表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
偽装された異世界召喚  作者: 石畑サン輔
第二章 炎と剣
40/49

39話「大掃討」

この回は主人公視点ではありません


 早朝といえど、軍事司令館は可動している。

 時間は関係ない。

 どんな事態にも対応するため、当然の体制だ。


 特にこの3日間は、緊張感が増していた。

 皇帝勅令が発されてから、2日。

 残る1日で、帝国を脅かす存在を排除しなければならない。

 

「……あとは東と西、か」


「予想はしていた。やはりといったところだな」

 

 総司令官のクロイツと、元帥のバルドル。

 

 ふたりは武装した状態のまま、地図内の帝国を見下ろしていた。

 数人の部下を背後に従わせ、指令室で現在の状況を話し合う。


「剣士斬りは結局なにがしたかったんだ?」


「目的がなんであれ、帝国の敵は排除せねばならん」


 軍はこの数日で、帝国に在する者たちの身分証明を片っ端から行っていた。

 北と南地区はすでに終え、本命は残る地区に絞られている。


「最も黒に近い容疑者は──ガイゼフ。以前から疑ってはいたが、証拠がなかった。弟子たちのアリバイも完璧で、捜査は保留となった」


「疑いはあるのに綺麗すぎる。……それが怪しいってもんだ」


 バルドルは鼻を鳴らし、足を造作に組んだ。

 椅子に頬杖を立て、地図を睨む。


「だが最近になって、剣士斬りは再び頻繁に現れた。隠す気がなくなったかのように。今までの被害者の傷跡は、ガイゼフの剣筋と酷似している」


 クロイツは資料をめくる。

 そこに載せられた被害者の絵は、どれも剣撃による殺傷として描かれていた。


「そして最後の決定打が──」


「ルシアン・フォン・シュタインですね?」


 指令室の扉が開き、遅れて姿を現したのは軍隊長のレオンだった。

 涼しい顔でクロイツの話に口を挟む。


「レオン、また遅刻か……」


「道場の模擬戦で、ガイゼフは彼を執拗に打ち据えました。その夜、シュタインは剣士斬りに襲われている」


 レオンは遅刻に詫び入れる様子もなく、話を続ける。


「あ? おいレオン、そんな報告知らないぞ。シュタインって、フラメアの弟が標的にされたのか?」


 バルドルは驚いた表情で姿勢を前に起こした。

 

 反対に、レオンは穏やかに微笑んで答える。


「おや、上手く伝達されていないようですね。残念です」


「それはどういう……」

 

「あとにしておけ。そもそもが妙だ、剣士でもないあの次男がなぜ標的に?」


 バルドルを無視して、クロイツは冷静にレオンへ問う。

 

 レオンはすぐにその結論を出した。


「単に気に入らなかったんでしょう」


「……は?」


 剣士斬りがルシアンを狙った理由。

 そんな単純なものだと聞かされて、バルドルは理解を拒んだ。


「逆恨みです。模擬戦で、シュタインはガイゼフの左頬を殴っています」


「ちょ、ちょっと待て……それだけで標的ってのは」


 バルドルはあまりに急ぎすぎた話だと否定しようとする。

 剣士斬りの今までの標的は、まず剣士であること。

 それをただの癇癪で、方針をいきなり変えるものなのかと疑っていた。

 

「彼らの間には並ならぬ確執があるようでしたから。そうでしょう? クロイツ総司令官。よくご存知ですよね」


 レオンに名を呼ばれたクロイツの眉が、わずかに動く。


「……」


 クロイツは何も答えず、黙る。

 

 その沈黙を破るように、扉が乱暴に開かれた。


「ほ、報告しますッ!」


 血相を変えた伝令兵が、息も絶え絶えに叫ぶ。


「帝国全周囲に、魔物の大型コロニーが大量に出現! 警戒レベルは4を突破、緊急の大掃討要請ですッ!」


「な、なんだと!?」


 バルドルは椅子から立ち上がる。

 ありえないとばかりに焦りを露わにした。


「まだ周期はきていないはずだ! こんな大事な作戦の最中に、レベル4だと!?」


「総司令官」


 そんな中で、レオンは静かに呼びかける。


 クロイツは一瞬だけ目を閉じ、すぐに決断を下す。


「あぁ。ただちに第1から第8までの兵士隊を帝国外郭壁へ招集する。警護専門を除いて、大掃討を開始せよ」


「なっ!? 待てクロイツ!」


 バルドルはその決断に異議を唱えた。

 クロイツの近くに歩いていき、声を張り上げる。


「そんな数の兵士を割いたら、壁内の剣士斬り対策が手薄になっちまう!」


 剣士斬りだけではない。

 未だに行方の知れない、白い凶悪指名手配犯。

 予定していた東西地区の仕事を先送りにしてしまう。


 また被害が出るのを避けるため、人員の振り分けを考え直せ。

 バルドルはそう訴えようとした。


 クロイツは彼に、憐みの目を向けていた。


「バルドル元帥。これは()()()()()()様の指示だ、逆らうことなどできまい」


「なにを──」


 次の瞬間。


 突如として、銀閃が走った。

 

 バルドルの胸から、赤い血が吹き上がる。


 完全なる不意打ち。


 安全圏内での、容赦ない奇襲。


「が、あ……レ、オン……!?」


 剣を握っていたのは、つい先ほどまで涼しげに笑っていた男だった。


「心置きなく死ぬといい。貴様も炎の薪となれ」


 声色が変わる。低く、指令室に響く。

 

 レオンという男の面影はない。

 バルドルへ冷酷に言葉を吐き捨て、剣を引き抜いた。


「すでに軍は我のものとなった。指揮権は我の手にあり、下す命令は──帝国の虐殺だ」


「おま、え……は、だれだ……ッ!」


 血を流し、床に倒れたバルドル。

 最後の力を振り絞って声を出す。


 部屋の壁際に並んでいた兵士たちは全員、呆気にとられていた。

 その間にも、レオンだった男の姿が変容していく。


 炎の渦が巻き起こる。

 

 それに包まれた男の髪や目の色、顔つきは次々と違うものへ。


 赤黒さが混じった金髪。

 漆黒の鎧に覆われた、戦士のような体躯。

 

 その手に持つ剣は、意思を持つように禍々しい光を放つ。

 

 赤、金、黒。

 3つが入り混じった狂暴な気配は、その場にいた者の動きを停止させた。


 

「剣の神にして太陽の化身。名を──ガラティーン」


 

 炎が静まり、顕現する。


 堂々たる名乗りによって、兵士たちはようやく正気を取り戻した。


「この国に太陽を呼ぶ。帝国の全区域に通じる通路、および壁門を封鎖しろ」


「御意」


 クロイツは彼に跪いた。

 

 周囲の兵士たちは武器を取り出す。

 魔法を使うさえ、ためらわない。

 

 目の前のふたりを……帝国の敵だと認識した。


「──大掃討、開始だ」


 兵士たちは意を決して、戦いに身を投じた。

 自分の命を顧みず、声にならない咆哮を上げる。

 彼らのその行動は、この国と皇帝への忠誠心そのものだった。


 たとえ、無慈悲に蹂躙される運命であったとしても。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