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偽装された異世界召喚  作者: 石畑サン輔
第二章 炎と剣
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47話「偽装看破」


 焦げ臭い地下空間へ降りてきた。

 男を殴り飛ばしたのは、その直後だった。


「な、なん──君はだれだ!?」


「ん? あれ、ベルマン先生じゃないですか」

 

 暗がりでよく見えなかったが、その男は魔法学教師のベルマンだった。

 彼がなんでここにいる?

 この異常事態に駆けつけてくれた?

 

「……って、いうわけでもなさそうだな」


 ガイゼフを仲間として接する言動。

 地下へ降りる時に聞こえてきた、あの邪悪な笑い声。

 状況的に、彼が俺の探していた魔神関係者なのか?

 

 予めガイゼフに偽装していたおかげだ。

 ベルマンの警戒心を欺き、俺の右アッパー攻撃はクリーンヒット。

 人を殴れば案外スッキリするという、禁断の発見をしてしまったが。


「……教師に手をあげるとは、どこの生徒だい」


「お互い様でしょ。教師が生徒になにしてんだ」


 ブーメランを正確にキャッチして返す。

 それにベルマンはギロリと睨んできた。


 今は制服姿だが、俺は生徒じゃない。

 勘違いしているのならそれでも構わないけど。


「お前……なんでここに……」


 フラメアはなぜか宙につるされていた。

 俺の登場に心底驚いたような顔をする。

 肩や足から血が垂れ出ていて痛々しい。全部ベルマンにやられた怪我なのか?


「きゃっ──」

 

 見上げていると、彼女を拘束していた闇が消えた。

 その拍子にフラメアの体がこっちへ倒れ込んできて、

 

「おっと。大丈夫か?」


 すかさず受け止め、そっと支えてあげた。

 彼女の顔が肩にのしかかってくる。


「な……離れろッ!」


「ぐへぇ!? つ、突き飛ばさなくてもいいだろ!」


 強く胸を押され、フラメアから距離を取られた。

 露骨に嫌がられると傷つくぞ。

 てっきり動けないほど怪我をしているのかとおもったが、この様子なら肩を貸す必要はなさそうだ。

 

「よくもあたしの前に出てこれたもんだ。あの時のこと、忘れたとは言わせねぇぞ!」


 そう言って敵意剥き出しの構えをしてくる。

 窮地を救った相手にひどい言いようだな。

 なにもそこまで警戒しなくても。


「……あぁ。あの時ね」


 食堂の時を思い出した。

 こうして顔を合わせるのはそれ以来になるか。

 あの時は全力で逃げ回って撒いた。我ながら迂闊な行動だったと反省している。


 そういえば、学園にいる理由を説明していなかったな。

 彼女はきっと誤解したままなんだ。

 俺はまだ『不法侵入した挙句、堂々と高級学食にありつく正体不明の旅人』……?

 

「待て待て! 俺は親切な救援。つまり君の味方なんだ!」


 誰でも警戒するな。そんな奴。

 自分で振り返ってみて、怪しさ満点なことに今さら気がついた。


「証明できる? できなきゃ焼く」


 さらっと言うのだから怖い。

 レイネと似た波長を感じた。

 

「それはぁ……できないけど! ほら、魔神の眷属を倒すためにやってきたんですよ! 誓って正義側!」


「……魔神の眷属?」


 そうだ。ここにいる理由はひとつだけ。

 学園に忍び込んだ目的は最初から決まっている。

 

「帝国で悪巧みを働く輩のこと。──アイツみたいな」


 俺とフラメアは、共通の敵の方へ向き直った。


 魔神を殺すための前段階。

 眷属を倒して力のつながりを断つ。

 そうすれば魔神は弱体化し、討伐がより簡単になるとレイネは言っていた。

 今度こそ当たりであってほしいものだ。

 

「他人に成りすます契術……はは、そうか。クロイツ君の報告にあった『邪魔者』か」

 

 ベルマンはゆっくりと体を起こしていた。

 殴られた頬を撫で、髪を乱雑に掻き上げる。


「眷属であることもバレていると。いやはや、時間をかけすぎた。何事も丁寧にやろうとするのは私の悪い癖だね」


 自分の失態をおかしそうに笑った。

 魔神の眷属であることは隠そうとしていない。

 首に手をかけ、だるそうに回している。


 何をしてくるかわからない。

 だから、細心の注意を払って──


「取引しよう」


「……とりひき?」


 彼はそれを端的に持ちかけてきた。

 何でもない、世間話をするかのような軽さ。

 穏やかなその笑顔は、学園で何度も目にしたものだった。


「君たちを見逃す。代わりに、君たちは制御魔道具を差し出すんだ」


 取引というより脅迫じゃないか。

 殺されたくなければ降伏しろと?

