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偽装された異世界召喚〜喚ばれて早々用済みになった俺は、最強の偽装能力で魔神に復讐する〜  作者: 石畑サン輔
第二章 炎と剣

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37.5話「魔道具」

ちょっとした番外編となります

 

 カルヴェルム帝国の皇帝。

 彼は数日間の自粛命令を言い渡した。

 納得する暇もなく、ガチャリと放送は切られた。


 威圧感のある、厳格な人という印象だった。

 魔神たちへの宣戦布告とは恐れ入る。

 

「陛下自ら勅命を下されるとは……よほどの事態らしい」


 放送を聞いたルシアンが、深刻な面持ちになる。

 

「そうなのか?」


「鉄壁の帝国だぞ。ここまでの警戒令は聞いたことがない」


「鉄壁、ねぇ」


 正直言って、帝国の警備はかなり甘いと思う。

 実際俺たちは侵入できてしまったわけで。

 簡単に潜り込める点は否定できないよな?


 敵側も、もしかして俺と同じなのか?

 隠密に長けた能力を持っているのかもしれない。

 

「白い騎士モドキもいる。陛下の勅令はもっともだ」


「し、白い騎士モドキ……?」


 心当たりしかないネーミングが出てきた。

 それって、オーバーキャスターのことだよな?

 目線を逸らさず、知らないフリをする。

 

「知らないのか? 魔神の他に、アスタフィア王国を荒らした大犯罪者がいるらしい」


「へ、へぇ……おっかないな」


 ティーカップを持ち、紅茶を嗜んだ。

 自分がその人だってことは教えない。

 フェイルノートめ、まったく面倒なことしてくれたよ!


 レイネがジト目で俺を見てくる。

 無視無視、あー紅茶美味しい。


「そうだ。帰る前に、店内を見ていくといい」


 ルシアンはソファーから立ち、入り口へ歩いていった。


「ここには魔道具が豊富に揃ってる。戦うのであれば、多少の準備は必要だろう」


「ほう、魔道具」


 ハルトライン商会の話は前に少し聞いたな。

 世界屈指の商業組織だったか?

 

 確かに、契術以外は丸腰状態で心もとない。

 役立ちそうな物があれば買ってもいいかもな。

 ただ一つ問題がある。

 

「でも俺、お金は──」


「貸さないわよ? 今は手持ちが少ないから」

 

 紅茶を口へ運んでいたレイネは、俺が言う前に割り込んだ。

 別に貸してくれなどとは言っていない。

 まぁ、結論から話せばそうなるけれど。


 どうにかして、働ける収入源を見つけなきゃな。

 いつまでも文無しは、流石に不便で動きづらい。

 ルシアンからの援助頼りというのは、申し訳なさが勝ってしまう。


「大丈夫だ、会長は出世払いでも許してくれる。ほら、一度挨拶に行くぞ」


 俺は客室から出て、ルシアンについていった。


 商会の廊下を横並びで歩く。

 来た時も思ったが、煌びやかで清潔だな。

 外観に気を使っていて、好感が持てる。


「会長って、どんな人なんだ?」


「会長とはそこそこ付き合いが長くてな。詳しい事情は話さなくとも、快く俺を匿ってくれた」


 ルシアンは学園にいない間、ずっと商会にいたようだ。

 剣士斬りに狙われているのだから、当然ではある。

 その会長という人は、相当心が広いらしい。

 

「おぉ、ルシアン。今日はお帰りかなぁ?」


 ハルトライン商会の中央ホール。

 そこに、何やら見たことのある人物が立っている。

 彼は親しそうにルシアンへ話しかけた。


「紹介しよう。友人の、ケイリー会長だ」


 ケイリーと呼ばれた、丸々とした中年の男。

 間違いない、帝国の門前で印章を落とした商人……!


「おやおや? 君は──あの時のいい男では!?」


「ど、どうも」


 あっちも俺のことに気が付いたようだ。

 大口を開けて笑う姿は、入国日のことを思い出す。

 まさか、ハルトライン商会の会長だったとは。

 

「なんだアメハル、初対面じゃないのか?」


「アメハルというんだね? いやぁよく来てくれた。まさかルシアンの友人だったとは!」


 ケイリー会長と握手を交わす。

 ブンブンと肩を揺らすほど、力強く握ってきた。


「何をお買い求めかな? もちろん魔道具だろう! 君になら3割、いや4割引きで対応しても構わない!」


「は、はぁ……」


 とんでもない熱量に圧倒されてしまう。

 そこまでのことをしただろうか?

