいが……。
「……どこまでも、あたしたちを舐めてるな」
フラメアはしゃがみながら、強く拳を握っている。
もはやどうでもいいと侮られた。
そのことに、彼女は憤慨しているらしい。
「アメハル。魔力残量は?」
「……わかんないけど、限界が近いなのは確かだよ」
俺は血だらけの両手を上げる。
頭痛、吐き気、喉の痛み。
風邪の上位互換のようなウザったらしさは健在だ。
満身創痍の自分にできることは少ない。
せいぜい囮になって、奴の注意を引く程度だろう。
「なら、できる限り温存しろ。使い切ったら負けだ」
軍服に付いた汚れを軽く払って、彼女は立ち上がった。
ブロンドの髪を揺らし、支柱から顔を覗かせる。
「ベルマンの優先順位は、本気を出すことらしいからな」
「……というと?」
意図を読み取れずにいると、フラメアは鉄扉を指差した。
「いいか、制御魔道具ってのは抑止力だ。あれがある限り、大規模な魔力犯罪は起きない」
確か、ルシアンが言っていた。
制御魔道具には、『邪な魔力』を制限する役割があると。
人の敵意や殺意を感知して、常に作動しているそうな。
「逆に言えば、壊されたら最後。帝国にいる悪党どもは、暴れ放題になるんだよ」
魔神と眷属たちにとって、有利な状況になる。
ベルマンの狙いは、魔力の使用を自由にすることか。
「アイツに殺意を向ければ、こっちの魔力も制限される。どうだ? すごく便利で面倒だろ?」
無差別かよ。
ドヤ顔で誇ることでもないぞ。
どうやら、道具は善悪を問わないらしい。
ああ、だから魔力の温存をしろと。
なるほどな。悪感情を抱けば、魔力の無駄になる。
「……じゃあ、どうすれば?」
「……今考えてる。お前も何か考えろ!」
フラメアの横顔を見上げていると、キッと睨み返されてしまった。
慌てて視線を前に戻して、作戦を考えてみる。
地下空間に広がるのは、何本もの支柱。
最低限の魔力で、殺意を持ってはいけない。
その上で、ベルマンを倒す方法か。
未だに、俺は自分の魔力総量を知らない。
今日はかなり使ったから、おそらく限界間近という雑な判断だ。
あと数回、偽装が使える程度だろう。
……まぁ、こういう作戦くらいか?
「一か八かだけど──思いついたぞ」
刻一刻を争う。
フラメアは振り返り、俺の打開案を聞いてくれた。
とりあえず言ってみて、ダメだったら他を考えよう。
♦︎♦︎♦︎♦︎
「──いつまでチンタラやってんだ、間抜け」
ベルマンは鉄扉の前で立ち尽くしていた。
背後を振り返り、落胆したように肩を落とす。
支柱に隠れるのをやめた俺を見ても、奴は取り乱さない。
「扉を破壊する魔法を考えていたんだ。消費する魔力は極力抑えたい。わかるだろう?」
あからさまに油断している。
制御魔道具を壊してからが本番らしい。
真っ先に魔法を撃ってこないのなら、好都合。
「さあな。あいにく、魔法学の授業は興味ないんだよ」
「残念。それで……わざわざ扉を開錠しにきてくれたのかい?」
俺はいつでも動けるよう身構えた。
できるだけ余裕を演じろ。
そうすれば、奴は必要以上に警戒してくれるはず。
「これが最後のチャンスだ。フラメア君」
ベルマンは微笑みながら、確かにそう呼んだ。
脅迫でもするかように、手のひらを突き出してくる。
「こちらに寝返るのであれば、歓迎しよう。我らが故郷の滅ぶ様を、最前列で眺めようじゃないか」
「……なんだそれ」
そうか。コイツも、アスタフィア王国のアルタと同じなんだ。
結局のところ、利用価値でしか考えていないのだろう。
信用も何もない。拒否すれば、魔法を撃たれる。
「あぁ、死にかけの彼は諦めてくれ。どのみち助からな──」
「こっちから願い下げだ!」
俺は正面に向かって駆け出した。
奴が反応するよりも速く、距離を詰める。
「火葬方陣!」
全力で開戦の合図を叫ぶ。
支柱の後ろから次々に飛来するのは、燃える剣たち。
ベルマンは目を見開いていた。
奴の足元を炎剣が襲撃し、爆音と煙を生み出す。
不意は突けた。
あとは、フラメアに化けた俺が一役買うだけ!
「偽装──剣!」
煙越しでも、ベルマンの姿を捉えている。
充電切れになったスマホを剣に変え、奴の方へ振りかざした。
「クソ……!」
不恰好な剣術は当たらない。
振り下ろした剣は、あっけなく避けられた。
「……まさか、君はフラメア君じゃ──」
だが問題ない。むしろこれでいい。
一瞬の油断を誘うことこそが、目的なのだから。
「──火葬方陣」
彼女の声が響き渡る。
ベルマンも気づいたようだが、もう遅い。
俺は足にブレーキをかけ、急いで身を引いた。
直後、煙を裂くように焔色の光が──
「どわああああッ!?」
背後で爆風が巻き起こり、軽く吹き飛ばされてしまった。
フラメアの魔力がこもった炎剣。
目の前で、ゲリラ雨のように降り注いでいる。
ベルマンのあの様子だと、直撃しているはずだ。
「す、すご……」
やれと言ったが、やりすぎだろ。
危うく巻き込まれるところだった。
安易な作戦で、成功するかは正直運任せ。
奴が俺の偽装に気付けば、そこで打ち切りだったが……。
「……ゲームみたく、簡単にはいかないか」
煙は晴れ、ベルマンの姿が見えた。
こちらを睨み、血を流して立っている。
所々に傷を負っているが、どれも致命傷じゃない。
「でも、防ぐのに魔力を使ったはず。追い詰められているのはアイツも同じ……だよな?」
「自信を持てよ」
本物のフラメアは、支柱の裏から歩いてきた。
汗を流し、苦しみつつも笑っている。
フラメアへの偽装。
試してみれば、すんなりと上手くいった。
他人への偽装条件は、ますますわからなくなったが……。
「魔法を撃ってこないってことは、あたしたちに使う用の魔力はほとんど残ってないと見た」
ベルマンの魔力は残り僅からしい。
それを知れただけで上々。
さっきよりも、大胆に近づけるというもの。
「本番はこっからだ──速攻で片をつける」
作戦、第二フェーズに移行だ。
俺はフラメアの横へ並び立つ。
奴が偽装看破を口にする前に、『不意を突きまくり作戦』を完遂させてやる!