 

「命の保証と交換。悪くないだろう? 私の優しさを、大人しく受け取ってくれると助かるな」


 言い換えれば、最後の警告だ。

 これを断ることは殺し合いの合図と同じ。

 とはいえこの取引が成立するはずもない。


 ベルマンの目的は知らない。

 だが、制御魔道具を守るべきだと直感できた。

 

「……ふざけるな。あたしは許さないぞ。絶対に父上とルシアンの仇を取ってやる!」


 フラメアはそう言い放つと、空中に炎の剣を出現させた。

 メラメラと燃え盛る炎剣。

 餓狼の森で魔物を一掃した記憶を蘇らせる。


 当然、取引は応じない。

 身の危険が晒されるのは承知の上だ。

 じゃないとここに来た意味が……?


 ルシアン? どうしてアイツの名前が出てくる?

 

「うーん、それは賢明とはいえない。馬鹿な弟とそっくりだ」


 ベルマンは呆れた様子で首を振る。

 落ち着いた口調とは裏腹に、嘲るような言い方だ。

 

「っ、それ以上……喋るな……!」


「彼も自業自得さ。クロイツ君に余計な火をつけたからね。そのせいで悲惨な末路を辿ったのに、姉弟揃って滑稽なのはどうなんだい?」


 あからさまな挑発だった。

 そして、思い至るエピソードがある。

 悪いがルドに火をつけたのは俺だ。

 それに、


「なあ。なんで勝手に殺してるんだ?」


「……うん?」


 俺は一歩前へ踏み込み、待ったをかける。


「ルシアン死亡説を唱えるのは勝手だけどな。確定させるにはまだ早いだろ」


 まるで過ぎたことのように話していたものだから、つい口を挟んでしまった。


「ど、どういうことだ? ルシアンは生きてるのか!?」


「ルシアンには頼もしい護衛がついてるんだよ。上手くいけば返り討ちにしてる……はず」


「本当だな!? ほんとうに……!」


 泣く子も黙る雷少女──レイネさんを舐めるなよ。

 剣士斬りが襲来したら、彼女が戦ってルシアンを守る。

 負けたらおしまいだ。幸運を祈るのみ。

 

「ところで君は、誰なのかな? 目障り極まりないのだけど」


 眉間を寄せ、ベルマンは心底嫌そうな顔をした。

 彼にとって俺は『邪魔者』らしい。

 だったら邪魔するしかないだろう。

 

「偽装。オーバーキャスター」


 こういうのは初手で決まる。

 俺の場合、二言口にするだけだ。

 アイツに代わってしまえば全て解決するのだから。

 

「取引は、同じ土俵に立ってからやるもんだぜ」

 

 黒霧が現れ、新しい体はすぐに馴染んでいく。

 契術の反動はない。むしろ好調だ。

 通常通り機能し、魔力とおもわれる光が溢れる。


「たった今──対等じゃなくなった」

 

「なっ!? お前は、手配書にあった顔の……!?」


 その過程を見ていたフラメアは、目を見開き、たじろいでいた。


「……驚いた。白い髪と青の瞳。まさかクロイツ君が戦ったという、騎士紛いの男かい?」


「ご名答。同一人物だよ」

 

「なるほど。どうりで探しても見つからないわけだね。そうやって姿を変えながら過ごしていたとは」


 反対に、ベルマンは口では言いつつも、さほど驚いてはいなかった。

 冷静に見定めるような目を俺に向けてくる。


「もういいだろ。お前は俺にやられて、終わりだ」


 グダグダとやるつもりはない。

 腰の剣に手をかけ、すぐに抜けるよう構えた。


 ベルマンは魔法使いだ。

 魔法を使うには、まず詠唱する。

 アルタか、ヴェルトか、エルダか。


 どれを使うにせよ、予備動作が必要だ。

 俺が動くべきはそれを見せた瞬間だろう。

 

「偽装……つまり君のその姿は、ハリボテというわけか」

 

「あァ?」


 ベルマンは顎に手を当てて、笑みを浮かべた。


「どうだろうな。確かめてみるか?」


()()如きが偉そうに。契術を自分の才能だと思い込むその傲慢。本物の魔法をもって、気づかせてあげよう」


「ハッ! 上等。叩き潰してやるよ」


 先手必勝だ。魔法を使う前に動けばいい。

 そうやって無駄話を続けていろ。

 侮ったことがお前の敗因になる。

 

 地面を踏み締め、俺は剣を引き抜こうとして、


「は?」


 その瞬間。


 違和感が身体中を駆け巡った。


 

 ──偽装が解けた。


 

 何が起きたのか理解できない。

 視界には、また黒い霧が見える。

 俺の姿は元の制服姿に逆戻りしていた。

 

 力のない一般人、曇雨晴に。


「……え?」


 意味がわからない。

 オーバーキャスターはどこにいった?

 俺の契術、俺の経験値が見当たらない。


 引き抜こうとしていた剣は消失した。

 鎧とマントも消え、湧き上がる力を感じない。

 敵に対抗する術が、この一瞬ですべて無くなっている。


「あ」


 頭が真っ白になり、あらゆる細胞は硬直した。

 

 そんな明らかな隙。

 

 ベルマンは動いていた。

 

 俺が困惑していた間に、魔法を発動させたらしい。


 鋭利な石礫(いしつぶて)が、高速で迫っていた。

 


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