 むしろ、会長の印章を勝手に偽装したことを謝りたい。


「戦闘に役立ちそうな魔道具が──」


「ふむ、戦闘向けだね? ついてきたまえ、我らのとっておきをお見せしようではないか!」


 俺が言い終わる前に、豪快な笑いが響き渡る。

 背を向けたケイリー会長は、早足で階段を上がっていってしまった。

 

「随分、気前の良さそうな人だな」


「実際そうではあるのだが……今日はやけに機嫌が良いぞ……?」


 俺とルシアンは、商会の2階へ赴いた。

 オープンになっているコーナーが目につく。

 足は止まり、思わず体が硬直した。


「──おお!」


 そこには、絶景が広がっていた。

 博物館のように展示された、魔道具の数々。

 部屋の端から端まで、全部ファンタジーのアイテムだ!


「店じまいは喜んで延長しよう、気が済むまでご覧あれ!」


 どうしよう、ものすごく興奮してきた。

 ゲーマーとして興味がないわけがない。

 異世界のアイテムとか、昔から憧れていたんだ!


「これ、全部魔道具なのか!?」

 

 不思議な模様の壺や、妙に輝いている外套。

 用途不明の箱に、怪しくも惹かれる巻物まで!

 部屋を見渡してみたが、どれにしようか迷う……!


「具体的に欲しい物はあるのかな?」


「緊急時に使えるようなヤツが欲しいですッ!」


「よし。では専門家の私がオススメを紹介してあげよう!」


「ぜひお願いします!」


 波長が同じなのか、俺と会長は笑顔で向き合った。

 会長のオススメなら信用できる気がする。

 順番に魔道具を見ていくとしよう。

 

「まずはこれだろう。『魔力貯金の指輪(マナ・バンク)』!」


 最初に案内されたのは、ショーケースにある指輪だ。

 覗き込むと、指輪には小さな赤い宝石が付いている。

 一見、綺麗なだけの指輪だと思ってしまうが……


「これを付けて魔力を流すと、あら不思議。自分の魔力を指輪に貯蓄できる。いつでもどこでも取り出せて、緊急時にぴったりだ!」


「へぇ……!」


 つまり、魔力の予備が作れるのか。

 確かに便利だな、汎用性が高い。

 魔法使いたち御用達の商品だったり?


「いかがかな?」


 手をニギニギと揉んでいるケイリー会長。

 一個持っておくだけでも、長く活用できそうだな。

 俺はとりあえず、これを買う事を検討して、


「やめておけ、そこまで便利じゃない」


 ルシアンに指輪を非推奨された。

 腕を組み、会長の方を睨んでいる。


「着けている間も魔力は吸われ続けるからな、結果的に変わらん」


「え」


「おっとルシアン。ウチの商売に口を出すとは感心しないねぇ」


 ケイリー会長は欠陥を否定しなかった。

 着けている間も魔力が吸われる?

 魔力を取り出す時に手数料がかかるのか?


「魔力を維持するにも魔力が必要という欠点があってだね、中々不評で困ったものだよ」


 サラッと人気がないことを白状された。

 おい、俺から目を逸らすんじゃない。

 ルシアンが話すまで、隠し通すつもりだったわけじゃないだろうな?


「……えっと、指輪はいいかな」


「それなら次は、『彗星外套(ステラドライブ)』なんてどうだろう!」


 会長は流れるように次の魔道具へ手を向けた。

 視線を誘導されたのは、壁にかけられた光る外套だった。

 

「自らが星の光となって突進できる優れもの。咄嗟の回避や不意打ち、相手の攻撃を突き破って進むことができる!」


「おぉ、いざとなった時は役立つかも」


 危ない時に使えば、敵ごと吹っ飛ばせるってことか?

 突破力があれば助かる場面は多くなる。

 俊敏性も上がるとなお良し。


「一応聞きますけど、デメリットは特にないんですか?」


「……えぇ、もちろんですとも」


「ちょっと?」


 何で一瞬黙ったんだ。

 怪しいから聞き返すと、会長はわざとらしい咳払いをした。


「強いて言うなら、一度発動すると何かに激突するまで止まれないだけですがな」


「致命的じゃないすか」


 ブレーキないのかよ。

 それで大怪我すれば、元の子もないだろうに。

 ちょっと買う気にはなれないな。


「お気に召さないか。それならば、『蒼常断絶剣(マルリウス)』はどうかね!?」


「……段々適当になってません?」


 若干投げやりなオススメだが、仕方なく顔を向ける。

 青色の装飾が施された、大きな剣があった。


「これも魔道具なんですか?」


「少し毛色は違うがね、なんと世にも珍しい意思を持つ剣! 持ち主の動きを最適化し、確実な勝利をもたらすとか!」


 自動戦闘ができると?

 もし本当なら、とても魅力的だ。

 自分で考えなくても戦ってくれるということだろう?

