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偽装された異世界召喚  作者: 石畑サン輔
第二章 炎と剣
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41話「透明の明瞭化」


 超高速移動、ってわけじゃない。


 単に奴は見えなくなったんだ。

 すぐに攻撃が来ないこと、それが証拠だ。


 透明化する契術……そんな風にガイゼフは言っていた。

 とすると、まだこの場にいる。

 

 どこだ。


 どこにいる、探せ。


 暗闇の夜じゃない。

 周りがよく見える朝だ。


 感覚を研ぎ澄ませ。今の俺ならそれができる。


「──いや、探さなくとも」


 風がなびいた。


 かすかな音がした。


 わずかに地面の土が舞ったのを、見逃さなかった。


 あとは直感だ。


 俺は自分の手を、首筋より前へ持っていく。


 手のひらに──激痛が走る。


「ビンゴ……!」


 見えない何かが貫いてきた。


 血は流れ、透明なそれに滴る。


 ガイゼフの剣だ。


 その勢いを殺し、逃がさないように掴む。


「ば、バカな!?」


「いってぇ……小賢しい契術、使いやがって」


 目の前から声が聞こえた。

 姿は見えないが、確実にそこにいる。

 驚いているようだな。俺がお前の剣を防いだことに。


「完全に気配を消したはずだ! 察知できるわけが……」


「半分は勘さ。前に俺の首筋を狙ったろ、それに賭けた」


 ルシアンとの模擬戦で、最初に狙われた箇所がそこだった。

 オーバーキャスターの鎧部分を省き、息の根を止められる急所。

 あとは右か左かの問題。


 だから、運に頼った。


「バカな……ふざけるなッ!」


 ガイゼフは激昂した声をあげる。

 

 不意打ち前提な契術。

 それを初見で破られて、かなりご立腹みたいだ。

 

「この俺ならできるんだよ。そもそもステージが、違うってことだ」


「き、貴様は、一体……!?」


 この痛み、オーバーキャスターじゃなかったら多分耐えられなかった。

 偽装を解いたら元通りに直るのが救いだな。


 剣は離さない。

 必死に俺の手から引き抜こうとしてくるが、させるかよ。

 筋肉を固定し、ガイゼフを逃がさない。


「──覚悟はいいな」


 俺は全身で地面を踏み込んだ。


 持っている剣を外へ向かせ、薙ぐ準備をする。


「クソ、離せッ! こんな小僧にやられるわけには……!」


 お前こそ、その剣を離すなよ?


 剣士としての矜持。

 それがまだ残っているのなら、避けずに食らってくれ。

 罪の重荷がちゃんと乗っているか、確かめよう。


「やめろ止せ、太陽を受け入れるのだ──」

 

 なにかを言いかけたところで。


 ガイゼフの剣がふっと軽くなった。


 刹那の時。


 奴の剣が刺さった左手を引き、右手を前方に払う。

 

 虚空を斬った。


「がはぇ…………ッ!」


 見えない何かを薙いだ手ごたえ。


 目の前の地面が大きく振動した。


「じゅ、純粋な力……魔力も、使わずに、魔力で強化したわた、しを……」


 すると空間が歪み、ガイゼフが現れた。


 腹を斬られ、戦闘不能のようだ。

 空を仰ぎながら倒れている。


「負けた、な……だが……いずれにせよ、太陽は……昇る」


「さっきから太陽太陽って、なんだよそれ」


 俺は手に刺さった剣を取り除いた。

 

 相手は人でなしだ。

 同族を意味もなく殺してきたクソ野郎。

 だがこの手順を毎回踏むというのは……気分が沈むな。


 とはいえ、これで魔神と眷属のつながりを断つことができたのか?


 お騒がせの剣士斬りを倒したんだ。

 手柄も手柄、英雄的行為だろう。


 黒い炎を使わなかったし、案外楽に──。


「……待て。おかしいぞ、お前」


 ふと疑問がよぎった。


 まったく違う契術を、2つ同時に持てるものなのか?

 

 コイツは透明化の契術だった。

 あの黒い炎の契術を、使う素振りすら見せなかった。

 

 それに、剣士斬りとは初対面じゃない。

 あの夜に、一度戦って逃げられたんだ。

 オーバーキャスターの姿も見られている。

 

 だとしたら、さっきのガイゼフの反応はなんだ?

 まるで初めて俺と対峙したみたいに……。

 

 振り返ってみると、色々おかしい。


「は、はは! はははははは! 今さら、気づいたか!」


 ガイゼフは血を流しながら笑っていた。

 両目を見開き、空に向かって口を開けている。


「……お前」


「すでに剣士斬りは継承された! 最も新しく少々荒い弟子だったが、他の弟子の誰よりもその素質があった! やはり真剣で人を斬らせるに限るッ!」


 急に元気を取り戻したみたいに、ぺらぺらと。


 継承された? 素質のある弟子だって?


 つまり──。

 

「ああ、ガラティーン様。あなたの眷属になれず本当に残念ですが、どうか! この帝国に、黒き太陽を──!」

 

 ガイゼフは事切れた。

 

 気味の悪い笑みを浮かべたまま、動かなくなった。

 最後まで気分の悪い奴だ。

 ガラティーン、それが魔神の名前か?


 いやそれよりも。


「剣士斬りがコイツ以外にもいて、コイツは眷属じゃない……?」


 じゃあ、その剣士斬りは今どこにいる?


 胸のざわつきが加速した。

 落ち着け、心を冷静に保て。


 ルシアンの読みが当たったんだ。

 だからこそ、レイネたちは待機している。


「クソ……無駄な時間過ごしたな。無視してよかったのかよ」


 剣をしまいながら、損した気分を味わった。


 俺たちが予想していた剣士斬りの正体。

 最有力候補はガイゼフ。

 その他に、もう一人疑わしい奴がいる。


「レイネたち、大丈夫だろうな? 正解なら、そっちに行ってるとおもうけど」


 ルシアンを狙った理由も納得というか。

 俺のせいであってほしくないという気持ちもある。

 

 うーん、まあその辺もアイツらに任せよう。


「……いくか」


 次の目的地へ急ぐとする。


 オーバーキャスターのまま、道場を去った。

 師範は死に、最後まで弟子は誰も出てこなかった。


 静かな朝。

 そして小鳥がささやく無人の道場。


 俺は手のひらを押さえながら、学園へと向かった。


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