 

「……それで、欠点は」


「対価として血を吸われる。致死量を構わずな」


「とんだ呪いの剣じゃねぇか! おいおい、ろくでもない魔道具しか置いてないのか!?」


 敬語を忘れて、ついに苦情を叫んでしまった。

 オススメされる魔道具にまともな代物がない。

 平然と買わせようとしてくる店長の図太さも驚きだよ。

 

「今日の一押し商品は売れてしまってねぇ。在庫が残っていないのだよ」


「先に言えよ……あんた、俺に在庫処理させる気だったのか?」


 見渡す限りの魔道具、これは全て売れ残りだったらしい。

 言われてみれば、すでに日は沈んでいる。

 店じまいの直前だから、当然といえば当然か。


「おっとそういえば。まだ手頃の魔道具が余っていることを思い出しましたぞ」


 突拍子もなく、ケイリー会長は手をポンと叩いた。

 ニコニコとしながら、ルシアンの方へ振り返る。

 

「ルシアン、倉庫にある『持続焼香(スタミナトロン)』を持ってきてくれ」


「ん……? え、俺が持ってくるのか?」


 なぜか指名されたルシアンは、怪訝な顔で腕組みを解いた。

 その仕事って、商会のスタッフにやらせるものじゃあ……?


「倉庫の側にいる従業員に言ってくれればいい。私はアメハルに、さらなるオススメを教えなければならんのでな」


「……まぁいい。わかった、少し待っていてくれ」


 断るのも面倒なのか、ルシアンは渋々倉庫の場所へ向かった。


「さて、アメハル。改めて礼を言わせてほしい」


 突然、ケイリー会長が畏まる。

 彼は真剣な顔で、俺に頭を下げてきた。

 

「ちょ、いきなりどうしたんですか?」


「最近、あの子の顔色が良いんだ。君のおかげなんだろう?」


 顔を上げて、会長は俺の目を真っ直ぐ見てくる。


「魔法の成績が振るわないことは前から聞いていた。しかも二年前には、不幸な事件で父親を亡くしていてな」


「お父さんが……?」


 それって、ルシアンを追放したっていう父親?

 初耳だ。もう亡くなっていたのか……。


「ルシアンも相当つらかったはずだ。だが、新しくできた友達のおかげで元気になってきたと話していたよ」


「そんな、俺は別に──」


 ルシアンに対して、何かした覚えはない。

 学園へ潜入するために、仲良くしているだけだ。

 

 むしろ逆だ。

 感謝するのは俺たちの方だろう。

 屋敷に制服、お金の貸しと食事。親切すぎる待遇を受けている。

 

 優しさに付け込んでいないとは、言い切れない。


「大した事してないです。まだ付き合いも短いですから」


 頭をかきながら、苦笑してしまう。

 

「でも俺、友達少ないんで……ルシアンと話すのは普通に楽しいですよ」


「……そうか」


 嘘偽りない本心だった。

 それを聞いたケイリー会長は、柔らかに微笑んでくれた。



 数分後、売れ残りの変な魔道具を紹介されていると。

 ルシアンが手に魔道具を持って戻ってきた。


「持ってきたぞ。最後の1つだったらしい」


 差し出されたのは、筒状の箱。

 スタミナトロンという名前らしいが、どういう魔道具だ?


「受け取ってほしいアメハル。お代はいらない」


「え、ほんとに? いいんですか?」


「あぁ、私からのサービスだ」


 会長のお言葉に甘えて、その魔道具を受け取った。


持続焼香(スタミナトロン)を焚けば、数日程度なら睡眠を削って活動できる。安心したまえ、そのツケは後でまとめて寝れば済む話だ」

 

 焚く、か。村の宿屋で大爆発した時を思い出すな。

 体力の前借り程度なら、結構使える魔道具かもしれない。

 夜中の作戦時に、効き目があるかどうか確かめてみよう。


「ありがとうございます」

 

「ところで、あの赤髪の嬢ちゃんは君の恋人かい?」


「……はい?」


「えらく美人さんじゃないか」


 後ろを振り返ると、レイネがこっちへ歩いてきているのがわかった。

 すると会長はいきなり肩を掴んできて、こっそりと小声で囁いてくる。


「いやなに。色々やることがあれば、それを焚くのもありということさ……!」


「………………な、なに言ってんだ違うわ! やめてくれ、はっ倒されるぞあんた」


 言葉の意味を理解するのに時間がかかった。

 ケイリー会長の気持ちの悪い笑みで、ようやく察してしまう。

 

 もちろん嫌いではない。好みですらある。

 だが決してそういう関係ではないし、今はそんなことを考えている場合でもない。


「そう? まぁ上手く使いたまえ。これからもどうか、ハルトライン商会をご贔屓に!」


 ガハハと笑う会長に、俺は強く背中を叩かれた。

 最後に印象をガクンと下げてきたな。

 魔道具を無償で譲ってくれたことだけは、心から感謝しよう。


 こうして作戦会議を終え、俺たちはハルトライン商会を後にした。

 明日からの戦いに備え、俺は貰った魔道具へ火を灯した。



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